3次以下の正方行列のジョルダン標準形への変形を徹底的にやってみた話
※盛大に間違っている可能性に気付いたので現在修正を検討中です。
←$${3}$$次の場合の固有値が$${1}$$個で$${\mathrm{rank}}$$が$${1}$$のとき、間違ったことを書いていたので訂正しました(2024/1/14)。
我ながら暇人過ぎるだろって記事を書きました。本記事を読むには理系学部程度の知識を要します。
この記事の目的
最初に、この記事の目的について少し書きます。
線型代数の教科書に、ジョルダン標準形に関するパートがあります(ない本もありますが)。たいてい後半の方にまとめられています。ざっくり言うと、どんな複素$${n}$$次正方行列も、対角要素が固有値であり、その右上は$${1}$$である上三角型のブロックがいくつか並んだ形にできる、というものです。
そして、教科書の練習問題の項で具体的な行列が提示され「次の行列のジョルダン標準形を求めよ」と問われます。読者は手計算でジョルダン標準形を求めてみるのですが、固有値を求める過程で$${n}$$次正方行列なら$${n}$$次方程式を解く必要があるため、一般的には$${4}$$次以下でしか遂行できません。実際、計算が大変になるため、$${2}$$次か$${3}$$次の正方行列に関するジョルダン標準形を求める問題がほとんどです。たまに$${4}$$次もありますが、固有値が求めやすいように題材の行列は調整されているはずです。というか、一般的な$${3}$$次方程式を手計算で解くのもちょっと難しいため、$${3}$$次の正方行列の場合も固有値を計算しやすくなっているはずです。
つまり、普通の教科書に載っているものでジョルダン標準形を手計算で求めることができるのは、現実的には$${3}$$次以下の正方行列であり、かつ固有値を簡単に計算できる特別なものだけなのです。しかし、$${4}$$次以上の困難さに比較すると、そういった行列のジョルダン標準形は割と簡単に求められます。
そうであるなら、現実的に解ける$${3}$$次以下の正方行列のジョルダン標準形は徹底的にやってしまおう、というのが本記事の目的です。
そして、これは私見ですが、行列の$${\mathrm{rank}}$$や最小多項式を観察すればジョルダン標準形の型自体は突き止められるのですが、そこで留まらずにどのような基底をとるかということまで求めるのがいいと思っています。この記事は、$${3}$$次以下で固有値が分かっていれば、基底を手続き的に求めてしまおう、という方針で行きます。基底を求める過程では計算がカチッとはまる瞬間があり、非常に気持ちいいです。その楽しさが伝われば幸いです。また、本記事では$${3}$$次以下しか扱いませんが、$${4}$$次以上へ応用できる部分もあります。
重要なのは、ケーリー-ハミルトンの定理または最小多項式を活用し、基底の選択では標準基底をなるべく利用することです。なお、ジョルダン標準形への変形方法を公式的に丸暗記するのではなく、いかにして効率的に基底を探すかが大事です。それでは以下で説明していきます。
予備知識
本記事を読むために必要な知識を簡単にまとめておきます。すでにご存知の読者は読み飛ばしてください。
定義1 $${A}$$を複素$${n}$$次正方行列とする。$${0}$$でない$${n}$$次縦ベクトル$${\bm{v}}$$がある複素数$${\alpha}$$に対して、$${A\bm{v}=\alpha\bm{v}}$$を満たすとき、$${\bm{v}}$$を$${A}$$の固有値$${\alpha}$$の固有ベクトルという。
定義2 正方行列$${A}$$に対して、$${\phi_A(x)=\det(xE-A)}$$を$${A}$$の固有方程式という。
命題3 複素数$${\alpha}$$が$${A}$$の固有値である必要十分条件は、$${\alpha}$$が$${\phi_A}$$の根であることである。
定理4(ケーリー-ハミルトンの定理) $${\phi_A(A)=0}$$が成り立つ。
定義5(最小多項式) $${A}$$を正方行列とする。$${x}$$に関するモニックな多項式$${f(x)}$$で、$${f(A)=0}$$を満たすもののうち、次数が最小のものを$${A}$$の最小多項式といい、$${\psi_A(x)}$$と書く。
命題6 $${\psi_A(x)}$$は$${A}$$の固有値すべてを根にもつ。
定理7(次元定理) $${A}$$を$${m}$$行$${n}$$列の行列とすると、
$${\mathrm{rank}A+\dim\ker A=n}$$が成り立つ。
定理8(ジョルダン標準形) $${A}$$を複素$${n}$$次正方行列とし、その相異なる固有値を$${\alpha_1,\ldots,\alpha_s}$$とする。さらに、$${\alpha_i}$$の重複度を$${k_i}$$とする。このとき、適当な複素正則行列$${X}$$で以下のジョルダン標準形に変形できる。
$$
\begin{align}
X^{-1}AX=
\begin{bmatrix}
\begin{smallmatrix}
J_{k_1^{(1)}}(\alpha_1) & & \\
& \ddots & \\
& & J_{k_{l_1}^{(1)}}(\alpha_1)
\end{smallmatrix}
& & 0\\
& \ddots & \\
0 & &
\begin{smallmatrix}
J_{k_1^{(s)}}(\alpha_s) & & \\
& \ddots & \\
& & J_{k_{l_s}^{(s)}}(\alpha_s)
\end{smallmatrix}
\end{bmatrix}
\end{align}
$$
ただし、$${J_{k_j^{(i)}}(\alpha_i)}$$は$${k_j}$$次正方行列であり、以下の形である。
$$
\begin{bmatrix}
\alpha_i & 1 & & 0\\
& \alpha_i & \ddots & \\
& & \ddots & 1 \\
0 & & & \alpha_i
\end{bmatrix}
$$
また、$${k_1^{(i)}+\cdots+k_{l_i}^{(i)}=k_i}$$である。
(1)式は$${J_{k_j^{(i)}}(\alpha_i)}$$の並び方を除いて一意的である。
