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A型彼氏とB型彼女-喧嘩にならない喧嘩-

『ディズニーシーは前の奥さんと行ったことがあるよ』
その一言に、不機嫌になる彼女。
これは彼氏の失言といって差し支えないだろう。
ディズニーシー、一緒に行けないな。なんでこんなこと言うんだろう。ひどい。悲しい。
涙が溢れる。が、悟られないようにそっと顔を背ける。

30分ほどの沈黙。
彼氏は動かない。彼女も動かない。
テレビの音だけが虚しく響いている。

彼女は待っていた。
『ごめんね』と謝ってくれるのを。
謝ってくれたら、もうそう言うことは言わないでほしいって伝えて仲直りしよう。
だから、顔を背けながら待っていた。でも手持ち無沙汰だから、動画を見たり漫画を読んだりもしていた。

再びの間の後。

彼氏が動いた。
立ち上がり、静かに電気を消し、ベッドに潜り込んだのだった。

内心まじかよな彼女。彼女も引っ込みがつかない。
何故わたしが怒っているはずなのに、彼氏に華麗にスルーされたうえ就寝されているのか。誰か3行で説明してくれ。

だが今までの経験上、彼氏が布団に入ったなか音を流して動画をみるのは憚られた。
若干スマホアレルギーの気がある彼氏が激おこプンプン丸になってしまうからだ。
そっとミュートにする。よく訓練されているようだ。

なけなしの意地で、冷え行く部屋のなか、ローソファの上で1人いじけ続ける彼女。
コタツだけじゃ足りない。圧倒的に足りない。
寒さが身にしみる。スマホを持つ手がかじかんでくる。

暫くの逡巡。寒さと寂しさと意地とプライドのなかで揺れる。

そして、彼女は決意する。
意を決して立ち上がり、ベッドへ向かう。

布団には入るが、背を向けて怒っている姿勢は変えなければいいのだ。
わたし、おこなんです。不愉快なんです。
全身でアピールしてやるわ。

ベッドの前に立ち、唖然とした。

なんということでしょう。
彼氏は堂々とど真ん中を陣取り、かつ背中を向けて寝ているではありませんか。

彼女のプライドはズタズタだった。
気力を奮い立たせ、言い放つ。

『もっと向こうで寝て!』

ちょっとだけ横にずれる彼氏。
が、狭い。彼女のスペースが普段よりも狭すぎるのだ。

悔しさをにじませながら布団に滑り込む。
やはり、狭い。しかも心持ち掛け布団も足りてない。

寒い。なんて寒いんだ。なんて悔しいんだ。
それでも彼女は譲りたくなかった。簡単に許したくなかった。
一言でいいから、謝って、自分が傷ついていることをわかって欲しかったのだ。

過去は変えられない。
昔の奥さんとの時間も思い出も、かけがえのない大切なものだ。
そんなことはわかってる。理解してる。

でもこれからの自分たちに、自分にとって、必要のない情報だ。
2人で沢山の思い出を、未来を作っていくのに、そんなものは知らなくて良いし、知りたくないのだ。

そして、そのことを軽々と、軽口として言われたことに対して、自分がこんなに傷ついたという事に驚きもした。
自分はこんなことで泣いてしまうほどには彼氏のことが好きになっていたのかと。

考えながら、眠りに落ちる彼女。


けたたましく鳴り響くアラーム音。
一瞬意識が浮上する彼女。

もう朝だ。
彼氏が起き上がり、出社の支度をはじめる。


ふたたび沈む意識。
冬の二度寝ほど心地よいものはない。

ハッと気づく。
あれから1時間以上が経過している。
違和感に部屋を見渡す彼女。

彼氏がいなくなっていることに気づき、喪失感に襲われる。

そんな・・・嘘でしょ・・・

これまで毎朝欠かさず行ってきた、行ってらっしゃいのお見送りに、声もかけてくれなかったのだ。
いつもは家出るときに一回起こしてくれるのに、行ってらっしゃいのチューもせずに、なんたることか・・・


悲しい。そして寂しい。あと寒い、
向き合ってくれないのも不満だ。
もんもんとする彼女。

考えた末でた答え。


寒いしもちっと寝て、起きてから考えよっと。


そんな朝の出来事。
お粗末様でした。

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