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今も昔も変わることのない行動様式の記録/Making Records : Home Recordings c. 1890 - 1920 [Death Is Not The End]

Artist: Archive Recordings
Title: Making Records : Home Recordings c. 1890 - 1920 
Label: Death Is Not The End
Genre: Dialogue
Format: Cassette
Release: 2024.08.28

イギリスの首都ロンドンに拠点を置く、古物録音発掘レーベルDeath Is Not The Endより、1800年代後半~1900年代初頭にかけてワックスシリンダーにて録音されたホームレコーディングの記録集。録音はアメリカ合衆国のカリフォルニア大学サンタバーバラ校に保管されているDavid Giovannoniの家庭用シリンダー録音コレクションより提供。

独自の審美眼により、世界中の古物録音をテーマに数々の録音物を発掘しており、日本の大正後期から昭和初期の流行歌(V.A. - Longing for the Shadow: Ry​ū​k​ō​ka Recordings, 1921​-​1939)をリリースしたこともある本レーベル。

V.A. - Longing for the Shadow: Ry​ū​k​ō​ka Recordings, 1921​-​1939

1887年、音を記録に残すという革命的な技術が発明された。エジソンによる蓄音機である。エジソンの蓄音機はワックスシリンダー(蝋管)方式によるものであるが、後に利便性の面からエミール・ベルリナーのレコード方式が普及し、現在に至っている。本作は、エミール・ベルリナー方式ではなくエジソン方式であるワックスシリンダーからの録音を発掘している。

古物録音の性質上、どんなに気を付けていても100年以上も昔の骨董品であるため、経年劣化によるノイズの発生は否めない。チリノイズやスクラッチノイズなどの雑音が前面に出て、その背景に録音物の音が鳴る。思い出はセピア色と言わんばかりに、このノイズが古物録音の良さであり、不思議なことにノイズだけでどこか郷愁感を感じさせる。

本作の最も興味深い点は、人間の営みの本質についてである。
本作はプロやアマチュアのミュージシャンを主体とした録音や商業的な目的ではなく、個人の生活の記録が主な内容である。家族との何気ない日常、即ち家族での会話であったり、ペットとの思い出であったり、子供の成長記録であったり、ホームパーティーの様子であったりと、非常にパーソナルな内容である。現代に置き換えれば、カメラで家族の写真や映像を撮ったりと言えば分かりやすいだろう。更に言及すれば、この時代の記録媒体は主に紙による書面の記録であり、新しく登場したワックスシリンダーによる音としての記録であり、これを現代に置き換えると、カメラによる撮影や録画、Facebook、Instagram、TikTok、YouTubeなどのSNS、インターネット、個人でのパソコンへのアーカイブがこれに該当し、映像としての記録が加わっている。時代の変化や科学技術の発展と共に、生活の様式や社会の在り方や人としての価値観は確かに変化しているが、人としての在り方や行動様式の一部は過去と何ら変化していないことを確認できる。こういった過去を覗き見たとき、観測者としてのある種の期待や予測とは無関心に、そこにはかつて存在した景色を通して垣間見える今も変わらない本質があるのである。

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