主に必要な予備知識は以上です。他にも援用する知識がありますが、そういったことは線型代数の教科書をご参照ください。本記事の末尾にもいくつか挙げておきます(特に一般固有空間と階数の説明を忘れていました。本記事では階数という術語を$${\mathrm{rank}}$$とは違う意味で使っています)。
それでは以下で、$${2}$$次と$${3}$$次の場合のジョルダン標準形を考えていきます。
2次正方行列の場合
$${2}$$次の場合の固有方程式は$${\alpha\neq\beta}$$に対して、以下の$${2}$$種類のみです。
$$
\begin{align*}
(x-\alpha)(x-\beta),\quad (x-\alpha)^2
\end{align*}
$$
そして、定理6から最小多項式は以下の$${3}$$種類のみです。
$$
\begin{align*}
(x-\alpha)(x-\beta),\quad x-\alpha,\quad (x-\alpha)^2
\end{align*}
$$
それぞれの最小多項式に応じてジョルダン標準形は以下の$${3}$$種類です。
$$
\begin{align*}
\begin{bmatrix}
\alpha & 0\\
0 & \beta
\end{bmatrix},\quad
\begin{bmatrix}
\alpha & 0\\
0 & \alpha
\end{bmatrix},\quad
\begin{bmatrix}
\alpha & 1\\
0 & \alpha
\end{bmatrix}
\end{align*}
$$
ちなみに、$${A=\begin{bmatrix}a & b\\c & d\end{bmatrix}}$$とすると、固有多項式$${\phi_A(x)}$$は以下となります。
$$
\begin{align*}
\phi_A(x)&=\det (xE-A)
=\begin{vmatrix}x-a & -b\\-c & x-d\end{vmatrix}\\
&=(x-a)(x-d)-bc=x^2-(a+d)x+ad-bc\\
&=x^2-(\mathrm{tr} A)x+\det A
\end{align*}
$$
$${\phi_A(x)}$$は$${2}$$次多項式であり、その判別式は$${D=(\mathrm{tr} A)^2-4\det A}$$です。
$${D\neq 0}$$ならば$${\phi_A(x)=(x-\alpha)(x-\beta)}$$という形となり、対角化可能であることが分かります(実際には$${\phi_A(x)}$$はすぐに計算できるので判別式を持ち出さなくてもいいです)。
一方、$${D=0}$$ならば$${\phi_A(x)=(x-\alpha)^2}$$という形であり、さらに
$${\psi_A(x)=x-\alpha}$$か$${\psi_A(x)=(x-\alpha)^2}$$のどちらかです。
$${\psi_A(x)=x-\alpha}$$のときは、最小多項式の定義より(定義5)、
$${\psi_A(A)=A-\alpha E=0}$$ですから$${A=\alpha E=\begin{bmatrix}\alpha & 0\\0 & \alpha \end{bmatrix}}$$です。すなわち最初から対角行列でありジョルダン標準形になっています。
$${\psi_A(x)=(x-\alpha)^2}$$のときは、右上の要素に$${1}$$が現れるタイプです。
つまり、$${2}$$次の場合は対角化可能か、最初から対角行列か、対角化不可能であり、最初から対角行列の場合はもう何もすることはないため、その他の$${2}$$パターンを考えればよいわけです。ということで以下でその$${2}$$パターンに分けて考えていきます。
対角化可能であるとき
繰り返しになりますが、この場合は$${\phi_A(x)=\psi_A(x)=(x-\alpha)(x-\beta)}$$です。
あとはそれぞれの固有値に対する固有ベクトルを求めるだけです。
このときケーリー-ハミルトンの定理が大いに役立ちます。すなわち、以下の式です。
$$
\phi_A(A)=(A-\alpha E)(A-\beta E)=0
$$
この式の$${A-\beta E}$$は$${2}$$次正方行列ですが、その$${2}$$個の列ベクトルを$${\bm{v}_1, \bm{v}_2}$$とすると、$${A-\beta E=\begin{bmatrix}\bm{v}_1 & \bm{v}_2\end{bmatrix}}$$であり、ケーリー-ハミルトンの定理の式は以下のように書き直せます。
$$
\begin{align*}
& (A-\alpha E)\begin{bmatrix}\bm{v}_1 & \bm{v}_2\end{bmatrix}=0\\
\rightleftarrows & (A-\alpha E)\bm{v}_1=0 \quad\mathrm{and}\quad (A-\alpha E)\bm{v}_2=0\\
\rightleftarrows & A\bm{v}_1=\alpha\bm{v}_1 \quad\mathrm{and}\quad A\bm{v}_2=\alpha\bm{v}_2
\end{align*}
$$
すなわち、$${\bm{v}_1, \bm{v}_2}$$のどちらか零ベクトルでない方を選んで改めて$${\bm{v}_\alpha}$$とすれば、それが固有値$${\alpha}$$の固有ベクトルなのです。$${\bm{v}_1, \bm{v}_2}$$の両方ともが零ベクトルとなることはありません。もしそうなら$${\psi_A(x)=x-\beta}$$であり、最初の設定である$${\psi_A(x)=(x-\alpha)(x-\beta)}$$に反するからです。
(補足: $${\dim\ker (A-\beta E)=1\rightleftarrows \mathrm{rank}(A-\beta E)=1}$$より、$${\bm{v}_1, \bm{v}_2}$$は$${1}$$次従属ですから、$${0}$$でなければどちらでも選んで$${\bm{v}_\alpha}$$としてよいです)
