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【短編小説】想いの伝え方、それぞれ―「さくら、舞う」番外編③―
番外編① & 番外編② はこちら
「さくら、舞う」第三章#3の続きにもなってますが、
読み切りとしてもお楽しみいただけます!!✨
<リオン>
「さくらさんのために一曲、作ってみない?」
双子の姉、セナから提案を受けたおれは驚いた。
「どうした、急に。まさかセナまであの人を放っておけないって思い始めたのかよ?」
さくらさんというのは、最近懇意にしている、一回り年上の画家さんだ。絵の才能はあるようだが売り込みが下手で貧乏生活をしていると聞く。そんな彼女におれらのバンド仲間・麗華姉さんが手を差し伸べたのを皮切りに、おれの兄貴を含む仲間が次々加わり、ついには次のフェスで共演するという妙な話にまで発展してしまった。
「まさか、って何よぉ?」
セナは頬を膨らませた。
「アタシ、好きだよ。さくらさんの描く今の絵。アタシたちの音楽がいい影響を与えてるって氣、するもん。今度のフェスでライブペイントもしてもらうし、それにぴったりの曲があったら……って思ったんだよねぇ」
「え? フェスに間に合わせる機か? 一ヶ月を切ってるぜ?」
「作曲の天才のリオンでも無理かなぁ?」
セナが上目遣いで言った。
「……そうやってすぐに褒め殺しする。言っとくけどおれはなぁ……」
「リオンのために一枚絵を描いてもらった、って言っても断る?」
「……なんだよ、それ」
「じゃーん!」
セナは、後ろ手に隠していたものを顔の前に出した。それはおれたち全員の似顔絵だった。
「ずっと、似顔絵を描くのを封印してきたみたいなんだけど、一回描いたらハマっちゃったらしくて。アタシが預かっててもいいし、見せてもいいし、好きにしてって言われたから見せてみた」
初めてさくらさんの絵を見たのは年末年始の飲み会。酔った勢いでさらっと描いたはずなのに、ものすごく特徴を捉えていて「すげえ」って思ったのは記憶に新しい。とりわけ兄貴の似顔絵には力が入っていて、もしかしたら好意を寄せているのでは? とそのときはぼんやりと思ったものだ。しかしその後の観察から、おれらのことは「仕事仲間」としてみていることが分かってきた。セナを除く年下のおれらには未だ敬語を使っているし、伯母に当たる麗華姉さんが声をかけたときにしかプライベートで会うこともないからだ。
「……で、おれにこれを見せて、やる氣になるとでも思ってんのか?」
「うん。だってリオン、さくらさんの描いた似顔絵を絶賛してたじゃない? イケメンに描いてもらって嬉しかったんだと思ったんだけど?」
「そりゃあ、すげえとは思ったけど……。あっ……」
改めて似顔絵を眺めていると、紙の隅に、サインと共に一言添えてあるのに氣がついた。
――リオンくん。電子鍵盤を弾いている横顔が一番かっこいい!!!
実際に見ながら描いたのか、思い出しながら描いたのかは分からない。だけど、こっちが無意識の時にじっと見つめられていたかと思うと……。
「……どうせ、セナのもあるんだろう? 兄ちゃんのも。そっちも見せろよ」
恥ずかしさを誤魔化すようにいい、隠し持っていたそれを奪うように見る。そこにも同様に一言、メモ書きがしてあった。セナの方は「歌っているときの笑顔が最高!」と、兄貴の方は「ドラムよりエレキ弾いてるときの方が楽しそうかな」と書かれていた。
「……これ、いつ描いてたんだろうな。全然氣がつかなかったけど」
「どうやら、アタシたちが打ち合わせしてるときとかにこっそりラフスケッチしてたみたい。短時間で、すごい観察眼だよねぇ」
「だな……。うーん。これに色をつけたら雰囲氣変わりそう。……待てよ? 色……。色、か……」
