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まるます家

ちょっといいことがあったので、ひとりで祝杯を上げようということで赤羽まるます家へ。
やはり明るいうちから呑むならここが楽しくて好き。
ちょっと豪勢に、イチゴーの白焼きなど頂こうかと。いつもはイチサンなんだけれど。

店の外にはみ出す行列は十数人、1人なのでわりかし早く入れてもらえた。右サイドのこの時カウンター鉄柱の席。
早速ジャン酎にモヒートセット。
まるます家といえば、これ。
ハイリキの1リットル瓶に、ラップの小皿に用意されたミントの葉っぱとライムの欠片。これで非常に気分よく酔うことができる。

一人静かに呑んでると、4、5人くらいの団体でやってきた客をうまく押し込めるために、お姐さたちにしょっちゅう席を移動させられるのだけれど、それもこのお店の味なので。比較的無理を言いやすいと思われているのか、「オニーサン、今度こっち」「次こっち」と都合よく動かされる。別に嫌ではない。

この日のサービス品は鯵の刺身。これをつつきながら筒井康隆『家族八景』を読む。スポーツ新聞開いて昼間っから呑んでるオッサンたちに挟まれて。

いわゆる「七瀬三部作」と言われる筒井康隆の超有名シリーズだけれど、「シリーズ」と一言でくくってしまうには、火田七瀬というテレパス(精神感応者)が主人公であるという設定以外は、基本的にまったく趣向の違う三作だと個人的に思っている。

『家族八景』では七瀬が自らの能力を隠して生きていくために住み込みのお手伝いさんという生業を選ぶわけだけれど、その不自然さというかそういう生き方しか無い、と思い込むところにある種の頑固さと彼女の不明を感じるが、それ以前に今の若い人たちに「お手伝いさん」が家族に突然闖入してくるというシチュエーションって分かるんだろうか。

七瀬シリーズでは、テレパスである彼女に流れ込んでくる意識の奔流は、実際のセリフの後に括弧でくくって描写される。

「いいんだ。でかい方がいい。それで飲むから」と、潤一がいった。(きいた風なことをいうな。おせっかいの馬鹿女め)
叡子はにやりと笑った。(ふん。いい格好してさ。アル中)
久国も、にやりとした。「いやにナナちゃんにやさしいじゃないか」
(どうして、そういうことだけにぴんぴんくるんだよ。このエロ爺)「ぼくは、すべての女の子にやさしいんだ」(手前の情婦にだって、やさしくしてやってるんだぞ。この老いぼれ)

こういう脳内イメージが怒涛のように流れ込んでくるというのはさぞかし大変なことだろうなぁ、と思う。能力者としていわばベテランの域に達する七瀬さんは、いわゆる「掛け金をおろす」ことで遮断できたりするわけだけれど、そういうテクニックがなければとてもじゃないが耐えられなさそう。

妙齢のお姐さんたちで営業されているまるます家さんですが、ひとりだけカウンター内に若い女性が独特の雰囲気で接客されていまして。ひそかに心のなかでまるます家の蒼井優と呼んでいたのですが、その彼女に隣のコの字のカウンター内から

「(カウンターの)下拭いてないから拭いてくれる?」とお姐さん。それに

「もー、びしょ濡れ!」と蒼井優ちゃんが答えるのを聞いて、なんか興奮して里芋の唐揚げを床に落としてしまう。我ながら頭おかしい。もしこんな頭の中身が漏れてしまったとしたら、もう、それはそれは。

このシリーズを通して読んでいて思っていたのは、そもそも、こういう人間の脳内のイメージってのはしっかりと「言語化」されているものなのだろうか、という根本的な疑問。
ストーリーの中で、日本語で流れてきたので相手は日本人である、と七瀬が判断するシーンがあったので、要するに基本的には言語化されているということなのだろうけど(ヘニーデ姫辺りでちょっとその辺りが微妙になったが)、もっともっと普通の人って漠然とした感情とか、ネガティブなイメージだけとか、抽象的な概念とか、そういうもので頭の中はあふれているのではないかなぁと個人的に思っていた。
まあ、だからこそそんなのが他人様に流れていったのではたまらんのですが。

なんかもう一品頼もうかな、と壁のお品書きを眺めると「もずく酢」の下に「体にいいよ」とか、「ほや塩辛」の下に「珍味よ」などと一言コメントが書いてあって妙に可愛いい。

騒がしい店内で「スミマセン、これお代わりお願いします」と、蒼井優ちゃんに何度も言っているのにぜんぜん聞いてもらえず、しまいにはあのソプラノボイスで

「おきゃくさん、お酒は三杯までですから」と冷たい目であしらわれることを

「アウトオブジャン酎」と名付けようと思うのだがどうでしょう。ちなみにジャン酎はおひとりさま一本までです。

それにしても登場する男性が七瀬を前にして考えることというのがあまりにも画一的で可笑しくなってしまう。やはりそういうものなのかね。
つまりどっかに連れ込んで、裸にして、変な格好をさせて・・・云々。
もうちょっとなんか無いのか(笑)

締めに頼んだドジョウの卵とじ。

熱々の土鍋で運ばれるこれを、狭いカウンターの上の何処に置くか、と言うハナシになって、じゃあこの辺に・・・と適当に言うと、「そんなところに置けるわけないでしょ!熱いのに!」と強面のお姐さまに怒られる。
スミマセン・・・としょぼんとすると、空いたお皿や小皿などを手早く下げてくれて、ホラ!これでいいでしょ!っとニッコリ。
いやぁ、ツンデレですね。おそれいりました。

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