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電気仕掛けのバッハの肖像画/高橋悠治 - シンセサイザーによる《フーガの[電子]技法》[Columbia]

Artist: 高橋悠治
Title: シンセサイザーによる《フーガの[電子]技法》
Label: Columbia
Genre: Classical, Experimental
Format: LP
Release: 1975.12
*Reissue
Label: Denon
Format: CD
Release: 1991

https://www.discogs.com/ja/master/794806-J-S-Bach-Yuji-Takahashi-The-Electric-Art-Of-The-Fugue


日本を代表する一柳慧、武満徹と並び称される、現代音楽作家の高橋悠治による、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのフーガの技法をシンセサイザーを用いて演奏した盤。

バッハと言えば、ピアノの楽曲という印象が強いが、バッハの生きていたころ(1685年3月31日~1750年7月28日)には"現在"の形のピアノは存在せず、鍵盤楽器と言えばチェンバロもしくはオルガンであった。現在のピアノの形になったのは1700年代中頃とされ、チェンバロとピアノの違いは、チェンバロは「撥弦楽器(弦を弾く)」で音に強弱を付けることができず、ピアノは「打弦楽器(弦を叩く)」で音に強弱を付けることができることにある。

「音楽はだれのものでもない。音符をたどることでも、作曲家の意図にしたがうことでもなく、なにかを発見することだ」

高橋悠治

ジャケットに高橋悠治のメッセージ(上記の引用)が記載されているように、表現の自由および探求という意味合いでは、バッハの楽曲はチェンバロという楽器のために制作されたものであるが、チェンバロに縛られることなく、それがピアノであろうが、シンセサイザーでも良いのである。現に現代のバッハの楽曲の演奏の主流がピアノであるように。

本作は、「フーガの技法」ニ短調BWV1080の中のコントラプンクトゥスのI、IV、X、IX、VIII、XI、XVを、Moog-Type55とEMS-Synthi 2という2機種のシンセサイザーによって演奏された盤である。ハイパーポップや
EDMのように煌びやかで多彩な音色を放つシンセサイザーとは異なり、ファミコン音源の8bit音のようにロービットな音源で演奏されている。楽器が変わるだけで、元々の中世的で美しく荘厳な印象とは大きく変わり、ゲーム音楽のダンジョンのBGM、とりわけファミコンのチープな音のような、愛らしさと図太さ?に加え、どこか洞窟の中にいるような陰鬱さ?や未来的でなく宇宙的な印象に変わっている。また電子楽器特有の炭酸っぽさもしくは痺れるような人工的なドラッギーさが全面に押し出されている。大雑把に言えば、白い背景に黄色の玉から黒い背景に緑~青~ピンク色の帯といった具合に色彩も形状も変化していることが非常に面白い。

今でこそクラシック音楽は様々な楽器で演奏されていたりカバーされているが、ピアノで演奏するものという常識を覆した意欲作であるように思う。クラシック音楽を電子音に置き換えることは初期電子音楽というジャンルでは見られた現象ではあるが、国産の初期電子音楽という意味合いでは非常に重要な作品であることに疑いはないだろう。


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