テドくん
下弦のお月さまがトゲのように美しい静かな夜のことでした。
テドくんは泣きたい想いで窓際のカーテンを閉めました、
カーテンはテドくんが柔らかい心をもったとてもやさしい子で、そのために傷つきやすいことを知っていました。
その日、テドくんは教科書を取りに席を立って、教室の後ろのロッカーへ歩いているとき、ふいに床に転がっていた誰かの丸っこい消しゴムにつまずいてしまいました。幸いにもテドくんは自分の右に置いてあったゆゆちゃんの机に手をかけたため派手に転ばなくてすみ、ホット胸を撫で下ろしました。
しかし、机にかけた右手を見ると、その机と右手の間には、ゆゆちゃんの大切にしている赤いリボンの髪飾りがありました。テドくんは慌てて手を離し、リボンのピンの部分を自分が今つぶしてしまったことに気がつきました。
それを見ていた他の子が、「テドくんがゆゆちゃんの髪飾りこわした~」とわざと教室中に聞こえるように言いました。幸いにもそのときゆゆちゃんはトイレにいっていて教室にはいませんでした。
テドくんはゆゆちゃんが戻ってくる前にピンのつぶれたところをなんとか直そうと一生懸命にもがいてみましたが、ピンは直りませんでした。するとゆゆちゃんが帰ってきて、ゆゆちゃんは自分の席でわたしのお気に入りの赤いリボンピンをなぜかテドくんが手に持っていることに気づき不思議そうにテドくんに近づきました。テドくんは最後の最後まで壊れたピンを直そうとしましたがゆゆちゃんがもう目の前に来たのでピンの壊れているのをゆゆちゃんに見えるようにひっくり返すと、それを見たゆゆちゃんが、いつもニコニコして朗らかなゆゆちゃんが、おどろいたように固まってなにも言わずに真面目な顔をしていました。
テドくんはゆゆちゃんのそんな様子からそれがほんとうに大切にしていたリボンだったんだと分かりました。テドくんは悲しい気持ちと罪の気持ちとゆゆちゃんを思いやる気持ちがぐちゃぐちゃに混ざって辛くなりました。
その日はテドくんもゆゆちゃんも変な感じになって残りの授業を受け、帰りの会をして家へ帰りましたが、テドくんはずっとモヤモヤして苦しい気分でした。
布団に入ったテドくんは、壊れたリボンを見たときのゆゆちゃんの哀しそうな顔がまだ忘れられずにいて、どうしようかと目をしかめながらぐっすり眠りにつきました。
カーテンはいつもそばで見ているテドくんがやさしいことを知っているので、明日はきっとゆゆちゃんに素直に謝る事ができるだろうと知っていました。
次の日の朝、テドくんはベッドから起き上がると同時に爽やかな気分でカーテンを開けました。
明るい太陽の光がまっすぐテドくんを包んだのでテドくんはとてもやさしい気持ちになりぐーっと大きく背伸びをしたあと着替えて学校へいく支度をはじめました。