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3度目の正直。今年こそは意地でも川下り完全復活を目指す

令和2年7月4日の熊本豪雨による氾濫により球磨川の地形は大きく変わった。大量の土砂・岩・瓦礫などが流入し水深も大幅に浅くなり、事実上航行不可能な状況になり長期間の運休を余儀なくされた。球磨川くだりは人吉観光のシンボルであり、街中を川船が通過する姿は人吉の日常。だからこそ是が非でも再開を目指さなければならない。この2年半ここまで苦労しなければならないのかと思うような試練が繰り返し訪れている。代表である私と船頭の柱である藤山の二人三脚で運航再開への努力をひたすら続けてきたが、終わりの見えない再開までの道のりに正直疲れてもきた。しかし、2023年はようやく本当に意味で再開への光が見えてきた。

運航の可否を左右する筏口の瀬

川下りの運航に関して大きな鍵は通称”筏口の瀬”と呼ばれる球磨川くだり発船場からすぐ下流の市内中心部に位置する浅瀬が多いゾーン。この場所が航路を浚渫しても増水の度に航路が埋まってしまうのだ。

水害前の筏口の瀬。球磨川を象徴する美しい場所だった
被災直後の筏口の瀬。変わり果てた姿に言葉を失った
川沿いは市民の散歩コースであり憩いの場として親しまれていた
無惨にも変わり果ててしまった。自然の恐ろしさを嫌というほど痛感

写真を見てわかる通り、同じ場所なのだが別の場所なのである。元々球磨川は水深があまり無く、50cm〜100cm程度の浅く狭い場所を場所を船頭の巧みな舵捌きで下っていくのがこの体験の魅力であった。長年歴史を積み重ねながら航路を作り込んできたのだが、水害によって全てがリセットされ一から航路を確保することに。船頭たちと現場を確認し、話し合いながらどのルートならば再開が可能か打ち合わせを重ねていった。

1回目のチャレンジ:2021年7月

熊本豪雨以降、山々が相当な量の水分を含んだのか球磨川は水量が多い状況が続き、川の水が濁りが取れずなかなか川の状態を確認することができなかった。年が明け2021年に入りようやく水が引き始め航路の確認ができるようになった。水害当初は川には様々な物が流れ込んでおり、車や木材などの瓦礫、コンクリート片、鉄筋、ガラスなど危険物だらけで本当に危険極まりない状態。そこを国土交通省が中心となって撤去作業を進め、球磨川ラフティング協会もボランティアで撤去作業を進め少しずつ川の安全が確保されていった。球磨川は1級河川であり、民間が勝手に工事をすることはできない。また、球磨川漁協の同意のもと河川事務所が工事を行う必要がある。

そのような中で治水工事の一環で土砂の撤去と一緒に川下りの航路を確保して頂けるありがたいお申し出を国土交通省から頂き2021年4月に筏口の瀬付近の土砂を撤去して頂いた。その後、現場を確認し船頭たちも再開できる可能性が出てきたと喜んだのを覚えている。観光複合施設HASSENBAの開業が7月4日に決定し、それに合わせて川下りを再開する青写真ができた。しかし、5月下旬に予想もしない大雨が再び被災後を襲った。

2021年5月は中旬から例年になく雨が多く人吉観測所のデータを見ると月間700mm弱の降水量があり、特に5月20日には1日で186.5mmの大雨となり球磨川がまたしても氾濫の一歩手前の危機が訪れた。この増水により航路の状況が不安となったがそのまま梅雨に突入したこともあり、濁りと増水が続いたので梅雨明け後の確認となった。

その結果は再び航路が埋まっていた。HASSENBAの開業は人吉だけで無く熊本県内のトップニュースとなり多くの皆様が川下りも一緒に再開できることを期待して頂いていた。ギリギリまで再開の可能性を探り、最後は球磨川ラフティング協会の仲間たちの協力のもと航路を川堀(手作業での航路確保作業)まで試みたのだが苦渋の決断を下すこととなった。

