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意欲を湧かせ目的意識をもって取り組む宿題とは
※「ヒント帳120」「121」の続きである。
どうしたら子供が意欲を湧かせ、自ら目的意識をもって進んで宿題に取り組むだろうか。
面白ければいいか?
まず思い付きやすいのが、ゲームやクイズのような面白さをもった宿題だろう。
確かに、子供は面白がって取り組む。
だが、毎回の宿題をゲームやクイズ的なものするのが不可能なことは、容易に想像がつく。
何よりも、目的意識そのものが、希薄なものとなる。
「目先の楽しさ」では、ただ「面白いからやる」で終わってしまう宿題となるだろう。
ゲーム・クイズ的な面白さは、どのような場で用いるべきかが問われるのだ。
自由課題・選択課題宿題の陥穽
では、自由課題や選択課題によって、子供が自分の興味・関心に合わせて取り組む宿題はどうだろうか。
子供は、知的好奇心が喚起される面白さを感じ取るだろうし、目的意識ももつことができる。
前のめりに宿題に取り組む姿が想像できそうな気がする。
だが、そこには次の三つの陥穽があるのでないかと考える。
一つめは、前回のヒント帳でも述べたように、自由課題であっても「取り組むこと」そのものが<強制>ならば、意欲の高まりは怪しくなり、宿題の効果への期待が薄くなるということだ。
二つめは、「活動あって、学びなし」という状態に陥ることも十分に考えられることだ。
かつての「総合的な学習の時間」での<失敗>が想起される。
子供が個々に自分の課題を設定して調査や体験等をしたものの、例えば「ラーメンを作って食べて終わり」となってしまった経緯がある。
だから、現行の学習指導要領では、育みたい資質・能力が一層明確化されたのである。
「自由」であることは、宿題の「目的」を<自分ごと>にさせやすいが、その「目的」が学びとして妥当なものになっているかどうかの検討までは、保証しないのである。
三つめは、宿題という学習の孤立化への危惧である。
アンドレアス・シュライヒャー 氏(OECD 事務総長教育政策特別顧問兼教育・スキル局長)が、今、求められる勉強の仕方は、もちろん、記憶中心(記憶戦略)でなく、その先の計画的学習(自己制御戦略)でもなく、さらにその先の関連付ける学習(精緻化戦略)であると言っていることは、広く知られている。
この提言は次の二つの点で示唆的である。
個の中で閉じた学習では、精緻化が難しい。
家庭で取り組んだ宿題であっても、他者との交流があってこそ、機能する知識になるのだ。
また、「自由選択宿題」は、「計画的学習(自己制御戦略)」であるとも考えられることから、一段階上の学習に高めるためには、なおさら「他者と交流する宿題」「集団との関わりを意識した宿題」にする必要があるだろう。
私が宿題で心掛けたこと
そこで私は、次のような宿題を出すことを心掛けていた。
それは、学校の学びとの繋ぎ・連続性を意識した宿題である。
その日の学習を受けて、例えば、習得率を高めるための復習、類似問題への学んだ知識の活用、獲得した知識の整理・まとめ、発展課題への挑戦などを行う宿題である。
また、次の日の学習のために、自分の考え作りや活動の計画作成、テストのための練習等、準備や見通しをもつ宿題である。
全体やグループで学んだことを宿題に繋いだり、宿題を全体やグループでの学びに繋いだりすることで、「宿題の孤立化」を防ごうとしたのである。
具体的な例を示す。
・学校で学習した段落の要約の方法を使って別の段落を要約する。(国語)
・学校で読み取った中心人物の行動や心情を自分自身と比較して感想文に書き表す。(国語)
・学校で借りた詩集の中から好きな詩を選んで視写する。(国語)
・「ヒント帳73」から「80」でも紹介したように、学習したことと関連付けた様々な課題で日記を書かせる。(国語)
例えば、「全て万葉仮名で書きなさい」という課題を出すと、子供たちは次のような日記を書いてくる。
「今日防災訓練加安利末之太。
曽己天保久加楽之加川太利、加无波川太利、学无太利之太己止遠書幾末寸。…」