$${\phi_A(A)=(A-\beta E)(A-\alpha E)=0}$$とも書けるため、固有値$${\beta}$$に対する固有ベクトル$${\bm{v}_\beta}$$も同様です。
よって、この場合は固有値$${\alpha, \beta}$$に対する固有ベクトル$${\bm{v}_\alpha, \bm{v}_\beta}$$が
$${(A-\alpha E)(A-\beta E)=0}$$からすぐに求めることができ、固有ベクトルを基底にとることで対角化ができます。すなわち、
$$
\begin{align*}
A\begin{bmatrix}\bm{v}_\alpha & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\alpha\bm{v}_\alpha & \beta\bm{v}_\beta\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}\bm{v}_\alpha & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}\alpha & 0\\ 0 & \beta\end{bmatrix}\\
\begin{bmatrix}\bm{v}_\alpha & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}^{-1}
A
\begin{bmatrix}\bm{v}_\alpha & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\alpha & 0\\ 0 & \beta\end{bmatrix}
\end{align*}
$$
ここで$${\begin{bmatrix}\bm{v}_\alpha & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}^{-1}}$$という逆行列が存在することは、異なる固有値に対する固有ベクトルは直交するという事実によります。
ところで$${A-\beta E}$$の列ベクトルに$${\alpha}$$の固有ベクトルが現れることは次のように理解することもできます。いま、$${2}$$次元空間は$${\alpha,\beta}$$の固有ベクトルを基底とできるため、$${\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix}=c_1\bm{v}_\alpha+c_2\bm{v}_\beta}$$と書けます。これに$${A-\beta E}$$を左から掛けると、
$$
\begin{align*}
(A-\beta E)
\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix}
&=c_1(A-\beta E)\bm{v}_\alpha+c_2(A-\beta E)\bm{v}_\beta\\
&=c_1(\alpha-\beta)\bm{v}_\alpha+c_2(\beta-\beta)\bm{v}_\beta\\
&=c_1(\alpha-\beta)\bm{v}_\alpha
\end{align*}
$$
となります。$${(A-\beta E)\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix}}$$は行列$${A-\beta E}$$の$${1}$$列目を表します。よって$${c_1\neq0}$$ならば$${\alpha}$$の固有ベクトルが取り出せるのです。
以上で、この場合について、ジョルダン標準形として対角化ができました。そのための基底である固有ベクトルを求めることもできました。
固有ベクトルがケーリー-ハミルトンの定理の式の中に見出せたことが重要だと思います。このことは今後何度も利用します。
これらの内容は、長谷川浩司 著『線型代数ーーLinear Algebra [改訂版]』(日本評論社、2015)pp.72-73にも書かれています。
対角化不可能であるとき
再び繰り返しになりますが、この場合は$${\phi_A(x)=\psi_A(x)=(x-\alpha)^2}$$です。
ケーリー-ハミルトンの定理から、$${(A-\alpha E)(A-\alpha E)=0}$$が成り立ちます。最小多項式の形から$${A-\alpha E\neq0}$$であるため、$${A-\alpha E=\begin{bmatrix}\bm{v}_1 & \bm{v}_2\end{bmatrix}}$$とすれば、$${2}$$個の列ベクトル$${\bm{v}_1,\bm{v}_2}$$の少なくとも一方は$${0}$$でなく、$${\alpha}$$の固有ベクトルとなります。
$${\bm{v}_i\neq0}$$とします。よって$${A\bm{v}_i=\alpha\bm{v}_i}$$です。標準基底$${\bm{e}_1=\begin{bmatrix}1\\ 0\end{bmatrix},\bm{e}_2=\begin{bmatrix}0\\ 1\end{bmatrix}}$$とすると、$${(A-\alpha E)\bm{e}_i=\bm{v}_i}$$です。すなわち、標準基底に左から行列を掛けると行列の第$${i}$$列目を取り出すことができます。よって、$${A \bm{e}_i=\alpha \bm{e}_i+\bm{v}_i}$$が成り立ちます。したがって、以下のようにジョルダン標準形への変形ができるようになります。
$$
\begin{align*}
A\begin{bmatrix}\bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\alpha\bm{v}_i & \alpha\bm{e}_i+\bm{v}_i\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}\bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}\alpha & 1\\ 0 & \alpha\end{bmatrix}\\
\begin{bmatrix}\bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}^{-1}
