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【短編小説・番外編】「あっとほーむ」な日常 ―悠斗編―
家族の影響でとあるバンドの音楽をよく聴くようになった。そのバンドの名はサザンクロス。彼らのそれは新しく出るたびに進化し、聴く者の心を掴んで離さない。はじめは「いい曲だな」くらいにしか思っていなかったのに、氣付けば日常的に聴くほど虜になってしまった。
「そんなに好きになったんなら、悠斗の誕生日に歌ってやるよ。今から練習しとく」
家族の一人、翼が言った。彼は幼稚園教諭で、ピアノもギターも歌もうまい。そしておれをサザンクロス好きにさせたのは、他でもない彼だ。
「どの曲が一番好き?」
翼の問いにしばし頭を悩ませる。どの曲も甲乙つけがたいからだ。
「一つには決められないな……」
「じゃあ、何曲か言ってみてよ。その中から弾けそうなのを弾くから」
「んー、それなら……」
もう一度思案し、「『LOVE & PEACE』と『サンライズ』かな……」と答えた。
「いいチョイス! じゃあ両方にしよう。俺も、どっちも好きなんだ」
「そう言えば、お前もよく口ずさんでいるよな」
「だって本当にいい曲なんだもん。まぁ、コータローさんに頼めば、サザンクロスの三人に直接歌ってもらうことも出来なくはないんだろうけど」
「いや、この年にもなると誕生日を迎えてもなんも感じないからな……」
自分でももう、次にいくつになるのかもはや曖昧になってきている。ざっくりと「五十代」でこの十年は通そうと思っているくらいだ。ちなみに、コータローさんというのはおれたちの「家族」で、サザンクロスのボーカル、麗華さんとは友人関係にある。
「おれはミュージシャンに祝ってもらうより翼に歌ってもらう方が嬉しいよ」
「悠斗がそう言ってくれてホッとしたよ」
正直な氣持ちを伝えると翼は安心したように微笑んだ。
「実を言うと、誰よりも悠斗の誕生を祝いたいのは娘なんだ。自分の誕生日と一緒にしたいとまで言ってる。さすがにまなの誕生日は悠斗より二ヶ月もあとだから一緒には出来ないって言ってるんだけど、聞き入れてはくれなそうでさ……」
「まながそんなことを……」
氣付けばあの子も次の誕生日で四歳になる。このごろは随分と自己主張が激しくなってきた。二歳までしゃべらなかったのが嘘のように、翼の勤める幼稚園に通うようになってからはますますおしゃべりになり、聞き役に徹するのも苦労するほどだ。その彼女が、おれと一緒に誕生日を祝いたいと言っているのか……。
「別におれは構わないけど。おれにしてみりゃ、二ヶ月も半年も大した差じゃない。それに、まなの誕生日はおれが『父親』になった日。めでたい日には違いないよ」
「それもそっか。じゃあ3月、まなと悠斗の誕生を一緒に祝うとしよう。えーと。ケーキも用意した方がいい?」
「おれはこだわらないけど、まなが用意したいと言ったらそうすればいい。ホールケーキでも手作りクッキーでも何でも食べるよ」
「ったく……。『娘』には甘いんだから」
「おれは甘やかして育てる父親だっていつも言ってるだろ? 厳しくしつけるのは実の親の……翼の仕事だ」
「オーケー、オーケー……。じゃあ、まなに聞いておくよ。当日をお楽しみに」
◇◇◇
実は「まな」とは過去に親子だった。不慮の事故で三十数年前に死に別れたがその後、いろいろなことがあって「まな」は再び生を受け、今は翼夫婦の子として第二の人生を歩み出している。おれとの過去の記憶はなくしているが、同居人のおれのことをまなは自然と「お父さん」と呼ぶ。亡き娘の魂の記憶がそう言わせているのだとおれは信じている。そんなわけでもう一度父親をやっている。
◇◇◇
年が明け、比較的暖かい冬が過ぎ、あっという間にまなの誕生日を迎えた。
「おとうさん、おたんじょうびおめでと。はい、まなちゃんからのプレゼント」
すっかり口達者になったまなから手渡されたのは似顔絵だった。
「ありがとな、まな。うん、よく似てる。あとでお父さんの部屋に飾っておくよ。……おれからもまなにプレゼントがある。これを……」
まなを手招きし、その首にネックレスを掛けてやる。
「おまもり。まながいつまでも元氣でいられるようにと、神社の神様に力を分けてもらったんだ。氣に入ってくれると嬉しいんだけど」
贔屓にしている神社の宮司に頼んで特別に作ってもらった、世界に一つしかないお守りだ。おれと血が繋がっていた頃の「まな」は五歳で死んだ。その年まであと一年。この子が五歳よりも長く生きられるか心配になり、こんなものを用意してしまったのだった。
「わぁ……! かわいい! ありがと、おとうさん。まなちゃん、ずっとずっと元氣でいるね。おとうさんが笑顔でいられるように、ね?」
まなは、おれが思っていた以上に喜んでくれた。ちょっと氣を遣わせたかな、などと思いつつも、彼女の反応を見て無性に嬉しくなって抱き上げる。
「四歳のお誕生日おめでとう。これからもたくさんおしゃべりしような」
「うん!」