・また、「貴族の暮らしと武士の暮らしのどちらがいいか」「家来になるなら、信長、秀吉、家康の誰を選ぶか」などは、社会科の学習と繋げた日記課題である。(国語・社会)
・高学年の社会科や理科で、単元のまとめをノート1ページに「イメージマップ」の手法で整理させたこともある。「イメージマップ」であることがハードルを上げた挑戦課題になっている。(社会科、理科)
・学校での「観天望気」の学習の継続・発展として、家庭で調べ学習の継続をする。(理科)
・答えが指定した数になる計算問題を作る。(算数)
・学校で学習したコンパスを使って模様作りをする。(算数)
・次の作品製作のための「設計図」「製作アイデア」を作る。(図工)
・授業終末時に生まれた課題に対する自分の考えを作る。(全教科)
・学校で学習した思考ツールを使って、別の対象に対する自分の考えを明らかにする。(全教科)
など、内容は多種多様である。
もちろん、音読や漢字、計算などの繰り返し学習も宿題化した。
むしろ、家庭での学習習慣の定着のためという観点から、これらの占める割合が最も多かったと言える。
そこで、これらの繰り返しタイプの宿題に対しても、「正しく書こう」「整った文字で書こう」「漢字テストのために覚えるように書こう」や「計算力を高めるために練習しよう」「苦手な問題だから繰り返して強くなろう」、また、「学校で学習した音読の工夫を使ってさらによい音読にしよう」等の課題を設定して宿題にした。
繰り返しタイプの宿題は、目的意識を喚起しにくく、面白さにも欠けるため、取り組んだ結果を通して得られる達成感や自己有能感によって、それを補おうとしたのである。
テスト勉強はその典型で、上記の単元まとめもテスト勉強の一環であった。
また、学校で、漢字や計算、音読の面白さや楽しさを感じ取らせる学習を工夫して行っておくことが、繰り返し宿題への意欲喚起に繋がる。ゲーム・クイズ的な面白さを用いるのは、そうした学習場面が適切であろう。
留意するべきことあり!
ただし、ここまで述べてきた多様な宿題を出すに当たり、私が留意していた事柄がいくつかある。
まず、子供にとって目的・方法が明確なものにすることである。
子供だけの力で何をどのように行ったらいいのかが分かり、実行できることを必須とした。
保護者に負担を掛けることは、できる限り避けたい。
また近年は、放課後児童クラブで宿題に取り組んでいる子供も少なくない。子供だけでできるということは、その点でも必要なのだ。
なお、「宿題の必要性」という点で、放課後児童クラブでの時間の有効活用のために「宿題を出してほしい」と要望する児童クラブの指導者も、経験では少なくなかった。
子供が自力で宿題ができるようにするためには、例えば上記の「観天望気調べ」などの場合は、事前から予告しておいて、子供の資料収集を促しておくことが大切である。
図工の準備的な宿題も同様だ。
学級の子供たちの家庭環境などに目配りをし、どれぐらいの準備時間が必要かを把握しておきたい。
調べ学習など資料を用いる宿題では、子供の持ち帰る教科書・書籍などの量にも気配りが必要だ。
ランドセルが重くならないように配慮したい。
例えば、普段は社会科や理科の教科書を「置き勉」しているのであれば、それを用いた宿題の場合は、国語や算数の教科書を置いていかせるなど、工夫したい。
そういう<時代>になったのである。
また、自ら計画的に学習を調整する力を育むことも、もちろん必要なことなので、私は、そのために週に一日を「自主勉強の日」として設定していた。
その場合、子供たちはいきなり自力で行うことが無理なので、段階を踏んだ指導を行った。
「自主勉強」の内容・方法の例を手引きで紹介したり、目的を伝えて内容を選択できるようにしたりするなど、徐々に自分だけの力で行える宿題へと移行させていった。
また、宿題という学習の孤立化を防ぐため、相互に自主勉強を紹介し合ったり、ある子供の自主勉強の内容を授業に活かしたりする場を設けた。
以上、3回に渡って、宿題について述べてきた。
お役に立てば幸甚である。