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俺は映画や音楽などブラック・カルチャーを紹介しなければならない

今、アメリカが凄いことになっている。
George Floydの事件を発端に、アメリカ中で激しいデモが起こっている。
実のところ、今回のデモが起きたのはGeorge Floydの事件が特別だからではない。言ってしまえばGeorge Floydの死は当たり前のようにアメリカで起きている。だからこそ、黒人の人々は激しく怒り狂っている。
多少なりともHIPHOPやブラック・カルチャーに触れている自分もかなりキツい思いを抱えている。とはいえ、自分はあくまで部外者。できることはあまり多くないし、そのラインを見極めるのは難しい。
だが自分はエンタメ語りの人間である。できることはエンタメ語り。なので今回は映画や音楽、果てはドキュメンタリーなど。様々なブラック・カルチャーが盛り込まれたエンターテインメントを紹介しようと思う。
「こんな時にエンターテインメントなんて」と思われるかもしれないが、黒人の人たちが生み出した映画や音楽に触れることでブラック・カルチャーへの理解を深めるのは大切なことだし、何よりマネーがコミュニティに還元されるのだ。消費という言葉は近年よく悪い意味で使われがちだが、消費と還元はセットで使われるべきだし、コミュニティにマネーが入るのは次に繋がるので今こそ必要な行為だと思う。
とまあそこまで肩ひじ張らずとも、とにかく面白いもの、凄いものが沢山あるので少しでも気になったら気軽にチェックして欲しい。

DOPE!!(映画)

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こんな時だからこそ多角的にブラック・カルチャーを見て欲しいということで、一発目は明るくポップな青春映画『DOPE!!』を紹介。
90年代HIPHOPを愛するオタクな少年マルコムが、ある時うっかり大量のドラッグを掴まされ売りさばくのに奔走するという青春クライムコメディ映画。
この映画、とにかく音楽が素晴らしくてディケブル・プラネッツやLolawolfなどチルでクールな曲が盛りだくさん。また、ファレル・ウィリアムスがプロデュースした本作オリジナルバンドであるAwreeohの曲も滅茶苦茶いい。主人公の悪友であるレズビアンのディギーやインドとのクォーターであるジブ(後のスパイダーマン:ホームカミングのフラッシュ役。ちなみに主役の人はスパイダーバースのマイルス役)など、キャラクターもみんな滅茶苦茶キュートでポップ。
とはいえ、物語の舞台はコンプトンに並ぶ犯罪多発都市イングルウッド。ポップでキュートなコメディ映画であってもマルコムがクラブで遊んでいると武装した警察が突入してきたり、通りの先にエイサップ・ロッキー演じるギャングスタがたむろしてて絡まれたりなど日常に殺伐が潜んでいる。
だがそれでも本作がキュートでポップ足り得るのはそこに暮らしている人々を否定していないからだろう。
エイサップ・ロッキーのギャングスタもラキース・スタンフィールド演じるいじめっ子も、ゾーイ・クラヴィッツ演じる利発的な少女もみんなそこに暮らす等身大の人々として描いている。
DOPE(ドラッグ)を売りさばくことでDOPE(イケてる)なやつに成長するブラック・コミュニティならではの青春映画を是非見て欲しい。


ボーイズ'ン・ザ・フッド(映画)

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無論、現在のアメリカの状況を引き起こすブラック・コミュニティでの青春が必ずしも常にポップでキュートだとは限らない。
昨年惜しくも亡くなり、傑作『ワイルドスピードX2』を撮ったジョン・シングルトン監督の半自伝的映画『ボーイズ'ン・ザ・フッド』では、サウスセントラルに住む少年たちの日常を写しながら、そこにある負の連鎖と黒人を追い込むように作られたアメリカ社会の規範を浮き彫りにしている。
かなり強烈なリアルを突きつけられる作品で、画面越しでしか見られない我々に、そこで確かに人が死んでいるということを伝えてくれる作品。
俳優初挑戦であるアイス・キューブの熱演も必見。


キラー・マイクのきわどいニュース(ドキュメンタリー番組)

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今回の事件に少しでも関心を抱いたものはアトランタ市長の記者会見でスピーチをするラッパーの姿を一度は目にしたのではないだろうか。
そのラッパーこそ白人ラッパーであるEL-Pと共にRun the Jewelsというヒップホップ・スーパーグループ・デュオを組んでいるキラー・マイクだ。
キラー・マイクがどんな男かと言うと、それはスピーチを見れば伝わると思うが、とにかくかっこいいラップをする本当にかっこいい男だ。
そんなキラー・マイクが送り出すNetflixオリジナル番組『キラー・マイクのきわどいニュース』は、内容こそ大工ポルノを作ったりと大分ブッ飛んでいるものの、まさにキラー・マイクの人柄とアメリカのリアルを映し出すドキュメンタリー番組である。詳しい感想は既に書いてあるのでこちらをチェックして欲しい。

また、キラー・マイクはRun the Jewelsの新アルバムである『RTJ4』を先日前倒しで発表している。各種ストリーミング他、公式サイトでは無料でダウンロードできるので是非聞いてほしい。キラー・マイクはコミュニティに還元する人なので、RTJ4を聞くこと自体、今回の抗議活動の力になるはずだ。
(また無料でダウンロードする際、デモをサポートする団体に寄付できる。要チェックだ)


アトランタ(TVシリーズ)

