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【i.school アラムナイインタビューvo.4】デザイン×テクノロジーで、心を中心にした体験づくりの架け橋に



加藤なつみ / Natsumi Kato
株式会社Konel プロデューサー/感性工学デザイナー/知財ハンター
2018年度i.school修了生。群馬県出身。小さい頃からものを作ることが好きで、信州大学/大学院にて感性工学を学ぶ。人の心を中心に据え、現在はデザインとテクノロジーを掛け合わせたプロトタイピングなど未来の体験づくりに関わっている。

自己紹介と現在の取り組みについて

ー自己紹介をお願いします!
加藤なつみです。現在、Konelというクリエイティブカンパニーで主にプロデューサーとして活動しています。
群馬県出身で山と川に囲まれて育ち、幼いころからものづくりが好きで大学では信州大学にて感性工学を学んできました。現在の会社は、大学院を1年休学して世界各国をバックパックする傍ら様々な会社のインターンをする中で偶然出会い、そのまま入社に至りました。本日はよろしくお願いいたします。

ー現在の取り組みについておしえてください。
現在は主にKonelのプロデューサーとして企業のブランディングに携わったり、デザインとテクノロジーをかけ合わせたプロトタイピングなど、未来の体験づくりに携わっています。

数年プロジェクトを伴走している、精密板金加工を得意とする工場・コプレック
コプレック公式WEB
note

よく名刺を渡すと関心を持っていただけるのですが、「知財ハンター」の肩書きも持っています。企業や研究者が開発した技術や知財を、非研究者や生活者にもわかりやすく魅力や可能性を伝えるためにKonelからスピンオフした「知財図鑑でも活動をしています。

—具体的にはどのような活動をされてきたのでしょうか?
静岡県掛川市にある、精密板金加工を得意とするコプレックのトータルリブランディングを担当したり、PASSTOという不要になった服を次の誰かへつなぐサービスのボックス開発、家族の関係性を育むための次世代インターフェースのプロトタイピングなどを担当してきました。

他にも、性やカラダにまつわるソーシャルプロジェクト「#しかたなくない」や、ベトナムでのナショナルキャンペーンの実施、ロボットとのコミュニケーションや自然エネルギー可視化のためのUX設計など、ローカルから海外、webやプロダクトから空間まで、いろんな領域を横断してきました。常に人の心を中心に考えた企画や体験設計で、マイナスをゼロにするのではなくプラスにしたいと考えています。

パナソニックの研究プロジェクト・NRUX Prototypesの展示風景
ベトナム・ホーチミンでの投票型アイデア対決プロジェクト・IDEA ARENAの実施風景

—知財ハンターとしてはどのようなことをされていますか?
Konelには企業や研究者から、面白い技術や知財があるけれど、どうやって社会に生かしていけば良いかわからないという問い合わせがたくさん舞い込んでくるのですが、その面白い技術や知財を社内に留めるのではなく、非研究者にもわかりやすく伝えようと、知財図鑑が生まれました。知財図鑑では、どのような技術なのかをわかりやすく伝えるだけではなく、技術を使うと例えばこんなことができるのではないかという「妄想プロジェクト」も記載しています。技術起点ではなくアイデア起点で問い合わせが入って具体的な話からスタートするケースもあります。

例えばUXデザイナーとして担当したプロジェクトでSHUTTER Glass」という、見過ごす美にしおりをはさむメガネのプロトタイプがあるのですが、これは元々NECの高速カメラ物体認識技術から生まれた妄想プロジェクトです。妄想をイラストとして見える化していたところ、大阪大学から問い合わせがあり、実際にプロトタイプを共創するに至りました。

社内は皆クリエータで新しいものを生み出すことが好きなので、面白い素材や技術に関心の高いメンバーが集まっており、常日頃情報を集めては実験したりアイデアを出し合うという習慣があります。

世の中には素晴らしい技術や知財がたくさんあります。でもそれが世の中に伝わっていないだけで日の目を浴びないものもたくさんあります。それを私たちのようなクリエータが体験として世の中にアウトプットすることで、研究領域と社会をつなげる役目を担っていければと考えています。