A
\begin{bmatrix}\bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\alpha & 1\\ 0 & \alpha\end{bmatrix}
\end{align*}
$$
ここでも$${\bm{v}_i,\bm{e}_i}$$が線型独立であるため上式の逆行列が存在することが言えます。$${\bm{v}_i,\bm{e}_i}$$が線型独立であることは、
$${(A-\alpha E)\bm{v}_i=0, (A-\alpha E)\bm{e}_i\neq0,(A-\alpha E)^2\bm{e}_i=0}$$から示せます。確認してみてください。
(補足: それぞれが冪零行列$${A-\alpha E}$$の異なる階数の空間に属するということです。冪零行列の異なる階数のベクトルは互いに独立です)
以上で$${2}$$次正方行列の対角化不可能な場合のジョルダン標準形に変形するための基底が$${1}$$組だけ分かりました。これ以外にも取り方は無数にありますが、上記のものはケーリー-ハミルトンの定理の式から固有ベクトルを見つけ、さらに一般固有空間の別のベクトルを標準基底という、そこら辺にあるものにとれたのが嬉しいです。
(補足: 標準基底を選んでもよいことは、$${(A-\alpha E)^2=0}$$から$${2}$$次元ベクトルはすべて冪零行列$${A-\alpha E}$$の階数$${2}$$以下の空間に属するため、かなり恣意的に基底を選べることによります)
(「一般固有空間」の説明を書くのを忘れました。線型代数の教科書をご参照ください)
例で考えてみよう1
長谷川浩司 著『線型代数ーーLinear Algebra [改訂版]』(日本評論社、2015)のp.72にある問を考えてみます。
それは$${A=\begin{bmatrix}0&1\\-1&2\end{bmatrix}}$$をジョルダン標準形に変形してみよ、というものです。まずは固有方程式を計算します。
$$
\begin{align*}
\phi_A(x)&=\det(xE-A)=\begin{vmatrix}x&-1\\1&x-2\end{vmatrix}\\
&=x(x-2)+1=x^2-2x+1=(x-1)^2
\end{align*}
$$
よって固有値は$${1}$$です。$${A}$$は対角行列でないため、$${\begin{bmatrix}1&1\\0&1\end{bmatrix}}$$というジョルダン標準形に変形できることが分かります。
$${A-E=\begin{bmatrix}-1&1\\-1&1\end{bmatrix}}$$です。$${2}$$個の列ベクトルが$${1}$$次従属であることが分かります。$${\bm{v}_2=\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}}$$は固有値$${1}$$の固有ベクトルです(もう片方もそうですが)。$${\bm{v}_2}$$は$${A-E}$$の$${2}$$列目ですから、$${(A-E)\bm{e}_2=\bm{v}_2}$$です。これらのことを実際に確認し、ジョルダン標準形に変形してみましょう。
$$
\begin{align*}
A\bm{v}_2
&=\begin{bmatrix}0&1\\-1&2\end{bmatrix}\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}
=\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}=\bm{v}_2\\
A\bm{e}_2
&=\begin{bmatrix}0&1\\-1&2\end{bmatrix}\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix}
=\begin{bmatrix}1\\2\end{bmatrix}
=\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}+\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix}
=\bm{v}_2+\bm{e}_2\\
A\begin{bmatrix}\bm{v}_2&\bm{e}_2\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\bm{v}_2&\bm{v}_2+\bm{e}_2\end{bmatrix}
=\begin{bmatrix}\bm{v}_2&\bm{e}_2\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}1&1\\0&1\end{bmatrix}\\
\begin{bmatrix}1&1\\0&1\end{bmatrix}^{-1}A\begin{bmatrix}1&1\\0&1\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}1&1\\0&1\end{bmatrix}
\end{align*}
$$
無事にジョルダン標準形に変形できました。変形するための基底も$${1}$$組見つけられました。
長谷川先生の教科書では、$${(A-E)\bm{w}=\bm{v}_2}$$となる$${\bm{w}}$$を探して見つけると書かれていますが、どうやって見つけるかは書かれていません。それはもちろん、超簡単な計算で分かるので、というか見ただけで分かるので、わざわざ本に書く必要もないことではあるのですが、本記事では標準基底のどれかでよいということを敢えて書きました。この例では$${\bm{w}=\bm{e}_2}$$でした。
3次正方行列の場合
$${3}$$次の場合もジョルダン標準形に変形してみます。$${2}$$次のときと似ていますが、少し異なる箇所もあります。
$${3}$$次正方行列$${A}$$の固有方程式は相異なる$${3}$$個の複素数$${\alpha,\beta,\gamma}$$に対して以下の①②③の$${3}$$種類です。①は対角化可能であると即分かります。②と③に対しては$${\mathrm{rank}}$$を計算し、ジョルダン標準形を突き止めることができます。$${\mathrm{rank}}$$は相似変形で不変ですのでジョルダン標準形に変形後の方で考えると分かりやすいと思います。なお記号$${\sim}$$は行列の相似変形で同値という意味です。
