石井克人

実写映画やCM、CG、アニメーションの作品を作ってます。それらの原作、キャラクターデザ…

石井克人

実写映画やCM、CG、アニメーションの作品を作ってます。それらの原作、キャラクターデザインなどやらせていただいています。最近のシリーズは18禁ルパンシリーズ「次元大介の墓標」等の世界観、ストーリー原案、ゲストキャラクターデザイン、ゲストキャラクター原案など。

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  • ヤエル49

    石井克人原作『ヤエル49』のストーリーリストです。 note創作大賞2024 漫画原作部門参加

最近の記事

ショートショート・「走るの怖いが、フィジカルマンマン」

 朝の公園、木々の間から差し込む陽射しが静かに私を包んでいた。柔らかな風が頬をかすめ、どこか遠くで子供たちの笑い声が響いていた。私の視線は前に走る子供たちに向いているが、頭の中では別のことが渦巻いている。走ることについてだ。  スポーツは好きだ。テニスも、MTBも、スケートボードも、ロードバイクも、水泳も。ウォーキングだって大好きだ。しかし、走るのは違う。特にマラソンやランニングは嫌いというわけではないが、怖い。走るたびに、自分の体が少しずつ壊れていくのが、分かってしまうか

    • ショートショート・「コレがボクの働く1日だ」と、心の中でつぶやいた。

       夕方6時過ぎ、ファミレスの店内はさらに賑やかさを増していた。窓の外では夕日が沈みかけ、薄い光が店内をぼんやりと照らしている。僕、トマチ君はカウンターの裏で、いつものようにコーヒーを注ぎながら、店内のざわめきを耳にしていた。  「トマチ君、今日も混んでるねー。優しいから、みんな助かってるよ」とタチ子ちゃんが明るく声をかけてくる。彼女は笑顔で客を迎えつつ、忙しそうにカウンターを拭いている。「どうだろうね」と返しながら、僕は客たちの会話が交錯する店内をぼんやりと見渡していた。

      • ショートショート・「黒よりも黒い気がする」

         朝の陽射しが静かにカフェの窓から差し込み、木製のテーブルを優しく照らしていた。テーブルは古びたオーク材で、使い込まれた年月を物語るように、乾いた手触りを残している。表面には薄い傷やシミが点在し、あちこちに刻まれた小さな傷が、数多の客たちの記憶を密かに物語っている。  私はそのテーブルの上にコーヒーカップを置き、ふと視線を落とした。そこには、直径1センチほどの黒い点があった。まるで焼け焦げたような黒いシミが、テーブルの木目に不自然に沈み込んでいる。それは、何年も誰にも気にさ

        • ショートショート・『長身バニーちゃんはアンドロイドの夢を見るか?』

           銀座のクラブは、いつも静かにざわめいている。豪華なシャンデリアが煌めき、客たちは誰もが重々しい空気をまとっている。初老の男たちが集い、金と過去の栄光について語り合う社交場だ。黒服として働くボクは、その空気の中に溶け込んでいた。目立たないように、しかし常に気を配りながら、客の動向を見守る。ボクの仕事は、客の快適さを確保すること。無駄な会話はなく、ただ黙々とこなす。  大桃さんもこのクラブで働いている。182センチの彼女がヒールを履くと2メートルになる。素晴らしい存在感だ。そ

        ショートショート・「走るの怖いが、フィジカルマンマン」

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        • ヤエル49
          12本

        記事

          ショートショート・『それって青い時間かもね、うん?』

           セーラんちの近くの公園は、夜になると静まり返る場所だった。昼間は家族連れや犬を連れた散歩客で賑わっているが、今は俺たちみたいのが、パラパラいるだけだ。広場の端には、まばらな街灯がぼんやりと光を落とし、広い公園全体に薄暗い影ができている。俺たちはその影の中、ベンチに座っていた。  「カラオケ、行こうか?」ユメコリンが軽く提案する。俺とセーラは顔を見合わせた、すぐにセーラが「行こうよ」と笑顔で答えた。俺は少し考え込んでいた。カヨが気になっていたからだ。  カヨは、広場の反対

