isamu bendasan

二十五歳

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二十五歳

最近の記事

ぼくは宇宙のひとだった

ひと月に及ぶ泥濘とした混沌から這い上がらんとする 限りなく薄い切れ目のような月がこの世の外側について気配を匂わす 冷気が室内に流れ込む 霧のような滝 重苦しいカーテンの隙間を、鈍い光が通過する ありふれた家庭の、ありふれた日常は、精神の宿り 生暖かく、透明だった。 集合体は、鰯の群れ 暗い室内を周遊 月の上で浮遊 銀河の光を全身に浴びて、ぼくは宇宙の人間だった。 ピントを捻れば、また僕らは一つの生暖かい光 透明で どこか一区画を周遊する 精神の宿り 物質は消滅せず

    • 不感症の巨人と燃料の終わり

      家内が口を聞かなくなった。いつからだろうか、リビングルームは無益な花々に喪した火葬場のように、無機質で、現実の匂いがしない、暗渠のような空間になった。 人間の習慣と機械のプログラムは似ている。家内の日々の行動は、いつしかパターン化され、一日に三度補充されるエネルギーは、そのプログラムに対する隷属として投下された。 息子を産んで、生物としての使命を果たした。家内の肉体には個体としての意思がなく、習慣が存在に先行していくのだった。 その《習慣》はまた、人類の産物である社会のな

      • JR大阪駅に立ち現れたデヴィッド・ボウイ

        ちょっと不味い、理髪店の待機時間による(厳密に言えばパーマの薬品が髪に浸透するのを待つ時間の)終末のような退屈さに、脳が起動を始めた。書くというピュアな能動的行為によって報酬を覚えるように脳内回路がリセットされた。会計を終え街に出、ぼくは何処へでもなく走り出した。天啓のようにデヴィッド・ボウイの「スターダスト」が頭蓋のなかを駆け回る。存在の弱さを受容した男の賛美歌が光の起伏をなして網膜に立ち現れる。JR大阪駅近傍を立ち並ぶ建造物が夜の大気に光を撒き散らす。その光は網膜のデヴィ

        • 足元を繁く往来する猫の体温を感じた休日の昼間

          ピアノの音が好きだ。弦楽器や金管楽器なんかより俄然、ピアノの音が好きだ。ピアノの音は人の醜さを連想させない。それは極めて個人的で、達観した、一人称と三人称の世界に思える。ただそこには鍵盤を弾く指と、そして、音がある。 だから音の配列と響きに耳を傾けられる。そこは澄み切った高原で、ぼくは雲間を縫って光が照射する、神的に白んだ空を見上げている。 客観的な戦いである。不純さがなくそれは作曲家と演奏家のピュアな戦いである。 脳髄の奥にポロポロと舞い降りる光。激しい青空のなか流星の

          mid 90’s by Jonah Hill

          ミッドナインティースを観た。自分の人生と重なって、コップ一杯分くらい、泣いた。 ジョナ・ヒル様、最高です。 - 粗悪な家庭環境に抑圧され、その捌け口として「非行」を選ぶ。大人の作った社会に、心身で反骨する。 ただ滑る、スケートに没入する、そのなかで、達成を喜び、仲間と繋がった。自己の存在を、確かなものとして、実感できた。 酒、ドラック、女、危険。社会の僻地の楽園は、しかし、人生を賭すべき場所ではない。交通事故は、その誰もが抱えていた胸のしこりを、具体的な事象として、世に

          mid 90’s by Jonah Hill

          都会のイマージュ

           雨音が静かだった。  古い友人にあった。言葉遣い、価値観、趣味嗜好、昔と全く同じ。変わっていなかった。  そいつの世界を司る時計は、あるとき落下したようだった。時を刻むのを辞め、深い海底で同じ時間を指し続けていたのだ。  そいつと会ってぼくは時の流れを実感した。ゆがんで軋み、サビつき後退りしながらも、ぼくの時計は確かに物語を前に進めていた。  「都会だな」  駅前にあるオフィス街の建造物を見上げ、友が言った。陽が沈みかけた薄夜を人工的な巨像が劈(つんざ)いていた。無法に散

          都会のイマージュ

          しずむパラノイア

          組織で次から次へと催されるイベントは 僕らを考えることから遠ざける催眠 倒錯する僕らは出世という僥倖に向かい ラットよろしく、 出口なき迷路をかけ、生命を浪費する 事故に類する衝撃こそが 唯一の契機、本心を、 初心を呼び起こす 今が尤も正気 反動でチラつく視界 君は気絶なんかしていない 冴えている、冷めたパラノイアこそが 最もな健常者である。

          しずむパラノイア

          いたずらの宇宙

          別れは哀しく、忘却は美しい 徹底的に虚無なこの世界、 自我だけに手触りを希求して ぼくはいつまでもひとり、 宇宙の物質が縁取った 砂の塊 時の波にうたれ やがて また無と出逢う 暗闇で目をつむる  次の番、その日まで