急流球磨川での作業は危険が伴う。同業の仲間達の協力は本当にありがたかった

2回目のチャレンジ:2022年5月

球磨川の浚渫工事をすることが出来るのは前述の通り、国土交通省のみであり、漁協の同意が必要なことであるが球磨川の場合もう一つ条件がある。それは鮎漁の時期では無いこと。6月〜11月のあゆ漁のシーズン中は工事を行うことができず必然的に冬から春にかけての時期に行う必要がある。また、河川工事は水量が少ない時期が適しており、そう言った意味でも渇水期である冬場は航路浚渫工事に適していると言える。しかし、豪雨で上流から下流まで無数の被害箇所がある球磨川における工事の優先順位や人手不足による業者確保の問題など簡単にはいかないのが実情。そんな中で2022年5月に中河原の掘削工事の一環で再び航路の掘削工事を行なって頂くこととなった。前年の状況を参考にしながらより土砂が流入しにくく、航路を深めに確保して頂くご配慮を頂いた。その結果、ついに被災から2年ぶりの2022年7月22日に球磨川くだりは運航再開を果たすこととなった。

写真の通り大橋はまだ破損したまま。水害の破壊力を痛感する1枚

しかし、西瀬橋が架け替え工事を行なっていることと、その下流はまだまだ土砂の堆積が改善されていないため安全の確保が困難で人吉発船場からくまりば前にある相良町着船場までの短縮航路「清流復興コース」での再開となった。

通常の温泉町までの4.5kmより短い2.5kmではあるが再開は大きな一歩となった
2年ぶりの運航再開は人吉にとって明るいニュースとなった

川下り再開のプレスを行うと報道関係だけで無く、観光客・地元市民から多くの歓迎の声が寄せられ予約が殺到。数年ぶりに経験する発船場の活気と忙しさは船頭もスタッフも大きな充実感となった。しかし、またしても試練が訪れることとなった。

台風14号の大雨で再び無期限運休へ

2022年9月18日(日)の3連休の中日に台風14号は九州を直撃した。その影響で人吉球磨地方は大雨となりまたしても氾濫寸前まで増水。人吉発船場前もあと30cmで越水となるほどの増水となった。勿論嫌な予感が走り、台風が過ぎ水が引いた後に船頭が確認すると無惨にも2020年の豪雨災害後よりもさらに大量の土砂が筏口の瀬を埋め尽くしていた。運航再開まで2年の月日がかかったのにわずか2ヶ月で再びの運休。神様は何故こんなに試練を与えるのだろうかと心が折れそうになった。どんなに頑張っても、必死に努力しても自然の力が全てを無にしてしまう。川下り事業の存続はこんなに難しいものなのだろうか。何もかもを否定されてしまうような感覚に陥ってしまう。

航路どころか浅い場所しかなくなった筏口の瀬

3回目のチャレンジ:2023年2月

川下り再開を願う声が多く寄せられることは本当にありがたい。しかし、このような度重なって訪れる厳しい現実を多くの方は知らない。本当に川下り事業はもう無理なのではないか。何度もそのような考えが頭の中を巡るがどうしても諦めきれない自分がいる。そして何より当社が経営難に陥り私に代表が変わり、コロナ禍が襲い、壊滅的な被災があっても川下りを後世に残したいと直向きに願う船頭藤山和彦のためにも諦めるわけにはいかない。そして、再開が実現に向けて国土交通省九州地方整備局八代河川国道事務所や金子泰之代議士・松村祥史参議院議員・溝口幸治県議会議長など地元選出の政治家の皆様が手厚いサポートをして頂いている。そのことに感謝しながら2023年は三たび運航再開を目指し努力をしているところだ。2月に入り3度目の航路確保の浚渫作業がスタートし、順調にいけば今春に再開できる可能性が出て来た。まさに3度目の正直。今回こそは本当の意味で恒常的な運航再開を実現したいと思う。

2月より浚渫工事がスタート
大きな石もゴロゴロ転がっている状況
実はHASSENBA前は川の半分を仕切って浚渫工事が行われている
これだけ浅くなるほどの大量の土砂が流入したと実感

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熊本県をフィールドに観光と公共交通を軸とした水辺のまちづくりに取り組んでいます。また、補助金なしで公共交通立ち上げや債務超過の三セク再建な…

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