Jリーグのクラブチームの決算書分析 ~人件費・損益編~
公認会計士・税理士の伊勢です。「経営者の右腕となって、数字で意思決定に貢献する」ことを経営理念とし、会計事務所を経営しています。
前回はJリーグのクラブチーム(J1)における売上高について分析しましたが、今回は人件費を中心とした費用や利益の分析をしました。売上高についても触れている箇所があるので、前回の記事も併せてご覧いただければと思います。
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1 チーム人件費及び営業損益の全体像
Jリーグは毎年各クラブの経営情報を開示しており、今回も前回と同様、主に「クラブ個別経営情報開示資料」で各クラブの決算情報を確認しました。
ポイントを要約すると次の通りとなります。グラフ(筆者作成)と併せてご覧いただければと思います。
2 チーム人件費
ここでいう「チーム人件費」というのは開示されている情報から引用した用語です。選手や監督、コーチといった方々に係る人件費のことを意味していると考えられ、役員や営業、総務、人事、経理等の方々の人件費は「販売費および一般管理費」の中に含まれていると考えられます。
また、売上高チーム人件費比率は、次の計算式で算定したものです。一般的な事業会社においても「売上高人件費比率」「労働分配率」といった指標は重要視されています。
チーム人件費の金額が突出して高いヴィッセル神戸を除いたとしても、チーム人件費平均は2018年において21億4,500万円、2019年において22億4,000万円となっています。ヨーロッパのクラブチームやプロ野球と比較すると少ないのかもしれませんが、5年連続で上昇し続けており、選手や監督、コーチにとってもサッカー界にとっても喜ばしい状況ではないかと思います。
また、2019年におけるチーム人件費は25億円であり、スポンサー収入は約22億円ですから、チーム人件費の90%弱がスポンサー収入で賄われていたと考えることもできます。
3 営業損益
営業損益とは、次のように算出するものです。プラスであれば営業利益、マイナスであれば営業損失といいます。
2019年における営業損益は、△4,900万円でした。2018年までは4年連続でプラスでしたが、2019年はサガン鳥栖で計上された18億9,800万円の営業損失が大きな影響を与えています。
サガン鳥栖のチーム人件費は25億2,800万円ですが、売上高チーム人件費比率が98.7%と突出して高い水準となっています。売上高の分析の際も触れましたが、売上減少の大きな要因はスポンサー収入の減少で、2019年は2018年と比較して64.7%が減少し、売上高のほとんどをチーム人件費に投下する状況となりました。チーム人件費以外にも発生する費用はありますから、このような営業損益となっています。
なお、セレッソ大阪、北海道コンサドーレ札幌、ベガルタ仙台等においても営業損益がマイナスとなっています。
4 収益性の優れたクラブチームからわかること
2019年の平均である25億円を超えるチーム人件費を投下しながら、営業利益を出せているクラブチームを抽出しました。過去3年分の売上高(営業収益)、チーム人件費、営業利益等を記載しています。なお、ヴィッセル神戸は除いています。ポイントを要約すると次の通りとなります。
売上高がJ1全体の平均よりも高いのは当然の結果だと思いますが、スポンサー収入の構成比はJ1全体の平均が41.7%であり、これと同程度となっています。スポンサー収入だけでなく他の収入も高い水準を実現させた結果、全体の売上高が高くなっているといえます。
売上高チーム人件費比率は、J1全体の平均よりも5%程度低い45%程度となっていますので、「平均である25億円のチーム人件費を投下しながら営業利益を確保するために、売上高55億円(チーム人件費25億円を45%で割り戻した金額)を目指す。」というのは、ここに記載されていないクラブチームの目標設定の方法として考えられるかと思います。
また、傾向として関東に本拠地を置くチームが高い収益性を実現しています。人口が多く大規模な会社が多い地域ですと、ファンやスポンサーの獲得に有利であるからだと考えられます。
5 終わりに
前回に続いて、今回はJリーグ(J1)の各クラブチームの決算書を基に、人件費を中心とした損益の分析をしました。各クラブチームの貸借対照表を基に分析しましたのでぜひご覧下さい。
参考サイト:Jリーグクラブ個別経営情報https://aboutj.jleague.jp/corporate/management/club/
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