          いたずらの宇宙

          夜と救済

           おれは自分が夜型だと思う  夜の酩酊感が好きで、そこからありもしないことを考えるのが快い。この酩酊感が重要、論理とか社会の叡智みたいな、いや資本主義社会の歯車みたいな、世俗な物体から自分を隔てる役割を果たす。酩酊の先に自由がある。  頭を空にすると白い地平が視野に広がる。被写体が表象化されるのを待つキャンバスみたいに。  長い月日が流れた感覚に陥る。ときおり酩酊とはある種の覚醒であり、精神の働きは相応に加速するものではないかと考える。  無垢なキャンバスに色が生じる。何

          ベートーヴェン《クロイツェル》人類の夜明け!

          こんな気狂いめいた音楽、聴いたことがない! 我々の鼓動の速度を上回る、それは命の危機に暴露し闘争・逃走する臓器の躍動 金切り声に近くしかし美しさの範疇を逸しない、閾値ギリギリの高さで燐光するバイオリンとピアノの破裂音、継ぎ目なく流体のように辷り落ちる滑らか且つドラスティックな音階、母なる大地の異変に鳥々が騒ぎ出す、馬々が走り出す、俺らの中で人類の記憶が騒ぎ出す! 血が煮え繰り返る 星が壊れる 生態系が崩れる!  退廃的 いや耽美的 生命の危機 いやこれは、 生命の目醒めだ!

          ベートーヴェン《クロイツェル》人類の夜明け!

          『哄笑』

          「ほら、誰しも人に冷めるタイミングって、あるでしょう?」 女は言った。 「大体ね、私からすれば大抵の男は簡単 好意と色気、この二つで落とせる すごく簡単なの」 私がこのカフェを創業してから2年と6ヶ月が過ぎた。郊外に身を置くこの店に、社会に迎合する軽率な客はいない。地に足をつけ、自分を社会に対して位置付ける。一般的に言う「変わった」人間がこの店を訪れる。 カウンター席に座る客と対峙し、その客の人生に思い馳せる。いつしか私の趣味は、人間観察になった。 この女は、最悪だった。

          2番線に列車が参りますが、あなたはどこの誰ですか

          # 力の源、俗に言う異常さは、つまり、欠乏から生じていた。ぼくが失った他者との繋がりは、強い孤独感として、ぼくに色濃く、影を落とした。何者かになりたい、その切なる願いは、さらなる過剰性へと、ぼくを駆り立てた。 全てを捨てて、全ての時間を一点に当て、まっすぐに進んできた。しかしどうやら、ここが行き止まりみたいだ。 # 煩わしさは、しばしば、ぼくにとって人間関係からくるものだった。いつだって、こいつさえいなければ、そうやって呪う、対象がいた。 だから閉ざした。ぼくの身体は、そ

          2番線に列車が参りますが、あなたはどこの誰ですか

          記憶から消せない 答え合わせもできない 電車は通り過ぎていった

          # 構造内部には過剰に力が蓄積されていて、力は解放を要求する。それが故の祝祭であり、それが故のこのひたすら書くという行為である。 # 無限の可能性が死んで、今の自分に収束する。亀を救えなかった浦島太郎、蜘蛛に噛まれなかったスパイダーマン、息を吹き返さなかったイエス・キリスト。 # 愛してくれてありがとう、その好意は僕にとって生温い刃物。悲しい君の顔は、初めから見たくなかったのに。 # レイヤーの差異によるディスコミュニケーション。岩を運ぶ奴隷と、ピラミッドに骨を埋める王

          記憶から消せない 答え合わせもできない 電車は通り過ぎていった

          自分を解剖して心があるか確かめたい

          # 生きていること自体、疑い得るものであり、ぼくらの人生なんて、それは実態がなく思える、例えば僕らの意識は安いゲームソフトにインストールされていて、太陽系というステージで、幾ばくかのライフを賭している。どうせゲームみたいなもんなんだから、もっと前向きに生きてみるのも、悪くないかなと思う。 # 人と関わることが嫌いで、でもその反面、自分の純血さを自認したい強迫観念がある。それはなんて言うか、そもそも他人との関わりなんて自堕落なもので、濁っていて、意味なんかないもので、ってそん

          自分を解剖して心があるか確かめたい

          blown out of proportion

          生きててどうせ良いことなんかない意味のないこのクソみたいな世界でせめてもと震える手を伸ばしていく微光に向かって

          blown out of proportion

          『微風』

          ジムへ向かう道のり。微風が体の前面を優しいエアバックのように受け止める。それは頑固な衝突を朗らかにする間接としての余白。揺られる木々の声が聞こえる。木漏れ日はキラキラと星のように。白黒と鳥が飛んでいる。世界との有機的な繋がり。一点の集中ではない多様なる注意の分散。大きなうねりとの絡み合い。尊い経験。