          ショートショート・『それって青い時間かもね、うん?』

          ショートショート・『僕の悪い癖』

           フィアット500がゆっくりと止まったとき、ボクは一瞬で何が起こったのか理解した。ガス欠だ。ハチボニ君はハンドルを握りしめながら「またかよ…」とつぶやいた。  「またかよってまじかよ、いつもみたいにコレ押してって、スタンドまで行くスタミナないぞ、砂利道だしここ」  「ごみーん」と下唇を出し、頭を微妙に揺らして、ハチボニ君は謝る。毎回ギリギリまでガソリンを入れない、コレがハチボニ君の悪い癖だ。けれどボクにも悪い癖があるから、それは言わないことにした。ボクは呆れながらも、スマ

          ショートショート・『僕の悪い癖』

          桃肌女とさすらいのジョー

           旅の途中、レンタカーで美しい田舎町にたどり着いた極石丈(きわめいし じょう)とマチコは、古い時計マニアだった。  彼らの関係は愛人契約に基づいており、マチコは大学で機械工学を専攻する女子大生だった。二人の間には、毎月50万円のお手当と、夜の営みが月に2回行われるという契約が存在していたが、実際にはそれ以上の頻度で関係を持っていた。  「この町には、いくつかのアンティークショップがあるみたいね。特に18世紀のフランス製の振り子時計があればいいな。あの時代の時計は、重力の影

          桃肌女とさすらいのジョー

          ショートショート.「おはぎ3000」

           ホモライナが町を去って、半年が過ぎた。  ボクは自転車を押して、夕暮れの公園を歩いている。冷たい風が吹いて、少し寒くなった秋の気配が感じられる。空は薄いオレンジ色に染まり、雲が薄紫色に変わりつつある。木々の間から洩れる光が地面に長い影を落としている。  ホモライナと最後にここに来たのはいつだっただろうか。もうその記憶さえ、はっきりとは思い出せない。  ホモライナ・ラカイナ、本名はラカイナ・ホモライナ。彼はアメリカとハワイのハーフだ。  彼の肌は少し日に焼けていて、陽に当た

          ショートショート.「おはぎ3000」

          ショートショート・『ス、ス、スイートロコモーション』

           無人駅のホームに降り立つと、冷たい雨が顔に当たり、ボクは急いで傘を開いた。駅の屋根は壊れていて、ほとんど雨を防げない。少し離れた車両から、彼女は降り、すぐにびしょ濡れになりながら、黙ってホームの端へと向かって歩いていく。傘も差さず、濡れた髪を無造作にかき上げながら、ただ静かに前を見つめて。  13歳のボクには、彼女がただの同級生以上に、大人びた存在に見えた。    雨が絶え間なく降り注いでいた、けれどボクは、傘をさしたままその場に立ち尽くし、彼女の姿を遠くから見つめていた

          ショートショート・『ス、ス、スイートロコモーション』

          ショートショート・『修羅場ホットケーキ』

           ミツコがゴミ箱の中に、かー、ぺっと痰を吐いた。  それは僕が1人きりの時にだけ、僕だけがする行為だった。他人がそれをするのを初めてみた。  あー、これが別れの前兆のような空気感だな、と思っていたら、ミツコが、あー、これが別れの前兆のような空気感だな、と思ったでしょ、と、たんの吐きカスが残った頬を右手の親指で拭きながら言った。  ミツコはスピリチャルが大好きで霊感が強かったが、今日は特にキレているようだ、僕の思考を一字一句正確に読み取りやがった。  恋愛とか恋人とか彼氏

