足元を繁く往来する猫の体温を感じた休日の昼間
ピアノの音が好きだ。弦楽器や金管楽器なんかより俄然、ピアノの音が好きだ。ピアノの音は人の醜さを連想させない。それは極めて個人的で、達観した、一人称と三人称の世界に思える。ただそこには鍵盤を弾く指と、そして、音がある。
だから音の配列と響きに耳を傾けられる。そこは澄み切った高原で、ぼくは雲間を縫って光が照射する、神的に白んだ空を見上げている。
客観的な戦いである。不純さがなくそれは作曲家と演奏家のピュアな戦いである。
脳髄の奥にポロポロと舞い降りる光。激しい青空のなか流星のように光を反射する初夏の雪解けに構成された健気な川。風にそよぐカーテンのすきまから、身体に合わない大きなケーキを運びふらつくあの子を捉え、それがわずかに天使に見えた夕暮れの校庭。みずみずしく光る夏野菜を口に運び、単調に咀嚼する傍ら、足元を繁く往来する猫の体温を感じた休日の昼間。