—今の仕事の特徴と,加藤さんが関わるに至ったのは?
依頼されたものをただやるというよりは、そもそも何のためにやるのか、前提を疑ったり本質から入るというのは特徴かなと思います。

私は学生時代に感性工学を専攻していたので、人の心を中心に据えたものづくりがしたいと思っていました。便利や機能的というよりは、どんな時に人は心地よさや喜び 嬉しさ、幸せを生活の中で感じるのか、本質的に大事なことは何か、自分なりの仮説や考え、哲学の部分を大事にしていました。

大学院を休学していろんな場所でインターンシップを経験させてもらいましたが、コンサルだとものづくりまで手がけることは難しいし、デザイン事務所だと幅広いテクノロジーに触れる機会は少なく、メーカーだと全体の体験設計に携われるのは数年先になりそうだと感じ、テクノロジーとデザインを活かして企画からものづくりまで一貫して携われる場所を探していました。

そんな中たまたまKonelの作品を見つけて、テクノロジーを便利や機能軸ではない使い方をしているところやコンセプトに惹かれました。その当時はあまり情報がオープンになっていなかったのですが、問い合わせて他の作品を見せてもらったり、自分の活動の話をする中でインターンシップとして受け入れてもらえることになり、そのまま新卒入社をして現在に至ります。

金継ぎを用いて制作した作品「進化か、侵食か。」note

i.school時代の活動について

ーi.school参加のきっかけについて教えてください。
感性工学を学ぶ中で、デザイン思考に関心を持ったタイミングがあり、日本で学べる場所を探していたところi.schoolを見つけました。通年生募集のタイミングが終わっていたので、通年生以外でも応募可能かつ海外にも興味があったのでサマープログラム(TISP: Tokyo Innovation Summer Program)に参加して、翌年通年のプログラムに参加しました。

大学が長野だったのですが、当時からi.schoolはzoomやAPISNOTEなどオンラインツールを導入していたため長野県からオンラインで参加したり、たまに東京に来て1年の学びを修了しました。

TISPに参加した時の様子

ーi.school時代の思い出を教えてください!
純粋に楽しかったという記憶がとても強い
ですね。特にTISPは、海外の学生とディスカッションしたり高校生とワークショップをしたり、一緒にフィールドワークに出かけたりしたのでとても良い思い出になりましたし、その時知り合った海外の学生とも5年以上経った今でも定期的に会ったりしています。

通年プログラムでは、違う分野の人とアイディエーションをする楽しさを感じることができました。例えば同じ研究室のメンバーだけだと思考回路が似通ってしまうこともあるのですが、他の大学や分野に所属するバックグラウンドの異なる人たちと共通言語を持って一つのことを生み出すことの大変さを感じながらも、同時にその面白さを感じることができました。

当時の私にとって、社会人も含めて他の大学の人とアイディエーションをすることは魅力的で、大学も専攻もばらばらな参加者のプログラムというのはあまりないように思います。

—i.schoolの学びは仕事にどのようにつながっているのでしょうか?
仕事でもクライアントやいろんなクリエーターと一緒にプロジェクトを進める際に、どうやったら考えやすいかという視点を持てている気がします。i.schoolに参加したことで、直感だけではなく、ロジカルに客観的に物事を見るということの両輪を回す重要性に気づけました。

i.schoolに参加する前はアイデア出しは一人で黙々と直感でやるタイプだったのですが、いろいろな人を巻き込みながらアイデアを生み出していくプロセスはとても学びになりました。

休学中にロンドンのサマースクールに参加してアートのクラスを受講したのですが、頭で考えるというより直感的に手を動かし、できたアウトプットに対して意味を見出すということを体験しました。その感覚も非常に面白かったのですが、一方でi.schoolでは、手法に基づいて頭で整理しながら論理的にアウトプットを生み出すという対局のプロセスを体験しました。手を動かしつつ、ロジカルにクリエイティブを生み出すという両輪が重要だと気付けたことは、常に異なるバックグラウンドの人と一緒にものを生み出す今の仕事に活きているかもしれないですね。

