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ネット上の誹謗中傷について考えてみた

この記事の目的

最近も有名人や企業や一般人のネット投稿が炎上している。過去に似たような炎上もあり、またかという気持ちである。
幸い、自分はまだ投稿が炎上したことはない。しかし、いつか不用意な投稿をして炎上をしてしまうかもしれない。いや、きっとするだろう。
そのとき適切な対応ができるように、さらにはなるべく炎上してしまわないように準備をしておこうと思い、まずは図書館で本を4冊借りてきて勉強してみた。
この記事ではそれらの本を読んだ感想を紹介するのが目的だ。
先に結論を言ってしまうと、自分の投稿が炎上してしまうことを心配する他に、自分が炎上に参加し誹謗中傷する加害者側になってしまうことにも、もっと気をつけるべきだと思った

以下に読んだ感想を記す。


①『SNS炎上なんてしないと思っている人が読むべき本』


手軽に読める薄めの本

◯どんな本?

2022年発行。
SNS炎上とは何か、どういった原因で起こるか、炎上予防策、炎上してしまったときの対策、などについて全般的に易しく解説。過去の炎上例を示している。ライター&弁護士の執筆体制で、法的な対抗策も記載されている。
右ページに文章説明、左ページに図解という分かりやすい構成。150ページ程度、手帳のような、手軽に読める本である。

◯内容と感想

不用意な投稿をして炎上の被害者になってしまうことに焦点を当てた本である。
SNSを長くやっている人なら、この本に書かれてあることの8割以上はすでに知っていると思う。私もほとんど知ってるな〜、って思いながら読んだが、以下の二箇所は参考にしたいと思った。

  1. 炎上予防策: SNS運用ルールをスマホの待受画面に置く!
    SNSを利用するうえでのルールを自分で定め、それをいつも見えるところに置いておくということ。具体的に、iPhoneなら付箋アプリでウィジットという機能(下図参照)を使う。このような対策をしていれば不用意な投稿による炎上を防げるかもしれない。

  2. 炎上してしまったときの法的措置
    削除請求と発信者情報開示の手続きが参考になった。詳細はここでは省略する。

SNS運用ルールをスマホの待受画面に置く!

本書ではその他に、スマホの設定方法の解説など、具体的な操作方法が書かれており、実用性の高い本だと思う。

◯どんな人にオススメか

ネット炎上について、まずは手軽に考えたい人向け。


②『100万回の殺害予告を受けた弁護士が教える危機管理 そのツイート炎上します!』


手軽に読めますが、炎上した人たちの体験にはショックを受けます

◯どんな本?

2019年発行。
ネット上で誹謗中傷や殺害予告を受けた弁護士・唐澤貴洋氏による書。第1章は過去の有名な炎上例。2章以降は、炎上の原因、防止策、炎上が起こってしまったときの行動、について書かれている。そして、ネット炎上を経験した有名人等との対談も掲載されている。書名などからツイッター炎上に特化した本ととられそうだが、他のネット炎上に当てはまる内容も多い。
残念ながら初版は誤字が比較的多い。

◯内容と感想

不用意な投稿で炎上してしまうケースや、事実無根の理由で理不尽に炎上してしまうケースを扱っているが、後者の方が比重が大きい本だと思う。

唐澤氏は、ツイッターに対しては、短文であるがゆえに過激で不快な印象をダイレクトに与えやすいと評している。加えて、いつもスマホが手元にあることで、投稿するまでの時間が短く推敲をしないで動物的な感覚で投稿してしまっていると指摘している。確かにそのような傾向があると私も思う。

