Empire state of mind by JAY-Z / 分断された都市とニューヨークの英雄たち
エネルギーが凝縮し、分裂する核のように、強烈な熱を帯びていた。時代はニューヨークを繁栄へと誘った。過熱する都市化に他人種が集い、またそれらは都市化を加速させた。
まばゆい速度で形作られる都市は、無慈悲にもその過程で、帝国を縦に分断させた。高層ビルと地下社会、富裕層と貧困層、搾取するものと搾取されるもの。
物理的かつ経済的、また観念的に引き裂かれたこの都市は、しかしながら、依然として他人種のるつぼでありつづける。
二点の距離はただ開きつづけるのだった。
ちぎれかけた都市は、弦にかかり放擲を待つ矢に近しい。上下に伸びゆく都市全体が、大いなる炸裂を控えているかのようだった。
この都市に、若者が降り立った。
神話のように屹立する建造物を、燦々と陽の光が照らしていた。若者は自分が勇者だと確信した。
地底から腐った薬草の香りが流れ出し鼻を裂く。肌を露出させた女の高い声が耳を刺激する。白いドーランを顔一面に塗り広げ、その上から油絵のように濃く目や鼻や口が描かれていた。追憶のように遠くから銃声と叫び声が聞こえる。日に焼けて色の褪せた半壊する布をまとった男たちが道端にゴミと一緒に転がっていた。
天国と地獄の形相は、いっそう勇者の遺伝子を沸騰させた。細胞が叫び出す、内臓が煮え繰り返る、全身に力が満ちわたる。
「わたしに不可能は存在しない」
歴史の渦のなかへ、足を踏み入れる。
赤い都市の心臓がまたひとつ、その鼓動を強める。
もうそこに若者の姿はなかった。