見出し画像

【インタビュー企画vol.7】マラウイ事務所/プロジェクト調整員・萩原愛美さん

【🌏インタビュー企画🌏】
NPO法人で働く多様な人々の仕事や、国際協力のキャリアパスについての疑問を掘り下げる本企画。学生だけでなく国際協力に興味を持つ方々に向けて、ISAPHの活動を紹介し、NGOでの働き方やキャリア形成についてリアルな声や想いをお届けします。

自己紹介をお願いします。

萩原愛美です。ISAPHは5月に入職して4ヶ月、マラウイにきて3ヶ月が経ちます。職種は看護師・保健師です。出身は北海道の室蘭という小さな港町で育ちました。故郷はとても大好きです。小学校低学年の時に親の都合でタイのバンコクに住んでいて、大学は札幌の大学、看護学部で、その後成田赤十字病院で働いていました。

看護師を目指したきっかけはなんですか?

人の幸せには健康が根底にあると考えているからです。
マズローの欲求階層にも示されているように全部の欲求の根底にはやっぱり生活の欲求がありますよね。その上に自己実現や承認欲求がありますが、健康の土台がなければその欲を達成することは難しいと思い、人生の土台になる健康を支える医療とか看護は素敵だなと思いました。

国際協力と看護師が紐づいたのはいつ頃でしたか?

小学校低学年の時にタイに住んでいたのですが、自分と同年代10歳前後の子が道で物乞いしているのをよく見かけていました。自分と同年代かそれよりも小さい子が路上でずっと座って「お金ちょうだい」と言ったりするのを見て、自分の知らない世界がこんなにあるんだ、何で自分はこんなにも豊かな生活をしているのに、彼らは毎日食べるものに困って
つらい思いしてるんだろうという疑問が湧いてきたんですね。海外と日本の違いはなんだろうとか、なんでこんなに格差があるんだろう、その格差はどうしたらなくなるんだと子どもながらに考えたのが最初のきっかけでした。その経験がずっと心に引っ掛かりながらも、将来どんな仕事をしてそこに関わればいいのかはあんまり想像できませんでした。なので、国際協力と将来の仕事は一旦別で考えて、先ほど話した流れで看護師になりたいと志すようになりました。最初は、国際協力は問題が複雑に絡んでいますし、その分野で働く自分が全く想像つかなかったので、一旦忘れようかと思った時もありました。ただ、NO.6という本やインドのストリートチルドレンの本を読んで、この格差に対して立ち向かえる大人になりたいなと思うようになったんです。

大学時代はいかがでしたか?

とても充実した4年間でした。1週間目隠しして全盲を体験しながら生活をしてみたりとか、あとヒッチハイクで日本国内を移動してみたりとか、世界一周プレゼンコンテストに出場したりしました。看護学部とデザイン学部の二つしかないという変わった大学だったので、私自身、絵を描いたりもの作りが好きだったのでデザインの学生と一緒に共同制作やアートプロジェクトもしました。大学で学ぶまでは、デザインというとコップなどの製品デザインだったり、アートのイメージが強かったのですが、コミュニティ作りとかワークショップも全部デザインの一分野だということを知って、子どもを対象にした動物園でのワークショップに定期的に参加したりもしていました。看護師として働いてるときは大学時代に学んだデザインのことは繋がっていないと感じることも多かったですが、ISAPHに入ってから保健分野だけでなく広報や会計などいろんな分野の仕事をさせてもらえるので、大学時代の経験が生きればいいなと思っていますね。特に広報では自分のスキルを生かしていきたいなと思っています。

看護師時代はいかがでしたか?

