『時を超えた告白』 〜人生万景〜
中学一年生。
体育委員として初めての業務は、お昼休みに体育倉庫で生徒にボールの貸し出しをする、でした。受付係です。
お昼休み中に体育倉庫にボールを借りにきた生徒にサッカーボールであったり、バスケットボールだったり、バレーボールだったりと、そういった丸いものを次々と手渡し、お昼休みが終わる頃には次々とそれらを回収する、という業務だったと記憶しています。
お昼休みが終わるまでは密室である体育倉庫の中で僕は女性の先輩と2人っきり。僕は中学1年生。その先輩は僕よりも2つ上の中学3年生でした。
こんなことを書くのはどうかと思うのですが、その先輩は中学3年生にしてはかなりおっぱいが大きく、さっきまで小学生だった少年の僕としては「え? 本物?」と疑ったくらいの漫画みたいな大きさでした。僕は元小学生です。そんなものを至近距離で見てしまったら、ラピュタの悪いやつみたいに「目がああああ!!」になります。でもそれでも僕は見たいと思いました。こんなチャンスは滅多にありません。
お昼休みに体育倉庫で女性と2人っきり。しかも先輩です。もう少年漫画の設定です。
「天気がいいから気持ちいいね」
先輩は遠い目をしてそう言いました。
窓から水のように入り込んでくるお昼の風が先輩のティモテみたいな香りを含んだのがわかりました。僕はそれらを全部鼻から飲み込みました。無料なのに驚きました。
遠くでサッカーボールやバスケットボールなどあらゆる丸いものを追いかけまわしている生徒達の声が眠気を誘ってきましたがそんな罠にはハマるわけにはいきません。至近距離でのおっぱいは、元小学生としては百年に一度です。
お昼休みが終わるまで、僕は先輩が持っているボールを見るふりをして先輩のおっぱいをいっぱい見ました。ボールを見る回数よりもおっぱいを見た回数のほうが断然多かったと思います。例えばボールを2回見たとしたらおっぱいは9回、それくらいの割合だったと思います。先輩が僕の顔を見て「お兄ちゃんと似てないね」と話しかけてきたときも「お兄ちゃんと似て……」くらいまではおっぱいを見ていました。
「(こ、こおれがおとなのおんななんかあ!?)」とわなわなしたのを憶えています。
ひよこは初めて見た生き物を親と思い込むそうですが、僕もその原理でその先輩を【大人の女の人】と思い込みました。そのとき僕はその先輩を好きになりました。おっぱいを好きになったのではありません。そこは誤解しないでください。
お昼休み、密室に大人の女の人、至近距離でのおっぱい、ラピュタの悪いやつみたいになってもいいと思えた覚悟、ボール2回に対しておっぱい9回、ティモテみたいな匂い、色んな要素があります。人を好きになるには色んな要素が必要なんです。おっぱいだけでは人を好きになれません。
ただ、こっちは元小学生です。相手は間も無く高校生なのでもうじき元中学生になる存在です。元小学生がもうじき元中学生に相手にされるわけがありません。当時の僕はそう思いました。好きになったらいけん! と思いました。相手にされるわけがないけえ! と思いました。兄の友達で!? ……兄の友達……兄の友達……そうか、兄の友達だ。兄の友達だったらなんかいけんくない? 兄の友達はだめでしょ? 兄の友達なんじゃけん……兄の友達……兄の友達……そのフレーズが僕を冷静にしました。
兄の友達かもしれませんが。その先輩は僕にとって【初めての憧れの先輩】になりました。
その【初めての憧れの先輩】から、今日突然Facebookメールが届きました。
最後にメールをしたのは2年くらい前だと思います。それでもFacebookで繋がったときの『憶えてる?』『ご無沙汰しております』くらいの挨拶的な内容くらいで。
お会いしたのはもう中学生のときが最後なのでかれこれ20年以上お会いしていません。声と声でお話したのももちろん。ただただFacebookで繋がっている、そんな状態だけだったので。緊張しました。
『個人的に気になっとることがあるんじゃけど、きいてもいい?』
この文章が僕のiPhoneの画面に表示されていました。え? え? なになになにっ??? です。なんかこわいんだけど!? でした。
『あのとき、あの子が井戸に落ちたの気づいてたよね?』
『え? ……どのときですか?』
『あのときはあのときしかないじゃない』
『……憶えていません。何のことですか?』
『わたし、見てたの』
……みたいなのがくるのかな? と怖気付いたのですが、僕の周りでは誰も井戸に落ちていませんし、井戸もなかったはずなのでこわいやつではないやつかも、と思いました。
『ちょっと前にFacebookで2個上の先輩のパンツが見えたって書いとったじゃん?』
……。
『あれって誰なん?』
……。
『友達からメールがきて、あれってあんたのことなんじゃない? っていわれたんよ。それからずっと気になっとってから』
……。
『うちはブルマ履いとったんよ。ブルマ履いとったけんパンツは見えるはずがないけん』
……。
『ずっとなんかモヤモヤしとってから』
『ちがいます。僕が見たのはパンツじゃないです。パンティです』
『うちじゃないんならぜんぜんいいんよ』
『なんかずっと嫌な思いさせてしまっていたとしたらごめんなさい』
『嫌な思いなんかしてないよ』
『でももしパンティの犯人が先輩だったとしたらどうしていましたか? 怒っていましたか?』
『うちだったとしたら、恥ずかしいーー! ってなるだけ(笑)』
……。
ほっとしました。
もう本当にほっとしました。
それから、
ぽっとしました。
これはもう記念です。記念日にします。
20年以上の時を経て今、【初めての憧れの先輩】がブルマ派だったことを告げられた記念日です。
元小学生の俺、聞こえるか? ち◯毛なんか剃らんでもええけん聞け。みんな生えとるけん安心せえ。みんな生えとらん生えとらん言うとるだけじゃけん。生やせ。生やしたもん勝ちじゃけん生やせ。とりあえずカミソリ置け。置ける? 置いて? それ親父の髭剃りじゃけんち◯毛は剃ってやるな。置け。んで、聞け。一回しか言わんで? あの人はブルマ履いとるで。ブルマ派。これほんま。嘘とかじゃないで? 俺さっき直接聞いたけん。向こうから言ってきたけんほんまじゃ思うで? でも誰にも言うなよ? 先輩にも言ったらいけんで? なんで知っとるんか、って話になるけん。見た見てないの話にもなってくるけん。とりあえず誰にも言うな。お前だけの宝物にしとけ。あの人はブルマ派じゃ。
なんだか居ても立っても居られないので、今夜は角煮でも作ろうと思います。