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教師の仕事術 お菓子缶と仕事組合せ

これまでのこの「リフレク帳」で何度か用いてきた『教育効果を可視化する学習科学』(ジョン・ハッティ、グレゴリー・イエーツ 原田信之ほか訳 北大路書房 2020,pp.383-393)に、自我消耗(ego depletion)に関しての記述があります。
自我消耗とは、感情や本音を押し殺すことで考える力が摩耗する現象を指します。
例えば、社会的相互作用の場面において、自分と他者の行動が円滑に噛み合わないことのよって強いストレス感じたときにエネルギーを消耗してしまい、次のタスクへの気力やパフォーマンスが低下してしまうのだそうです。それも非常に短時間(数分間レベル!)のストレスで。

これを教育の場面に当てはめるならば、多様な子供たちとかかわること(や、恐らく時として同僚とかかわること)は、なかなかの自己消耗を教師にもたらしていることになります。

そんな環境に身を置きつつ、でも教育行為へのパフォーマンスを低下させたくない教師は、どうしたらいいのでしょうか。

私は、次の二つの<方略>を「仕事術」として提案します。
どちらも私が行っていたことです。

前掲書では、人は自我消耗を引き起こすと「自分自身へのご褒美を」という欲求が活性化されるのだといいます。自分自身の自己制御(self-control)が悪影響を受けて、「我慢ができなくなる」のです。

ですから、第一の<方略>として、職員室などの教師が集まる場に誰もが気軽につまむことのできるお菓子の入った缶や箱を用意しておけばいいのです。
まさに、物理的な「ご褒美」です。

ただし、甘いものを食べたからといって、それが原因になって、消耗したやる気が突然回復するわけではないそうです。

お菓子を取って食べるという行動は、私においては、「休憩」の奨励です。
気分転換によって、自我消耗をもたらした原因と少し距離を置くことのオススメです。

ですから、まだこれだけではあなたの心の消耗状態は回復しきれないかもしれません。

そこで、第二の<方略>です。自我消耗効果と「深い思考」との関連に目を向けます。
それは、仕事内容の組合せ方の工夫です。
ズバリ!「頭を使う仕事」と「頭を使わない仕事」を組み合わせるのです。第1の課題で「やる気」や「力」を消耗したまま第2の課題に取り組んだときに、能力が低下しているわけですから、第2の課題=タスクは、「頭を使わない仕事」をすればいいのです。
それによって回復が期待できます。

心の働きには二種類の行動システムがあると、現在は考えられています。
システム1は、速く自動的であり、システム2は、遅く計画的な思考です。
自我消耗の対象になるのは、システム2だそうです。
つまり、「頭をじっくり使う」から、「やる気」や「力」を消耗するわけです。

深く考える思考能力は、比較的短時間であったとしても、ストレスを与える活動によって混乱させられる。一方、実験室の研究では、システム1が同様の短時間の自我消耗経験によって影響されないことを示している。

(前掲書,p.388)

ですから、例えば、翌日の授業プランを練ったり、保護者や子供と骨の折れる対話をしたりした後は、「ぼんやりと」配付物の印刷を行ったり、「何も考えずに」掲示物の差し替えをしたりするとよいのです。お菓子でもかじりながら。

そうすると私も経験では、自分の中にエネルギーのようなものが貯まってくるのを感じました。

ところで、こうした「努力や工夫」こそが、働き方改革の阻害要因になっているという考え方があるかもしれません。
もちろん、働き方改革は大いに推進すべきであり、個人の「努力や工夫」で解消すべき問題で貼りません。
しかし、「自衛」もまた大切ではないでしょうか。
自分を気遣い、自分の感情を管理しようと工夫することは、多忙化から身を守るために必要な仕事術です。

ちなみに、お菓子の缶は、自分の机の引き出しの中ではなく、上述のように教師・職員が集う場所に置くのがよいと考えています。
自我消耗効果の要因の一端は、社会的相互作用だからです。社会的相互作用で消耗した心は、やはり社会的相互作用で回復させた方がよいと、これも経験的に考えています。

以上、お試しください。