大変でした。将来、青年海外協力隊やNGOなどで国際保健活動したいなって思いがあったんですけど、採用の条件が実務経験5年以上などが多かったので、その実務経験を積むために頑張っていました。とても忙しくて、家に帰ったらそのまま玄関で朝まで寝てしまったこともありました。もちろん看護自体は好きで、患者さんと関わるのも、栄養指導やリハビリを一緒にすることもとても好きだったのですが、病棟で求められている力はそれだけではなかったので苦労しました。患者さんとのコミュニケーション力も必要ですが、仕事を間違いなく迅速にこなす、というスキルが求められていると感じました。3年ぐらいしてようやくできることが増えると、患者さんとのコミュニケーションの時間を増やしたり、リハビリの時間を増やしたりすることができました。その3年間が終わった後に、国際保健への第一歩を踏み出すためにISAPHに入職する運びとなりました。

実際にISAPHでマラウイにこられてどのような第一印象を抱かれましたか?

とても気候が良いですね。毎日空がとても綺麗です。あとは、ムジンバにはスーパーが3つもあって、想像以上に住みやすい場所だと思いました。生活に困ることは少ないです。確かに、時間や約束を守らないとかはありますが、タイの時もこんなんだったなーと思ったりもします。日本があまりにも時間や約束に正確すぎるのかもしれませんね。



仕事をしている中でやりがいを感じる瞬間や大変な時はありますか?

楽しいことと大変なことは重なるのですが、私は語学力が低く現地のスタッフとコミュニケーションするのが本当に難しいですね。一所懸命調べたり、ジェスチャーとかを使いながら伝えようと頑張っています。現地スタッフはすごく優しいので、私の言ってること汲み取ろうと頑張ってくれて、その結果、自分の思いを伝えられた時がとても嬉しいです。マラウイに来てから1ヶ月ぐらいの頃に現地スタッフのJohnからイベントをやるから出資してほしいみたいな連絡が来て、予算の見積もりの打診が来たのですが、その予算の見積もりがかなり甘かったんですね。マラウィアンは人と人との繋がりを重要視して、そのイベントを通じた関係構築も重要なのはわかるのですが、そのイベントで得られる効果を測るためにはどうすればいいのか、5年後・10年後に意味があることになるのか、ということを一生懸命話して自分の国際協力に対する考え方が彼に伝わった時は嬉しかったです。

萩原さんがマラウイ人と関わる中で気をつけていることはありますか?

看護師は「看護観」というものを求められる職業なんですね。看護観という言葉をここで借りると、全ての人にそれまでの生活背景があって、その人が取った行動にも何か意味がある、ということを常に考えたいなって思っているんです。その背景や思いを何も知らない私が否定したら駄目だなと思います。例えば、心不全で心臓が悪くて食事制限もしなきゃ駄目だし、タバコは絶対禁忌だし、お酒もほどほどにしないと駄目だしっていう人がいたとして、栄養指導しても結局家の生活でなかなか改善するのは難しくて、再入院して、それでも「タバコは絶対やめないから」と言い張る人もいるんですね。タバコをやめずに自分が苦しくなってしまうのはいいけれど、税金使って病院きて苦しくなったときだけ助けてもらって、また体調崩して病院来て、という負のループに正直嫌気がする看護師がたくさんいるのもよくわかるんです。ただ、私自身は患者さんのそのタバコを吸いたいという気持ちはなるべく尊重したいなと思ってるんです。リスクを理解した上で、タバコを吸うことが生きる楽しみな人はもうそれでもいいんじゃないかなと思っています。ただ、減煙できるんじゃないかという他の提案を一緒にしてみたり、入院期間中全く吸わなかったことを肯定的にフィードバックしてみたり、できるだけ生活改善をする手伝いはします。でもその人がリスクを知った上でタバコを吸うという選択はそれはそれで尊重したいんです。確かにそれに税金払われているのに違和感を持つ人の気持ちもわかりますが、みんなが生きやすい社会にするために、それぞれ税金を払っていて、タバコを吸って死ぬっていうのがその人にとっての良い人生ならばいいんじゃないかなと思います。それをマラウイの人と関わる時も意識していますね。
その人の生活背景や思いがあることを理解して、こっちの常識で絶対駄目だよとか押し付けないことは看護師時代から常に心に留めていますね。

萩原さんにとって国際協力をするモチベーションはなんですか?