炎上が拡大する要因として、炎上の対象となる人物の個人情報を暴く「特定班」の存在を指摘していることも興味深かった。

また、弁護士である唐澤氏による、炎上が起こってしまった際にとるべき行動が比較的詳しく書かれており、一読に値すると思う。

さらに、スマイリーキクチ氏、はあちゅう氏との対談の文章は非常に面白かった。

スマイリーキクチ氏は、根拠もなく殺人事件の犯人であるとネットに書き込みをされ、長年誹謗中傷を受けていたことは知っている人も多いと思う。その件に関して、私は本書ではじめて少し詳しいことを知り、スマイリーキクチ氏がかなり最善の対抗策を講じていたのだと分かった。非常にためになった。

はあちゅう氏は、ご本人もおっしゃっているように「炎上体質」になっており、氏の言動が頻繁にネット炎上につながってしまっている。失礼ながら、正直に言ってこの対談で読むだけでも、確かにはあちゅう氏の発言はネット民の敵対心を煽るようなところがあると感じてしまった。私ならネット炎上を起こさないように、発言内容に気を付ける方向を考えるが、はあちゅう氏は少し違う。誰にも表現の自由はあるのだから、ありのままの自分でいるべきで、誹謗中傷する側を取り締まることができる社会を望んでいるようだった。もちろん氏も無配慮で発言していいなどとは言っていない。

ネット炎上に関わってきた著名人たちの実体験に基づいた知見が本書の価値を高めていると感じた。

◯どんな人にオススメか

SNSをやる有名人は全員本書を読むべきだと思う!!


③『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃をふるうのか』


新聞記者たちによるしっかりした書

◯どんな本?

2020年発行。
毎日新聞取材班による、ウェブや新聞紙面での連載をもとにして編んだ書。
社会問題としてのSNS炎上をさまざまな角度から書いている。

◯内容と感想

過去の炎上例から入るのは他の本と同じだが、加害者側の取材もしているのが特長である。加害者のプロファイリングが上記の2冊よりも丁寧になされている印象。

本書によると、ネット上の誹謗中傷において加害者は普通の人ばかりで、年齢層や男女比などはネットユーザーの統計とほぼ同じらしい。

また、加害者の多くは、被害者側がプロバイダー業者などに発信者情報の開示請求をし、業者からそれに同意するかを問う意見照会書が送られてきて、そこではじめて自身の悪質な行為に気づくらしい。

第3章で炎上参加者に関する調査結果が紹介されているが、意外だったのは「男性」「子持ち」「若い」「世帯年収が高い」「ラジオ聴取時間が長い」「ソーシャルメディアの利用時間が長い」といった人ほど炎上に参加する傾向が高いそうだ(国際大学の山口真一准教授の2014年の調査による)。

とくに「世帯年収が高い」というのは自分の想像と違うと感じたが、加害者の動機を「祭り型」と「制裁型」に分類すると、「制裁型」の加害者は経済的状況への満足度が低い傾向にあるらしいことが後に書かれている。

さらにその後に、「内在的公正推論」という考えが紹介される。簡単に言うと善行は報われ悪事は罰せられるというところか。先述の炎上参加者の傾向にあった年収が高い人たちは、内在的公正推論を抱く人たちと共通点が多いのでは、という推測が展開されている。

その他にもネットに関する話題を広く扱っており、とても勉強になった。
炎上というと、自分の投稿が炎上してしまい、誹謗中傷を受けてしまうことに意識が向かいがちだが、自分が中傷する側に回ることもあり得ると反省させられた。

◯どんな人にオススメか

SNS炎上について社会的な問題として真剣に学びたい人向け。
炎上参加者や誹謗中傷等の加害者側についても知りたい人にオススメ。


④『炎上する社会 企業広報、SNS公式アカウント運営が知っておきたいネットリンチの構造』


エビデンスに基づいて書かれた学術書

◯どんな本?