$$
\begin{align*}
①&相異なる固有値が3個のとき\\
&\phi_A(x)=(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)である\\
&A\sim\begin{bmatrix}
\alpha & 0 & 0\\
0 & \beta & 0\\
0 & 0 & \gamma
\end{bmatrix}\\
②&相異なる固有値が2個のとき\\
&\phi_A(x)=(x-\alpha)^2(x-\beta)である\\
&⚫︎\mathrm{rank}(A-\alpha E)=1のとき\\
& A\sim\begin{bmatrix}
\alpha & 0 & 0\\
0 & \alpha & 0\\
0 & 0 & \beta
\end{bmatrix},\psi_A(x)=(x-\alpha)(x-\beta)\\
&⚫︎\mathrm{rank}(A-\alpha E)=2のとき\\
& A\sim\begin{bmatrix}
\alpha & 1 & 0\\
0 & \alpha & 0\\
0 & 0 & \beta
\end{bmatrix},\psi_A(x)=(x-\alpha)^2(x-\beta)\\
③&固有値が1個だけのとき\\
&\phi_A(x)=(x-\alpha)^3である\\
&⚫︎\mathrm{rank}(A-\alpha E)=0のとき\\
& A=\begin{bmatrix}
\alpha & 0 & 0\\
0 & \alpha & 0\\
0 & 0 & \alpha
\end{bmatrix},\psi_A(x)=x-\alpha\\
& (もとから対角行列であるということ)\\
&⚫︎\mathrm{rank}(A-\alpha E)=1のとき\\
& A\sim\begin{bmatrix}
\alpha & 0 & 0\\
0 & \alpha & 1\\
0 & 0 & \alpha
\end{bmatrix},\psi_A(x)=(x-\alpha)^2\\
&⚫︎\mathrm{rank}(A-\alpha E)=2のとき\\
& A\sim\begin{bmatrix}
\alpha & 1 & 0\\
0 & \alpha & 1\\
0 & 0 & \alpha
\end{bmatrix},\psi_A(x)=(x-\alpha)^3\\
\end{align*}
$$
それではそれぞれの場合について、ジョルダン標準形に変形するための基底を考えてみます。
①相異なる固有値が3個のとき
この場合は$${2}$$次の対角化可能であるときと同様に、ケーリー-ハミルトンの定理の式の中に固有ベクトルがあります。
すなわち、$${(A-\alpha E)(A-\beta E)(A-\gamma E)=0}$$ですから、$${\alpha}$$に対する固有ベクトルは$${(A-\beta E)(A-\gamma E)}$$の列ベクトルのいずれかです。$${0}$$でない列ならどれでもいいです。ただし$${3}$$次正方行列の掛け算をせねばならず面倒です。
$${\beta,\gamma}$$に対する固有ベクトルも同様です。愚直にやると$${3}$$次正方行列の掛け算を$${3}$$回やることになるので大変です。
多少、労力を減らす方策として次のようなことは考えられます。
まず$${A-\gamma E=\begin{bmatrix}\bm{v}_1 & \bm{v}_2 &\bm{v}_3\end{bmatrix}}$$とします。
$${\mathrm{rank}(A-\gamma E)=2}$$ですから、$${\bm{v}_1,\bm{v}_2,\bm{v}_3}$$のうち少なくとも$${2}$$個は$${0}$$ではありません。仮に$${\bm{v}_1\neq0}$$とします。
もし$${(A-\beta E)\bm{v}_1=0}$$ならば、$${\bm{v}_1}$$は$${\beta}$$の固有ベクトルです。そして$${i=2,3}$$のどちらかに対して$${(A-\beta E)\bm{v}_i}$$が$${\alpha}$$の固有ベクトルです。
一方、$${(A-\beta E)\bm{v}_1\neq0}$$ならば、$${(A-\beta E)\bm{v}_1}$$が$${\alpha}$$の固有ベクトルです。そして$${i=2,3}$$のどちらかに対して$${(A-\alpha E)\bm{v}_i}$$が$${\beta}$$の固有ベクトルです。
$${\gamma}$$の固有ベクトルも、上記と同様にして見つけるか、または$${\alpha,\beta}$$の固有ベクトル両方と直交するものを作ればよいです。
いずれにしても大変ですね。この場合は計算が大変になる不運なものとして諦めるしかなさそうです。
②相異なる固有値が2個のとき
$${\mathrm{rank}(A-\alpha E)}$$を計算することで最小多項式とジョルダン標準形の型は同時に決まります。それぞれに応じて基底を求めます。
⚫︎$${\mathrm{rank}(A-\alpha E)=1}$$のとき
まず$${\psi_A(A)=(A-\beta E)(A-\alpha E)=0}$$です。$${\mathrm{rank}}$$から$${A-\alpha E}$$の$${3}$$個の列ベクトルが張る空間は$${1}$$次元です。よって$${0}$$でない列ベクトルはどれでも$${\beta}$$の固有ベクトルです。
また$${\mathrm{rank}(A-\beta E)=2}$$です。よって$${A-\beta E}$$の列ベクトルから$${2}$$個独立なものをとれますが、それらが$${\alpha}$$の固有ベクトルです。
以上の基底の取り方で$${\begin{bmatrix}\alpha & 0 & 0\\0 & \alpha & 0\\0 & 0 & \beta\end{bmatrix}}$$の形に変形できます。ケーリー-ハミルトンの定理の式の約数である最小多項式の中にすべての固有ベクトルがあるため、非常に簡単に対角化できました。