「満足するのはまだ早いぜ。俺からのプレゼントも受け取ってくれよな」
そう言うと翼はギターを抱え、ソファに腰掛けた。そして約束通りサザンクロスの曲、「サンライズ」を弾き語り始める。
#
命芽吹くとき 大地は光り輝く
朝日昇るとき 鳥たちは歌う
手を伸ばそう 夜明けの空に
オレンジに染まる手は 君の温もり
抱きしめたい 光溢れる君の心を
抱きしめたい 愛にあふれるこの世界を
命ある今に 君に出会えた歓びに
ありがとう……
#
翼の歌声は、幼稚園教諭にしておくのがもったいないくらい透き通っている。それがサザンクロスの歌詞なら尚更、心に響く。俺は目を閉じて彼の弾き語りを静かに聴いた。
窓から差し込む温かい陽がまぶたに落ちる。その温かさが、愛おしい。春という季節を迎えた今、「サンライズ」の歌詞にあるように新緑が芽吹き、大地が輝いているのを肌で感じる。
生きていることは当たり前ではない。相応の役割があるから、おれたちはこうして生きている。いや、生かされている。だから、その役割が何であるかを常に考え、意識し、幸福を噛みしめながら生きていかなければいけない。
歌が終わった。手が痛くなるくらい拍手を送る。俺の隣で一緒に聴いていた、まなの母親のめぐも同じくらい拍手をし、それからおれに向き直る。
「悠くん。まな。今日まで元氣に生きていてくれてありがとう。これからも仲良く暮らしていこうね」
めぐはそういうなり、歌い終わった翼に寄り添った。顔を見合わせた二人はうなずき合う。
「悠くんに報告があります! 実は……秋に新しい家族が増えます!」
「…………!」
思いがけない報告に目を丸くする。
「妊娠したのか……? そいつはめでたいな。何ヶ月?」
「今、四ヶ月。判明したのは先月なんだけど、せっかくだから誕生会に発表しようってことで黙ってたの。……びっくりした?」
「そりゃあもう……。おめでとう、めぐ。翼。……って、今日は全員めでたい日じゃねえか。……まな、どうやらもうすぐお姉さんになるらしいぞ。妹か、弟が出来るんだ。良かったな」
「まなちゃん、おねえさんになるの? わーい! ずっと、きょうだいがほしかったんだぁ! ママー! おなか見せてー、さわらせてー!」
「はいはい。だけど優しくね。赤ちゃんがびっくりしちゃうからね」
おれの腕から降りたまながめぐのお腹をなで、その後ろから翼も自身の手を重ねる。微笑ましい光景。若い親子が仲睦まじくしている姿はいつ見ても癒やされる。
遠巻きに見ていたらめぐに手招きされる。
「一人でニヤニヤしてないでこっちおいでよー。悠くんだってこの子のお父さんになるんだからー」
「え……? あぁ、そうか……」
おれ自身はまなが、亡き娘の生まれ変わりだから彼女の父親をしてきたつもりだった。けれども、めぐも翼も、何人きょうだいになろうがおれを二人の子の父親にさせるつもりらしい。
「一つ屋根の下に住んでるんだからな。俺たちの子供の世話は悠斗にもしてもらわないと。まなだけ見てりゃいいと思ってたんなら大間違いだぜ」
「ああ、そう思ってた。まさかこの年になってもう一人の子の父親になるなんて誰が想像出来る? いや……もちろん嬉しいよ」
こうしてまた命が繋がっていくのかと思うと、これからやってくるであろう新生児との生活も楽しみになってくる。
「生まれてくる子には、いい音楽をたくさん聴かせてやろう。そしてこの子が、ずっと生きていきたいと思うような世界を今から用意しておこう」
最近、思う。サザンクロスの三人が目指そうとしている世界を実現させるためにはまず、聴く側の人間一人ひとりの意識を変えることが大事だと。おれに出来ることなんてせいぜい、子育てに協力したり、神社に通って祈ったりすることくらいだけど、そういう小さなことをみんなが大事にし始めればきっと国中、いや、世界中が愛に包まれると信じている。
「翼、リクエストしてた『LOVE & PEACE』も歌ってくれよ。お前の歌声でこの場を、世界を、愛ある場所にしてくれ」
「うっわ、悠斗ったら大袈裟だなぁ……。でもまぁ、そんなふうに言われたら氣合いが入る。んじゃ、歌うぜ」
翼はまんざらでもない顔でギターを持ち直し、弾き始める。我が家に再び愛の歌が響く。おれは、めぐとまなの肩を抱いてその歌に耳を傾けた。
※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。
💕上記のキャラクターが登場する物語、「あっとほーむ~幸せに続く道~」はこちらのマガジンにまとめてあります。まなが登場する第四部は、いろうた渾身の出来となっております。ぜひ一度読んでみてください! まずはあらすじが読みたい、という方はこちらのまとめ記事がオススメです💕
💕また、アコギバンド、サザンクロスが主人公の物語「愛の歌を君に」は第一部、第二部が完結しています。AIで曲も作ってUPしているので、ご興味のある方はこちらもチェックしてみてください!💕
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