          ショートショート・『修羅場ホットケーキ』

          ショートショート・『愛の言葉』

           ボクの友達のワチはスピリチュアルにハマってる。  スピリチュアルっていうのはなんだか新興宗教のようなもので、ネットワークビジネスのように、洗脳されたい人がハマるものだと思う。  ワチはいつもニコニコしていて、汚い言葉を言ったり、不平不満を言うと人生うまくいかないよ、と会うたびにボクに忠告する。  大きなお世話だよ、とボクが言うと、ありがとうございます、とワチは返答する。いやいや話の流れがおかしいよそれは、お前頭大丈夫か? と聞いても、ありがとうございます、と返す。なんか宗

          ショートショート・『愛の言葉』

          ショートショート・『おなら好物』

           僕にはちょっとした秘密がある。  それは、おならが好きだということだ。  大声では言えないけど、誰にも邪魔されない場所で、自分の好きなようにおならをするのがたまらなく好きだ。まるで自分が自由になれる瞬間のように感じられるのだ。  特に家にいるとき、自分の部屋で一人になれると、その自由さは最大になる。  誰も僕のことを見ていないし、誰も僕を咎めたりしない。  僕の部屋は、僕の小さな王国であり、そこではどんな音を立てても許される。  だから、思いっきりおならを放り出すのが好き

          ショートショート・『おなら好物』

          ショートショート・『ネギトロ唇』

           姉貴お気に入りカレンダーの枠外に「ネギトロ唇」とメモ書きがあった。  クールで控えめな姉が、自分の推しの声優カレンダーに、落書きするなんて珍しいなと思った。  好奇心に駆られて、僕は尋ねた。 「姉貴、ネギトロ唇って何?」  来客部屋の隅で足の爪を切っていた姉は、少し照れくさそうに答えた。 「推しが一番ハマってるリップクリームだよ」 「リップクリーム? ネギトロ唇?」 「ラジオで言ってたの、どこに行っても売り切れなんだよね、ネットでも売り切れだしさ。アンタもし、どこかで

          ショートショート・『ネギトロ唇』

          ショートショート・『排気ガス姉さん』

           姉の口臭は、排気ガスの匂いがする。  僕の三つ上の姉貴は、その「特技」をいろいろな場面で使っている。どういうわけか、姉はこの匂いが人々に与える影響を、まるでゲームのように楽しんでいる。  最初にそれを知ったのは、家族旅行の時だった。  家族で車に乗って海に向かっていた。車内は快適で、みんなリラックスしていた。姉は後部座席で、僕の隣に座って寝ていた。  そして、ふいに彼女が大きなあくびをした瞬間、車内に突如として排気ガスのような匂いが充満したのだ。窓を開ける間もなく、家族全

          ショートショート・『排気ガス姉さん』

          ショートショート・『セクシー美人スペース』

           僕がよく行く中央線沿いの駅前には、いくつかの喫煙スペースがある。  この時代にしては珍しいが、その場所は喫煙者にとっての小さなオアシスのようなものだ。  最近僕は喫煙者になった。3年間禁煙していたのだが、母の死をきっかけになんとなく再びタバコを手に取ってしまった。  そこからは、やめようと思っても、どうにもやめられない。  僕がよく行く喫煙スペースは広くて快適だ。  いつ行っても喫煙者でいっぱいということはなく、ゆったりとタバコを吸えるのが気に入っている。  その片隅に

          ショートショート・『セクシー美人スペース』

          ショートショート・『ダメージジーンズコーヒー』

           僕がいつも通う喫茶店がある。  昭和50年に開店したというから、もうかなりの年季が入っている。  店の名前は「銀座ブルー」。だけど、今じゃ店の外の青い看板も、かすれてグレーに近い色になってしまった。  扉を開けると、古びた木の床がギシギシと音を立てる。漂ってくるコーヒーの香りもどこか懐かしい。そんな店だ。  その店で、僕がいつも頼むのは「ジーンズコーヒー」。  名前だけ聞いたらピンとこないだろうけど、このコーヒーにはちょっとした特徴がある。  普通のコーヒーの1.5倍の容

          ショートショート・『ダメージジーンズコーヒー』