⚫︎$${\mathrm{rank}(A-\alpha E)=2}$$のとき
$${N_\alpha:=A-\alpha E, N_\beta:=A-\beta E}$$とします。$${\psi_A(A)=N_\alpha^2 N_\beta=0}$$です。$${N_\alpha,N_\beta}$$は可換ですから掛ける順序は任意でよいです。
$${\mathrm{rank}N_\beta =2}$$ですから、その列ベクトルの中には独立なものが$${2}$$個存在します。それらは$${\ker N_\alpha, \ker N_\alpha^2\backslash\ker N_\alpha}$$の基底とすることができます。その取り方を以下で説明します。
$${N_\beta=\begin{bmatrix}\bm{v}_1 & \bm{v}_2 & \bm{v}_3\end{bmatrix}}$$とします。$${i=1,2,3}$$に対して$${N_\alpha\bm{v}_i\neq0}$$となる$${\bm{v}_i}$$を見つけます。すなわち$${N_\alpha N_\beta}$$を計算して$${0}$$にならない列を見つけるということです。それは必ず見つかり、$${\bm{v}_i\in\ker N_\alpha^2\backslash\ker N_\alpha, N_\alpha\bm{v}_i\in\ker N_\alpha}$$です。これで$${\alpha}$$に対する一般固有空間の基底が取れました。
次に$${\beta}$$の固有ベクトルの取り方です。まず$${\mathrm{rank}N_\alpha=2}$$です。$${N_\beta N_\alpha N_\alpha=0}$$から$${N_\alpha}$$の列ベクトルは$${\alpha}$$の固有ベクトルと$${\beta}$$の固有ベクトルで生成されることが分かります。よって$${N_\alpha}$$に$${N_\alpha}$$を左から掛けることで$${\alpha}$$の固有ベクトルは削ぎ落とされ、$${N_\alpha^2}$$の$${0}$$でない列が$${\beta}$$の固有ベクトル$${\bm{v}_\beta}$$です。よって面倒ではあるのですが$${N_\alpha^2}$$を計算するのです。
以上で基底$${N_\alpha\bm{v}_i,\bm{v}_i,\bm{v}_\beta}$$を取ることができました。ジョルダン標準形への変形は以下のようにできます。
$$
\begin{align*}
A\begin{bmatrix}N_\alpha\bm{v}_i & \bm{v}_i & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\alpha N_\alpha\bm{v}_i & N_\alpha\bm{v}_i+\alpha\bm{v}_i & \beta\bm{v}_\beta\end{bmatrix}\\
&=\begin{bmatrix}N_\alpha\bm{v}_i & \bm{v}_i & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\alpha & 1 & 0\\
0 & \alpha & 0\\
0 & 0 & \beta
\end{bmatrix}\\
\begin{bmatrix}N_\alpha\bm{v}_i & \bm{v}_i & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}^{-1}A\begin{bmatrix}N_\alpha\bm{v}_i & \bm{v}_i & \bm{v}_\beta\end{bmatrix}
&=
\begin{bmatrix}
\alpha & 1 & 0\\
0 & \alpha & 0\\
0 & 0 & \beta
\end{bmatrix}\\
\end{align*}
$$
この場合のジョルダン標準形の基底の選び方は$${N_\alpha N_\beta, N_\alpha^2}$$を計算するという力技でした。あまり面白くなく、ただ大変だったので、このパターンに出会ったら不運と思うしかないです。もし他に良い方法があれば教えてください。
③固有値が1個だけのとき
●$${\mathrm{rank}(A-\alpha E)=0}$$のとき
この場合は既述のように、もとから対角行列であるはずですので、何もやることはありません。
●$${\mathrm{rank}(A-\alpha E)=1}$$のとき
$${N_\alpha:=A-\alpha E}$$とします。この場合は$${\psi_A(A)=N_\alpha^2=0}$$です。よって$${N_\alpha}$$の$${0}$$でない列ベクトルが$${\alpha}$$の固有ベクトルです。$${\mathrm{rank}N_\alpha=1}$$より$${N_\alpha}$$の列ベクトルからは$${\alpha}$$の固有ベクトルは$${1}$$個しか見つかりません。$${i}$$番目の列ベクトル$${\bm{v}_i}$$が$${0}$$でないとします。そして標準基底$${\bm{e}_i}$$に対して$${N_\alpha \bm{e}_i=\bm{v}_i}$$です。これは$${2}$$次正方行列の対角化不可能な場合と同様の操作です。
これでジョルダン標準形に変形するための基底のうち$${\bm{v}_i\in\ker N_\alpha}$$と$${\bm{e}_i\in\ker N_\alpha^2\backslash\ker N_\alpha }$$が得られました。
あとは$${\ker N_\alpha}$$の元をもう$${1}$$個見つける必要があります。それは上記で$${\bm{e}_i}$$を取れたことで簡単に見つかります。例えば$${\bm{v}_1=\begin{bmatrix}x\\y\\z\end{bmatrix}\neq0}$$である場合、$${\bm{v}_1,\bm{e}_1}$$両方と直交する$${\begin{bmatrix}0\\-z\\y\end{bmatrix}}$$を取ればよいです。具体的な行列で、これが実際に$${\alpha}$$の固有ベクトルになっていることが確認できると非常に気持ちがいいです。このパターンに出会った時は極めて幸運と思ってください。←間違っていました。直交するからといってそれが第$${2}$$の固有ベクトルになっている保証はありませんでした。