2021年発行。
博士論文をベースにして再編した学術書。ネット炎上を現象として観察し分析している。
図表の中にたまに誤字あり(p.32 liveddor、p.134直接講義など)。

◯内容と感想

過去にあった炎上例を、データとともに客観的に分析し、考察をしている。学術書であるため、読むのに多少根気は必要だが、興味深い議論が展開されているのできっと多くの人が楽しく読めると思う。調査方法などについても記載されているため、内容も信頼できる。

企業広報のSNS運営に対するさまざまな指南が与えられていることも本書の特長だ。

私も全ページを完全に理解できたわけではないが、今回読んだなかではいちばん有用な本だと感じた。以下、私が関心をもった箇所を断片的に記す。

1章で紹介されていた、ネットと既存メディアは相互にリンクして複合的なメディア環境を作っているという、「間メディア社会」という概念が興味深い。
エコーチャンバーサイバーカスケードといった概念の解説もあり。前者は最近もよく聞くが、私は後者には本書ではじめて出会った。

ネット炎上がある時期に増加して、現在の推移に至っていることの説明として、ソーシャルメディアの発達と多様化、そして間メディア社会の進展が挙げられている。すなわち、多くの人がソーシャルメディアを利用するようになり、不用意な投稿とそれに対する批判が増加した。既存メディアもそういった炎上を報道するようになったということだ。

また、ネット炎上の拡大に大きな影響を与える媒体としてネットニュースが挙げられる。炎上を古くから報じている「J-CASTニュース」へのインタビューがおもしろい。この媒体では炎上ネタも裏取りをしているそうだ。また、炎上ネタは衆目を集めるため、いい儲けになるかと思いきや、いろいろリスクもあるようで必ずしも割りのいいジャンルではないようだ。

テレビのニュース番組で炎上を知った人は、その炎上に対して否定的な態度をとる傾向がある(「炎上するのは常識がないから」「炎上には社会正義として意味がある」という態度を持ちやすい)ということも重要な知見だ。

Twitterでの投稿について、リツイートは同質的なネットワークで、リプライやメンションは意見対立や議論で用いられると書かれてあった。リツイートには引用リツイートも含まれるのか、そうでないのかはよくわからなかった。

企業が炎上した場合、企業側の対応として、公式ウェブサイトだけで情報発信するのでは不十分でありTwitterなどのソーシャルメディアで周知する方がよいかもしれないと示唆している。

Twitterでの炎上は、真正面から批判している投稿より、「うまいことを言った」投稿の方が注目されやすいかも、という分析もある。

また、炎上における批判の応酬は、言いっ放しで終わっており異なる意見の人を説得するのはかなり難しいと評価されている。

炎上参加者は必ずしも全員が暴徒のようになっているのではなく、 全体的に見ると案外冷静であると分析。
どのような人が炎上に参加しやすいかという調査結果も。別の本に書かれていることと異なる結果がある。その分析はかなり興味深いが、ここで詳しく紹介することはできそうにない。

炎上には「普通の人たち」が参加していると第4章では締めくくっている。

企業広報における炎上対応の章も興味深い。

◯どんな人にオススメか

企業広報を担当する人は是非読むといいと思う
ネット炎上について、学術的な面から知りたい人も本書から読み始めるとよさそう。

まとめ

以上、ネット炎上に関する4冊を読んだ感想を紹介した。2019年〜2022年に発行されたものであるため、情報が少し古くなっているきらいはあった。時期的に偏っているため、同じような炎上例が扱われているのも留意が必要だ。

私はXのヘビーユーザーで、たまに不用意で下品で攻撃的な投稿をしてしまっている。はっきり言って、それは一生治らないだろう。なるべく他人に迷惑をかけるような炎上を起こさないよう、SNS運用ルールを定めてスマホの待受に貼ってみた。効果があることを祈る。

今回、特に重要だと思ったのは、自分が炎上してしまうことを心配するよりも、炎上に参加して誹謗中傷する側に回っていないかをもっと意識するべきだということだ。

ただ、Xをやっていると、間違ったこと言っている御仁に巡り合うことがあり、私はミスを指摘してしまう性分である(このnote記事でもそれが現れているであろう)。なるべく、誠実な批判になるように心がけたいものである。まあ、相手がどうとるかはわからないが。(おしまい)

参考文献


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