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チャイルディッシュ・ガンビーノの『This is America』のMVはアメリカの実情を痛烈に描いたことで歴史に残る楽曲となった。
そんなチャイルディッシュ・ガンビーノ(ドナルド・グローヴァー)を主演に、ヒロ・ムライ(This is Americaの監督)が制作したTVシリーズが『アトランタ』である。
今最も音楽が熱い街、アトランタでラッパーとして売れようと奮闘する三人組の日常をシュールに描いた、アトランタの日常系とも言える作品だ。
基本的に一話完結型で、中には一話まるまるローカルな討論番組風に演出をしたりとかなり攻めたスタイルの番組である。
また、ドナルド・グローヴァーはもちろん、ラキース・スタンフィールド演じるダリウスや従兄のラッパーであるペーパーボーイなど、どのキャラクターも非常に魅了的。特にほぼ全話に出てくるゲスト狂人キャラクター(黒人のジャスティン・ビーバーなど)が本当に酷くて時には爆笑するはめになる。
そんな作品なのに、ふと息苦しさを感じ、全く笑えなくなる瞬間がある。
ドナルド・グローヴァーはもちろん、ヒロ・ムライもまたアメリカのマイノリティである。
そんな二人だからこそ生み出せるシュールレアリスムと息苦しさを感じることができる作品。
いやとにかく出来がいいドラマなので見て欲しい。


黒いジャガー(映画)

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ブラック・カルチャーを語る上で欠かせないのがブラックスプロイテーションだろう。
ブラックスプロイテーションは主に70年代に作られた黒人をターゲットにした黒人が主人公の映画作品を指す言葉で、ファンクでソウルフルな劇半が使われるのが特徴的。
『黒いジャガー』は1971年に公開されたブラックスプロイテーションの代表的な作品で、黒人私立探偵であるシャフトがタフにハードボイルドに事件を解決する痛快娯楽作である。当時からブラックスプロイテーションは暴力的でステレオタイプな黒人像を強める性質があるという批判もあるが、この記事をわざわざ見に来る人は娯楽と現実を切り離して楽しむことができると信じている。
この作品の特徴は私立探偵シャフトのタフでハードボイルドな振舞いと、アイザック・ヘイズによるファンクで超クールな劇半である。
特にシャフトがニューヨークの街をぶらぶら歩くだけのオープニングがクールなのは、70年代だかこそ映えるという面もあるが、何と言っても映画史に残る名曲『黒いジャガーのテーマ(Theme from Shaft)』が最高だからだろう。


番外編:Black Dynamite(映画・アニメ)

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さて、これはちょっと最後まで紹介するべきか迷った作品で、コテコテな70年代臭を前面に追い出し、ブラックスプロイテーションをパロディしたアクション映画『Black Dynamite(2009)』である。ピンプ(ポン引き)にしてヴィジランテ。そして娼婦に育てさせる孤児院の経営者である(もしかしたら映画版ではCIAだったかもしれない)ブラック・ダイナマイトの活躍を描いた作品だ。
主演は自分の大好きな俳優の一人で、通称”七つの黒帯を持つ男”マイケル・ジェイ・ホワイトである。『スポーン』などで主演を務めているので知っている人も多いと思う。
で、このマイケル・ジェイ・ホワイトがどういう人かと言うと、脚本を読んだだけでその人が何年格闘技をやっているか見抜くという凄い人。
そんなマイケル・ジェイ・ホワイトが脚本/製作も務めた本作は、とにかく笑えて超面白くてアクションも凄い……らしい。
らしいというのは『Black Dynamite』はニコニコ生放送で配信されたという噂以外、日本で公開されたという情報がないのだ。そう、当然自分も見てない。
いや見てない作品を勧めるのはどうなんだという話だが、こうして紹介して皆に知ってもらわないと来るもんも来ないと思う。
で、この作品にはアニメシリーズがあってこちらもまた超面白いらしい。
なんとニコニコ動画に有志による字幕動画があるのだが、俺は見ていないので何もわからない。でも超面白いのは確かだ。
特にマイケル・ジャクソンとニンジャが戦う回は超面白いらしい。俺は知らないけど。
ちなみにシーズン2のオープニングはなんと日本のアニメ制作会社であるTRIGGERが担当。ニンジャがたくさん出てくるので皆好きだと思う(俺も好き!)。
いつの日か公式で出されたやつを見てしっかりとお金を落としたいものだ。
(あと予告編も超最高だ)

TRIGGERによる第二期オープニング


IQ(小説)

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最後の紹介するのはこちらジョー・イデによる傑作探偵小説『IQ』だ。
サウスセントラルを舞台に、黒人探偵であるアイゼイア・クィンターベイ通称『IQ』が、相棒のドッドソンと共に暗殺者に命を狙われたラッパーを救うために奔走するというまさに黒人版シャーロック・ホームズとも言える作品である。
作者はなんと日系人のジョー・イデ。黒人というわけではないが、サウスセントラルで育ち黒人に囲まれて育った彼はフッドのリアルをハードボイルドな筆致で見事に表現している。
個人的にミステリー小説で最も重要だと思っているのが探偵役のキャラクター性なのだが、その点において『IQ』は完璧である。
まずIQという愛称がシャーロック・ホームズ並みにクールだし、その深い闇と向き合うキャラクター性もかっこいい。なにより元ギャングスタで粗暴なドッドソン(でも料理好き)との相性もピッタリだ。
また、事件の真相はブラック・カルチャーを好むものにとって膝を打つような内容で、黒人街のシャーロック・ホームズとしてこの上ないくらい最高の作品である。

以上。現在の状況とは距離を置いて好きな作品だけを並べ立てたが、それでもどこか通ずるものがある作品ばかりになってしまうのは悲しいくらいに必然だろう。自分にできることは本当に、本当に少ないが、少しでもこの状況が好転することを願うばかりである。

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