直交する$${\begin{bmatrix}0\\-z\\y\end{bmatrix}}$$から$${\bm{e}_1,\bm{v}_1}$$をヒントにして第$${2}$$の固有ベクトルを見つけるか、掃き出し法で見つければよいと思います。
このようにして見つけた$${\ker N_\alpha}$$の元を$${\bm{u}}$$として、ジョルダン標準形への変形は以下のようになります。
$$
\begin{align*}
A\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\alpha\bm{u} & \alpha\bm{v}_i & \alpha\bm{e}_i+\bm{v}_i\end{bmatrix}\\
&=\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\alpha & 0 & 0\\
0 & \alpha & 1\\
0 & 0 & \alpha
\end{bmatrix}\\
\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}^{-1}A\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
&=
\begin{bmatrix}
\alpha & 0 & 0\\
0 & \alpha & 1\\
0 & 0 & \alpha
\end{bmatrix}\\
\end{align*}
$$
このパターンは基底として標準基底を$${1}$$個利用することができ、他の基底も手続き的に取れるので、ジョルダン標準形に変形するのが楽しいものでした。
←第$${2}$$の固有ベクトルがどこにあるのか、よく分からなかったため、このパターンが一番曲者だと思うようになりました。
●$${\mathrm{rank}(A-\alpha E)=2}$$のとき
いよいよ最後のパターンです。ここでも$${N_\alpha:=A-\alpha E}$$とします。
$${\psi_A(A)=N_\alpha^3=0}$$です。
$${N_\alpha=\begin{bmatrix}\bm{v}_1 & \bm{v}_2 & \bm{v}_3\end{bmatrix}}$$とします。
$${N_\alpha\bm{v}_i\neq0}$$である$${i}$$が少なくとも$${1}$$個あります。
$${N_\alpha^2\bm{v}_i=0}$$です。また$${N_\alpha\bm{e}_i=\bm{v}_i}$$です。
もうこれで以下のようにジョルダン標準形に変形できます。
$$
\begin{align*}
A\begin{bmatrix}N_\alpha\bm{v}_i & \bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\alpha N_\alpha\bm{v}_i & \alpha\bm{v}_i+N_\alpha\bm{v}_i & \alpha\bm{e}_i+\bm{v}_i\end{bmatrix}\\
&=\begin{bmatrix}N_\alpha\bm{v}_i & \bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
\alpha & 1 & 0\\
0 & \alpha & 1\\
0 & 0 & \alpha
\end{bmatrix}\\
\begin{bmatrix}N_\alpha\bm{v}_i & \bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}^{-1}A\begin{bmatrix}N_\alpha\bm{v}_i & \bm{v}_i & \bm{e}_i\end{bmatrix}
&=
\begin{bmatrix}
\alpha & 1 & 0\\
0 & \alpha & 1\\
0 & 0 & \alpha
\end{bmatrix}\\
\end{align*}
$$
このパターンは基底が手続き的にサクッと見つかり、簡単にジョルダン標準形に変形できるので、出会えたらラッキーです。
例で考えてみよう2
長谷川先生の教科書のp.302の例を引用します。次の行列をジョルダン標準形に変形してみましょう。
$$
A=
\begin{bmatrix}
0 & 0 & -1\\
1 & 0 & 1\\
0 & 1 & 1
\end{bmatrix}
$$
まず固有多項式を計算します。
$$
\begin{align*}
\phi_A(x)
&=\begin{vmatrix}
x & 0 & 1\\
-1 & x & -1\\
0 & -1 & x-1
\end{vmatrix}
=x
\begin{vmatrix}
x & -1\\
-1 & x-1
\end{vmatrix}
+
\begin{vmatrix}
-1 & x\\
0 & -1
\end{vmatrix}\\
&=x\{x(x-1)-1\}+1=x^2(x-1)-x+1\\
&=(x-1)(x^2-1)=(x-1)^2(x+1)
\end{align*}
$$
よって、上記の②のパターンです。
最小多項式は$${(x-1)^2(x+1),(x-1)(x+1)}$$のどちらかです。最小多項式を突き止めるため、$${\mathrm{rank}(A-E)}$$を調べます。
$$
\begin{align*}
A-E
&=
\begin{bmatrix}
-1 & 0 & -1\\
1 & -1 & 1 \\
0 & 1 & 0
\end{bmatrix}
\end{align*}
$$
じっと見ると$${\mathrm{rank}(A-E)=2}$$であると分かります。その瞬間に$${\psi_A(x)=(x-1)^2(x+1)}$$であることと、$${A\sim\begin{bmatrix}1 & 1 & 0\\0&1&0\\0&0&-1\end{bmatrix}}$$であることが同時に見抜けます。
