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帰りなん、いざ: 「光る君へ」 10話

「光る君へ」感想をまとめておこうと思い立ち、ブログから転載しています2024年5月11日エントリー


 わたしにうまく要約することができるだろうか。と思いつつやってみますね。
 大河ドラマ「光る君へ」第10回、道長さんとまひろちゃんの御文のやり取りはなんだったのか、について。

 Twitter上には多くの識者(専門家)が出没するので、漢詩か、古文かの識者がどなたか解説してくれるに違いない、と思っておりましたが、いい感じにまとめてくださっている記事がありました。
 こちら。↓(2024/03/10 美術展ナビ)

 まず、道長さんからのお文は古今集から。

「思ふには 忍ぶることぞ 負けにける 色には出でじと 思ひしものを」
訳)そなたを恋しいと思う気持ちを隠そうとしたが 俺にはできない。

 まひろちゃんからの返し。

「既自以心爲形役 奚惆悵而獨悲」
「既に自ら心を以て形の役と爲す 奚(なん)ぞ惆悵して獨り悲しむ」
 訳)いままで身体(=生活)のために心を犠牲にしてきたが、もうくよくよと悲しんでいる場合ではない

https://kanshi.roudokus.com/kikyorai.html#google_vignette

 ——道長さん返し

「死ぬる命 生きもやすると こころみに
 玉の緒ばかり 逢はむと言はなむ」

訳)そなたが恋しくて死にそうな俺の命 そなたが少しでも会おうと言ってくれたら生き返るかもしれない

 ——まひろちゃん返し

「悟已往之不諫 知來者之可追」
「已往の諫めざるを悟り 來者の追ふ可きを知る」
訳)「今までが間違いだったのだ これからは正しい道に戻ればいい」

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 ——道長さん返し

「命やは なにぞは露の あだものを 逢ふにしかへば 惜しからなくに」
訳)命とは儚い露のようなものだ そなたに会うことができるなら命なんて少しも惜しくはない

 ——まひろちゃん返し

「實迷途其未遠 覺今是而昨非」
「實に途に迷ふこと 其れ未だ遠からずして 覺る 今は是にして 昨は非なるを」
訳)道に迷ってもそう遠くは離れていない。やり直せる。
 今の自分こそ正しく、昨日までの自分は間違いだったのだ。

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 ——道長さん返し。

「我亦欲相見君」
「我もまた君に相まみえんと欲す」

 陶淵明のこの詩は非常に有名ですが、学校の授業ではやらなかったかもしれませんね。

 というのは、せっかく地方から都に上がり、立派に上級官僚になったのに、どうも職が自分の理想とはかけ離れていると言って地元に戻る、その決意の詩なので。

 見る人が見れば、これを「落伍者の詩」と思うかもしれません。

 ともあれ。
 わたしはドラマを見ているときは今ひとつ、このやり取りの意味が見えていなかったわけですが、こうして解説を聞いて読むと、なるほどなあと思います。

 直秀さんの一件で、もともと自分の家にも家族にも、そして自分自身にもすっかり嫌気がさし、
「こんなところ辞めてやる」
 という気持ちの道長さん。
 もはや道長さんから熱烈な恋歌をもらっても、ときめきも喜びも表さないまひろちゃんが、この漢詩によって何を言っていたのかがやっとわかりました。

 道長さんの、もう駆け落ちしようというくらいの激情の下にあるのは、そういう、彼自身の立場からの逃避があることをまひろちゃんは見抜いていたんですね。

 彼女が言っていたのは
「直秀のことは辛いこと。でも、その悲しみに留まっていてはいけない。
 あなたにはやるべきことがある。
 わたし(=まひろ)とのことは忘れて、元の場所へ戻ってやるべきことをしなさい。
 今ならまだ間に合う」
 ということだったんですねー。そっかー。

 なるほど道長さん、まひろちゃんに振られたというのはこういうことだったのか。

 まひろちゃんの方だってしかしながら、それはつらいこと。

 これから先どうしようという思いが、まったくないはずもない。

 いずれにしてもあの場面、情と悲しみに囚われた道長さんと、その泥沼から引き起こすまひろちゃんという図だったんですねえ。

 画面の美しさに気を取られておりましたが、この上もなく悲しい逢瀬であったわけです。

 いやはや。

 花山天皇御落飾のお話もしなければならないというのに、この手紙のやり取りの場面だけでもうあれこれ調べまくってしまい、ブログエントリーもこれだけで終わりです😅
 深いなー。

 そうやって「志」では道長さんを拒絶しながら、身は寄り添い合わずにはいられないとは。
 その心が裏切っているのは身体なのか、それとも心こそが自らの心を裏切っているのか。

 たった数分のシーンのためにこんだけ文字数を使っているわたし自身にもびっくりでございます。

 道兼さんとか安倍晴明さんとか言いたいことはあるけれど。
 あたしゃこれだけで力尽きました(笑)

 本日はここまで。m(_ _)m

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みずはら
筆で身を立てることを遠い目標にして蝸牛🐌よりもゆっくりですが、当社比で頑張っております☺️

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