急にイメージが降りてきた。慌てて電子鍵盤の前に立ち、録音しながら弾く。するとセナも隣に来て連弾が始まる。特に示し合わせたわけでもないのに、「さくらさんのための曲」が形作られていく。
「ああ……。リオンの作る曲はやっぱり優しいね」
セナの言葉が胸に染み渡る。おれは、自分の作る曲を、優しいとか繊細とか評されることが一番嬉しい。心が穏やかになったからか、手が勝手に曲を奏でていく。
「……当然、セナが歌詞をつけて歌ってくれるんだろうな?」
「ん? リオンが歌いたいって言うならアタシは歌詞だけ考えるけど?」
「…………! 誰も、んなこと言ってねえよ!」
鍵盤を叩くのは得意なのに、歌の方はからっきしダメ。兄貴も同じ。ミュージシャンになりたくても一人では欠点のせいでやっていけそうになかった。だから、おれたちきょうだいは三人で、足りないところを補い合うようにしてバンドを組んだのだ。
歌うのが苦手だとわかっていながら敢えてそんなことを……。ほんの数秒前までいい氣分だったのに、急にやる氣がしぼんだ。
「やめた、やめた」
鍵盤から離れ、録音を止める。と、セナが不思議がった。
「そんなに氣に障ること、言った? リオンだって、歌おうと思えば歌えるじゃん。挑戦してみるのもアリじゃない? って言ってるだけなんだけどなぁ?」
「おれは歌わないって決めてるんだよ! ……ちょっと外に出てくる!」
自分の部屋を飛び出し、玄関で靴を突っかける。
「……また喧嘩したのかよ?」
背後から兄貴の呆れ声が聞こえたが、構わず外に出る。
*
セナの言いたいことが見え透いたので余計に腹が立った。要はおれに、さくらさんに関心を持てと……。果ては恋愛感情を抱けと勧めているのだ。おそらく、麗華姉さんがさくらさんと兄貴をくっつけようとした計画がうまくいかないので、セナが余計なことを考え始めたのだろう。残念ながら、さくらさんと同様におれも彼女のことは仕事仲間だとしか思っていない。
(ったく……。セナのやつ、人のことより自分の恋愛の方をなんとかしろよな……。)
かくいうセナは、バンドメンバーの智篤兄さんにお熱だ。ミュージシャンとして成長すればあるいは……と言われたのを信じて自分磨きしているが、付き合える可能性は限りなく低い。年齢差もさることながら、兄さんは兄さんで麗華姉さんに片思いし続けているからだ。
やってきた電車に飛び乗り、いつでも出入りしていいと言われている兄さんたちの家兼、音楽スタジオに向かう。
突然訪問しても彼らは驚くことなく、おれを迎え入れてくれる。ただ、ふくれっ面で一人、スタジオに飛び込む姿を見て何かを察したのか、三人そろって様子を見に来た。
「朝から怒ってるなんて、らしくないわね。ユージンと喧嘩でもしたの?」
世話焼きの姉さんが言った。喧嘩という予想は当たっているが、相手が違う。おれは黙ったままそっぽを向いた。
「あっ! 僕にはなんとなく見当がついたよ」
智篤兄さんが、閃いたとばかりに言う。
「……レイちゃん、ここは僕らに任せてくれないか。多分、男同士の方がいい」
「何よぉ、あたしを仲間はずれにするつもり?」
――俺もなんとなーく分かったぜ。もし麗華の力が必要だったら、そのときは声をかける。だから今はちょっと席を外してくれないか?
拓海兄さんも察しがいい。病氣で声を失っている彼は、手話という「声」を使い、うまいこと姉さんを説得してくれた。姉さんは少しつまらなそうな顔をしたが「そういうことなら……」と言って、一旦スタジオから出て行った。
「……さて。見当がついた、とは言ったものの、僕の予想が当たっているかどうか」
智篤兄さんはスタジオに鍵をかけながら言った。
「なんだ、自信がないのにあんなことを言ったの?」
「まぁ、そういうなよ。レイちゃんがいない方がいいのは確かだろう?」
「うん……」
こっちも曖昧にうなずくと、今度は拓海兄さんが手話で話し始める。
――じゃあ、俺が当ててやろう。ずばり……さくらのこと!