あとはジョルダン標準形に変形するための基底を求めるだけです。
$$
\begin{align*}
(A-E)(A+E)&=A^2-E\\
&=
\begin{bmatrix}
0 & -1 & -1\\
0 & 1 & 0\\
1 & 1 & 2
\end{bmatrix}-E\\
&=
\begin{bmatrix}
-1 & -1 & -1\\
0 & 0 & 0\\
1 & 1 & 1
\end{bmatrix}
\end{align*}
$$
この行列の$${\mathrm{rank}}$$が$${1}$$であることは当然のことです。
$${\begin{bmatrix}-1\\0\\1\end{bmatrix}}$$が$${A}$$の固有値$${1}$$の固有ベクトルであることが分かりました。これを$${\bm{u}}$$とします。
また、$${A+E}$$のどの列ベクトルも$${\ker(A-E)^2\backslash\ker(A-E)}$$の元であることも分かりました。$${A+E}$$の$${1}$$列目は$${\begin{bmatrix}1\\1\\0\end{bmatrix}}$$です。これを$${\bm{v}_1}$$とします。
$${(A-E)\bm{v}_1=\bm{u}}$$です。これらのことを以下の計算で確かめてみます。
$$
\begin{align*}
A\bm{u}
&=
\begin{bmatrix}
0 & 0 & -1\\
1 & 0 & 1\\
0 & 1 & 1
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}-1\\0\\1\end{bmatrix}
=\begin{bmatrix}-1\\0\\1\end{bmatrix}
=\bm{u}\\
A\bm{v}_1
&=
\begin{bmatrix}
0 & 0 & -1\\
1 & 0 & 1\\
0 & 1 & 1
\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}1\\1\\0\end{bmatrix}
=\begin{bmatrix}0\\1\\1\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}-1\\0\\1\end{bmatrix}
+\begin{bmatrix}1\\1\\0\end{bmatrix}=\bm{u}+\bm{v}_1
\end{align*}
$$
期待通りの結果が出ました。
次に固有値$${-1}$$の固有ベクトルを見つけます。この場合は$${(A+E)\bm{x}=0}$$を解く方が早いですが、$${(A-E)^2}$$を計算するという本記事の方針でやってみます。
$$
\begin{align*}
(A-E)^2
&=A^2-2A+E\\
&=
\begin{bmatrix}
0 & -1 & -1\\
0 & 1 & 0\\
1 & 1 & 2
\end{bmatrix}-
\begin{bmatrix}
0 & 0 & -2\\
2 & 0 & 2\\
0 & 2 & 2
\end{bmatrix}+
\begin{bmatrix}
1 & 0 & 0\\
0 & 1 & 0\\
0 & 0 & 1
\end{bmatrix}\\
&=
\begin{bmatrix}
1 & -1 & 1\\
-2 & 2 & -2\\
1 & -1 & 1
\end{bmatrix}
\end{align*}
$$
$${\mathrm{rank}(A-E)^2=1}$$であり、これも期待通りの結果です。
固有値$${-1}$$の固有ベクトルは$${\begin{bmatrix}1\\-2\\1\end{bmatrix}}$$を選べます。これを$${\bm{w}}$$とします。
以上により、次のようなジョルダン標準形への変形ができます。
$$
\begin{align*}
A\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{v}_1 & \bm{w}\end{bmatrix}
&=\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{u}+\bm{v}_1 & -\bm{w}\end{bmatrix}\\
&=\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{v}_1 & \bm{w}\end{bmatrix}
\begin{bmatrix}
1& 1 & 0\\
0 & 1& 0\\
0 & 0 &-1
\end{bmatrix}\\
\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{v}_1 & \bm{w}\end{bmatrix}^{-1}A\begin{bmatrix}\bm{u} & \bm{v}_1 & \bm{w}\end{bmatrix}
&=
\begin{bmatrix}
1& 1 & 0\\
0 & 1 & 0\\
0 & 0 & -1
\end{bmatrix}
\end{align*}
$$
逆行列の計算は省略します。
まとめ
$${3}$$次以下の正方行列で固有値が求まっていると仮定して、全パターンのジョルダン標準形について基底の選び方を考えることができました。
ケーリー-ハミルトンの定理や最小多項式、標準基底を利用して、なるべく無駄なく基底を選ぶことができる場合もあれば、面倒な行列計算を要するものもありました。
すべてのパターンを見ましたが、ジョルダン標準形への変形の方法を覚えるのではなく、変形のための基底をいかに効率的に選ぶかということを意識することが重要だと思いました。
$${3}$$次の③の場合がいちばん計算が楽しいので、その例を出せればよかったのですが、力尽きて今回は断念しました。別途、ご紹介したいと思います。
軽い気持ちで本記事を書き始めましたが、かなり長くなってしまい、やるんじゃなかったと後悔しました。
また、$${4}$$次以上では、特別な行列でなければ、手計算でジョルダン標準形への変形をやり切るのはかなり困難だと感じました。
(おしまい)