「なぜ国際協力をするのか」という問いに対しては正直まだ答えがでていなくて、一生自分もこれに悩むと思います。先ほどもお話ししたように、小さいときは自分との貧富の差や不平等を感じたことがきっかけでしたが、中学高校ぐらいになって、私1人でできることはとても限られていますし、現地の人も助けられたいって思ってないかもしれないし、、じゃあ私は国際協力をしたいからする、すなわちこれは自己実現の過程なんだという考え方に変わりました。けれども、大学生ぐらいの時に「別に彼らは私の自己実現のために存在しているわけではなく、私がやりたいからやります」と言って寄附金や税金を使ってやったとしても
それでは説明がつかないなと思うようになったり…と、かなりぐるぐると考えを巡らせてきました。答えはまだ正確に出てないですが、小学校のころに抱いた「不平等に対する違和感」に近いかもしれないですね。日本だと救急車を呼べば無料ですぐにきてくれるし、医療サービスを受けられますよね。ただ、海外に行くと、救急車を呼ぶだけで高額のお金がかかったり、病院までの距離が日本と比べ物にならないぐらい遠かったり、健康格差を目の当たりにしてきました。その場面に遭うたびに、やっぱり不平等だよなっていうのを感じる場面が多くあります。日本に生まれたから受けられるサービスと、そこで生まれなかったから命を落とす現実がある中で、その違いってなんなのだろう、そこに何か貢献できることはあるんじゃないかなという思いがあります。その結果がもちろん自己実現とか「やってよかった」って思いにもつながったらいいなと思っています。

国際協力で必要なスキルや能力はなんだと思いますか?

言語力は絶対に必要です!
あとは、看護観と似てしまいますが、表面的なもので人を決めつけないで、その人の背景を見る力は大切だと思います。大学生のときに実習で受け持った患者さんが本当に全然やる気がない人でタバコを吸ったりお酒も飲むのもやめなかったり、患者指導しても「大丈夫、大丈夫」と全く言うことを聞かず、挙句の果てには怒ってしまう人だったんですね。ただ、ゆっくりその人の話を聴いてみた時に、ポロリと「大丈夫。大丈夫。そう思わないとやってられないでしょ?」と本音を溢されたんです。その人は状態が悪く、死ぬのは怖いし死ぬことを遅らせることができるのなら何かやりたいって思いはあるけど、それを受容できないから、「怒り」でカバーしていただけだったんです。表面的な言動をとって「その人わかってないよね」って言うのは簡単ですが、その表面だけでは見えない相手の思いや生活背景は考えたいなと思いますし、そこに想いをはせる力は重要だと思います。

20歳に戻れるとしたら何をしますか?

私は母子保健が好きで、本当は行政の保健師にそのまま就職することも考えたのですが、看護師免許を取ったんだから1回は総合病院の病棟で勤務しないと使い物になんないよ、みたいに言われて総合病院に就職することを選びました。自分のしたい国際協力の形もはっきり見えていなかったので、今考えたらよかったと思いますが、日本の地域の母子保健をまず見てから、海外の母子保健に行くのも選択肢の一つだったと思います。ただ、病院で勤務したことに後悔は全くしていなくて、というのも、今ここで人が倒れたときに適切な対応ができる、と自信を持って言えるのは病院での経験があったからだと思います。

国際協力を志す方にメッセージをお願いします!

過去の自分に対しては、もっと英語を勉強して!と伝えたいです。(笑)ある途上国で病院を運営されているNGOの講演を聞きに行ったとき、「現地語と日本語で医療活動をしているため、英語力だけが大事じゃなくて、もっと他の伸ばせるスキルがあります」みたいな話を聞いたんですね。学生時代の英語が苦手な私にとっては夢みたいな話だったのですが、現地に来てみて痛感するのが、やはり英語力は必ず必要です。もっとちゃんと勉強しておけばよかったと思います。また、自分以外の国際協力を志す方に対しては、私自身この分野でずっと働きたいなと思っていましたし、この分野が好きなので、自分と同じ志を持ち、良い仲間ができるのは嬉しいです。偉そうなことは言えませんが、一緒に頑張ろうと伝えたいですね。

ありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!