ロンドンでのアートの授業の一コマ

仕事は一人ではなく常に誰かと一緒に行うものなので、i.schoolで密度の濃いチームワークを経験できたことで、ただ作るのではなくその間の合意形成プロセスが大事で、違う分野の人に伝わるような工夫をしたり、事例を持ってきたりする必要があって、感覚で伝わるものと、そうでないもののバランスを考えながらプロジェクトを推進するということにつながっているように思います。

i.school 最終ワークショップの発表時の様子

—特に印象に残っていることはありますか?
参加するまではあまりロジカルにアイデアを生み出すことに慣れておらず、直感でアイデアを思いついたけれどうまく説明できずに発言しづらいモヤモヤもあり、苦しいこともありました。

でも同時に、自分とは違う思考回路をする人がいることを体感することができました。チームワークにおいて、プロセスを組んで合意形成しながらアウトプットを生み出すことはとても大切で、それはi.schoolに入ってなかったら学べなかったように思います

あとは、大学に所属しながら参加できるということは大きかったです。いろいろな大学生が大学の授業にプラスアルファで受講しに来るので、みんなモチベーションが高くて何事も前向きに取り組む学生が多い気がします。通年プログラムが終わった後も、一緒に活動をしたり情報共有をしたり、中には起業したり世界を飛び回ったり、お互いのフィールドで自分の好きな取り組みをしている友人とのつながりが今でもあります。近い将来、一緒に仕事ができたら面白いなと思います。

i.school修了式での集合写真

今後の取り組みについて

—これから取り組みたいことについて教えてください!
国内外問わず旅が好きで、これまで国内はもちろん、海外は南米やアフリカも含めて30か国以上訪れました。長い歴史や先人たちが培ってきたその土地ならではの食やものづくり文化、古くから伝わる物語やお祭り、感動するほどの美しい自然や地球が生み出す景色に出会う中で、こういうものを守りたいし、次世代に受け継いでいきたいと強く思うようになりました。同時に、信じられないほどの猛暑や頻繁に起こる自然災害、雪が降らなくなった地元の風景や紅葉の残る冬を体験して、仕事はもちろん、日々の生活も含めて本当に大事なことは何かを見極めた上で行動していきたいと思います。

旅先での風景

今後は最先端なものや新しく何かを生み出すというよりは、昔からすでにあるものや身の回りの自然や生活について、より深く探求してみたいです。特に茅葺きやお茶、金継ぎなど、日本の各地域にある伝統的な文化や暮らしの中にこれからの時代を生きるためのヒントがたくさん詰まっていると思うし、自分が魅力的だと感じる独特の感性や精神を受け継ぐために、そういうものと向き合う時間を増やしていきたいです。あとは、大好きなピザを通じた活動も進めていきたいです!

旅先での風景

ー最後に通年生へのメッセージをお願いします。
i.schoolを修了した後も、それぞれのフィールドで好きを突き詰め、お互いに刺激しあえるような生涯の友達ができたのは、自分の人生にとって非常に大きかったです。異なるバックグラウンドの人たちと一緒にプロジェクトを立てたりアイデアを生み出すことは難しさもあるけれど、予想外の視点が舞い込んできたり、一人では想像もしなかったらアウトプットになったりしてとても面白い体験なので、ぜひ思い切り楽しんでください!

ー加藤さん、貴重なお話をありがとうございました!!


インタビュアー:松谷春花(まつや はるか)
2021年度i.school通年プログラム修了生
i.schoolリサーチインターン(2022-)
東京大学大学院学際情報学府 修士2年

写真提供:インタビュイー加藤さん

i.schoolとは

i.schoolは、東京大学 社会基盤学専攻教授・堀井秀之が2009年に始めたイノベーション教育プログラムです。社会の価値観を塗り替えるイノベーションを本気で起こしたいと考える学生が、アイディア創出法を体系的に学びます。単位も学位も出ませんが、毎年優秀な学生が幅広く集まっています。修了生は200名以上にのぼります。


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