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「生成AIをつかう」と「自分の頭をつかう」のバランス
生成AIを使って業務を効率化しましょう、と社内で呼びかけが始まって久しい。
効率化できれば自分が楽になるわけだからデジタル技術を利用しない手はないし、利用し効率化しなければ勝ち残っていけない社会になる、だからデジタルリテラシーを日々高め、普段の業務に生成AIを取り入れていきましょう、と。
そりゃそうなのだろう、そうなのだろうが。
言われることを鵜呑みにしすぎず、言う通りにやってみるだけでなく自分の頭で考えながら生成AIとどうつき合っていくか自分で決める、ここは飛ばしてはいけないステップだと念頭に置いて呼びかけに向き合っている。
わたしが業務で最も頻繁に使う生成AIの機能は翻訳である。海外からのメール問合せ対応が主な利用シーンとなる。
翻訳において、言うまでもなく生成AIは便利で優秀だ。
海外から何十行にも渡る長文メールが届くともう、迷わず翻訳にかける。PC画面を延々とスクロールしながらの自己流読み解き、その憂鬱さを感じることなく日本語に直された文章を届けてくれるのが大変ありがたい。
自力読解にかかる数分が生成AIだと3秒で済む、その時間短縮を会社は効率化と呼び、喜ぶのだと思う。しかし一個人としては時間が浮いたことより読解作業中の「え~~~っっと、何言いたいのよコレ・・・?!」という気分、眉間にしわ寄せため息をつきながらのメール対応に伴う気分が軽くなる、この心理的負担の軽減こそが何よりもの嬉しさだ。
届いた長文英語メールの和訳には迷わず生成AI使っているが、メールがそこまで長くない場合はなるべく自分で読み解くようにしている。また、自分から返信するメールの英文も、なるべく自力で英作文している。あまりにも生成AIに依存しすぎると自分の英語力が急低下するからだ。
わたしの英作文力は中学校で習うレベルしかない。ごくシンプルな構文で、なるべく知っている単語で賄って作る。それでしか作れない。
ビジネスにおいて日本語作成したメール文を直訳しようとすると、中学生並の英作文力ではとても対応できない。日常に登場しない単語、言い回し、複雑な構文を駆使する必要がある。
だからわたしは頭に浮かんだ日本語を直訳せず、シンプルな日本語へ言い換えを繰り返す。中学生並の英語力で表現できるまでシンプル化、言い換えを続ける。
例えば最近、系列会社間で共通使用している内製システムのトラブルについて、システム管理の親元であるわたしの勤務先窓口に海外他社ユーザが英語で問合せしてきたことがあった。
実は、他社ユーザは各社のシステム管理部門にまずは問合せしてほしい、とこちらは考えている。なぜなら会社によってPCスペックやネットワーク環境が異なっており、ユーザIDの登録なども各社システム管理部門が担っていてわたしの勤務先では登録状況を見ることもできない。つまり、各社ユーザのシステムトラブルは各社のシステム管理部門で対応しなければ解消しない場合がほとんどだからだ。
そんな内情をユーザは知らないことが多い。そして、こちらから「御社の○○部門があなたの部署のシステム管理担当をしているから問合せしてみてね」と具体的に案内できればよいが、そこまで把握しきれていない実情がある。
わたしが他社ユーザからシステムトラブルの問合せを受けて最初に心に浮かんだ回答は、以下のような感じだ。
「えーーーっっと、わたしたちに言われても細かい設定がわからんのよね。
御社のシステム管理部門にまず聞いて欲しいんだけど、あなたの所属部署は、生産部門?営業部門?開発部門?(受領メール署名に記載の部署名からは、どの部門かわからない)
部門によってシステム管理部署が分かれている場合もあるけど、御社ではどう?
ちょっと、誰か周りの人に聞くか、組織表みたいなのでシステム問合せ窓口を調べてみて、まずはそこに聞いて欲しいです」
当然ながらこのままではビジネス相手への文面としてふさわしくないので、ビジネスライクかつ失礼のないように手直しをしていく。その際、同じ内容を簡単な英文で言い表すように脳内変換をしていく。
結果、わたしが英語にしてメール返信したのは
・御社のシステム管理部門に状況を問合せしていただけますか?
・状況的に、御社のシステム担当がなんらか設定登録すれば解消すると推測する。
・私たちにとって、あなたの部署のシステム管理部署が御社のどの部署かを調べるのは難しい
概ね、この3文に集約された内容だった。これならCould you please~?という丁寧な依頼文と、It seems that〜やIt is hard for us to~という、既知の簡単な構文で表現できる。
こうして自力の英作文で回答を作ると、結果的にほぼ3文の短さであっても数分はかかる。念のため英作文の結果を生成AIで和訳にかけ、内容がおかしくないかを確認している(このためには生成AIを使う)ので、全部で5分くらいはかかる。
最初に心に浮かんだ日本語の回答文をそのまま打ち込み、生成AIに「あなたは優秀な翻訳者です。以下の文をビジネス相手に失礼のない英文に翻訳してください」とでも命令すれば、ものの数秒で回答メールは完成するだろう。このようなメール対応が10件あれば、自力の英作文では50分かかり生成AIなら1分足らず、つまり49分の時間が効率化される。
しかし、この49分の効率化のためにわたしのつたない英語力が更に損なわれるとすれば、それは本当に会社にとって嬉しいことなのだろうか。
中学生レベルとはいえ一応簡単な英文を自力で作成できる社員と、まったく作成できない社員、どちらの方を会社は雇い続けたいだろうか。
何より一人の人間として、生成AIの作った英文が本当に自分の言いたいことを表しているのか判断できないままに相手に送付するしかない、そんなやりとりはなんだか気持ちが悪く、極力避けたいとの思いもある。
最初に書いたように、わたしも長文の英訳には迷わず生成AIを活用するし、便利に使うシーンは他にもたくさんある。英作文も、長文にならざるを得ない内容であれば最初に生成AIで作り、その内容をざっと確認して送付、というやり方をとることもある。生成AIが全部ダメとは思っていない。
翻訳だろうが議事録作成だろうがプレゼン資料だろうがシステムソースだろうが、時間がかかっても一から自分でやる意義のあるケースは必ずあり、逆に生成AIで7〜8割の完成度まで作ってあとは自分で仕上げるのがよいとされる場合もあるだろう。会社からの「生成AIを活用しよう」の呼びかけの勢いから「利用可能シーンは全て生成AIを使いなさい」という圧を勝手に感じてしまうが、そういう意図はきっとない。
どんなツールも使いよう、自分で加減を考え、時と場合を見定め、本質を見失わないよう便利の享受を選択していきたい。