「えっ……!」
思わず息をのむと、兄さんは当たった! と言わんばかりに、にやついた。
――ってことは、リオンもさくらからの似顔絵を受け取ったんだな? ……実は俺、それをみてビックリしちゃってさ。なんつーか、急成長してるのが一目で分かるって言うか。俺らの音楽が刺激になってるんだとは思うけど、もしそうならもっと力になってやりたいなって。もしかしてリオンもそう思ったんじゃねえかと……。
「さすがにリオンは違う理由だろ……。ったく。拓海は、レイちゃんの姪っ子だからってさくらに肩入れしすぎなんだよ……。だけど、今の反応から察するに、さくらのことで思うところがあったのは間違いなさそうだな」
「まぁ……ね」
一発で当てられてしまったからには負けを認めざるを得ない。おれはふうっと息を吐いて電子鍵盤の前に立つと、さっき降りてきたばかりの曲を思い出しながら奏でた。
「おっ、新曲か。爽やかでいいじゃないか。若かりし頃を思い出すよ」
「……セナが、さくらさんのために一曲作ってみないかって。それでこんな感じの曲が浮かんだんだけど、歌詞をつけてくれって頼んだら、なぜかおれに、歌え! って言ってきて……。歌うのが苦手なの、知ってるくせにさ」
――なあるほど。それで一人、ここにやってきたって訳か。
愚痴っぽくなってしまったが、二人は否定も意見もせずに頷いた。
――もし……。もしリオンが想いを伝えたくなったら……。そのときはきっと自然と歌えるようになる。
拓海兄さんは考えをまとめるように、ゆっくりと手を動かす。
――俺も智篤もそうだ。歌に関してはずっと麗華に頼り切りだった。だから若い頃、あいつがメジャーに引き抜かれて離脱したあとは、怒りもあったけど途方に暮れてもいた。でもその後、がむしゃらに藻掻いた結果、自分たちが内にため込んできた想いを伝えるためならそれなりに歌えるってことが分かった。……歌うってのは、テクニックもあるかもしれないけどそれ以上に「想い」が大事だと俺たちは思ってる。だから、下手でも歌い続けてこれたんだ。
「……そんなことを言ったらおれの場合、想いを表現するのは電子鍵盤だよ」
「そこに歌を乗せたらきっと、もっと表現の幅が広がるだろう。もし、想いを伝えたい人が現れたら、そのときは試してみるといいかもしれない」
頑なに歌うのを拒むおれを、二人は優しく説き伏せた。うつむくおれに向けて智篤兄さんが言葉を続ける。
「僕らは別に、さくらのために歌えと言ってるんじゃない。ただ……。リオンはいずれ歌えるようになると思う。今の曲を聴いて僕は……、僕らはそう思ったよ」
拓海兄さんは隣で深くうなずいたあとで、再び手を動かす。
――なんで歌えないかって、たぶんまだ、自分の声で絶対に伝えたい想いってのを見つけられていないからだ。俺と智篤にはあった。麗華に対する怒りや悲しみ、届けきれなかった愛が。……言葉なんていらないっていうかもしれない。でも、言葉にすることでしか伝えられない想いもあると……声を失ってみて思うよ、俺は。
「じゃあ……。じゃあ拓海兄さんも、例えばだけど、さくらさんのことを想うようになったら手話で歌うんだな? 智篤兄さんも、セナのことを想うようになったら自分の声で歌うんだな? そういうことだろう?」
言われっぱなしも癪なので反論してやったら、二人とも顔を見合わせて苦笑いした。
「……まぁ、そういうことになるかな。可能性は低いと思うけど、ゼロじゃあないよ」
――それだけ言えるんなら、きっと歌えるよ。リオンが初めて歌声を披露する相手が誰になるか、楽しみだ。
年上の余裕からか、二人はおれの言葉を全否定しなかった。二人の思い人は麗華さんだが、自身の心が絶対に揺らがないとは考えていないと知り、ほっとする。
「二人と話して少しすっきりしたわー。なんか、自分の可能性を広げてもらった感じ」
「そう、それでいい。この世に絶対も永遠もない。それは僕も拓海も、実体験から痛いほど分かっているからね」
「説得力あるわー」
得心していると、拓海兄さんが冗談めかしたことを主張する。
――じゃあ、分かったところで早速一曲、歌ってみようか! 俺らの曲、『クレイジー・ラブ』でどう?
「……ないわー」
歌うのはまだ難しい。だけど、二人の想いに応えたかったおれは、リクエストされた『クレイジー・ラブ』を弾いた。
「おっ、いいじゃん!」
智篤兄さんがマイクをオンにして歌い始める。それを見た拓海兄さんも負けじとギターを手に取って弾き始める。
二人は、おれにも自然と歌える日が来るという。だけどそれまでは、このままでいたい。そんなふうに思う。今はこれが心地いいから。
(♪クレイジー、クレイジー。今すぐお前を追っかけて飛び込みたいぜ、宇宙の海ー……。)
心の中で歌いながら電子鍵盤を鳴らした。
※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。
💖本日も最後まで読んでくださり、ありがとうございます(^-^)💖
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✨◇✨◇✨◇✨
💖いつも読んでくださっている、心優しいあなたへ💖
本編がなかなか思うようにはかどらないため、そこに繋がるお話から書いております。もう1話、番外編を書くかもですが、すべては続きを面白くするため……!(ちなみに、本編・第三章#4→ゼロ文字...(。>︿<)_θ))
一応、本編は通しで読んでもらうことを前提に書いていますが、今年は「書きたいもの最優先でいこう!!」ということで、私が伝えたい想いをため込まず、単発でもどんどん発信していこうと思ってます😊💖
ちなみに、わたくしの「想いの伝え方」は、小説スタイル!!
物語を通して、皆様に氣付いて欲しいこと、訴えたいことをこれからもお伝えしていきますので、1話1話、その都度楽しんでいただければ幸いです。
新シリーズ「喫茶ワライバのお悩み相談室」もどんどん執筆していきます!
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