アカバネ・ディビジョンとは何者であったか。-舞台ヒプノシスマイク Flava Edition感想-

(舞台ヒプノシスマイク Rule the Stage track1のネタバレ、及びFlava Editionの若干のネタバレを含みます)

アカバネディビジョンをはじめとするオリジナルキャラクターたちは、Rule the stageの象徴と言って過言ではないでしょう。
舞台『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- Rule the stage』において欠かせない存在、それがオリジナルキャラクターたちです。
もちろん原作があって舞台化している、という特性上、既存のキャラクターたちが主役であることは当然なのですが、原作通りのシナリオ、ではなく原作に描かれていない部分を描くのがこの舞台。
だから既存のキャラクターを描くにも多くの制約がありました。
原作で語られている以上のことは描けない。
イケブクロとヨコハマが出演する舞台であっても、原作ではまだ対峙していない時間軸なので、彼らの直接対決を描くことはできない、出会わせることもできない。

そういう制約のなかでそれでもドラマを作るために生み出されたのがオリジナルキャラクターの存在だったんだと思います。
その中でもアカバネディビジョンの存在というのは、なんというか、とても哀しい話ですが、発表当初、おそらくファンにはあまり歓迎されていませんでした。
主観的なものなので断言はしませんが、「声優がラップをする企画なのに舞台にしてどうする」という反対意見が舞台そのものに数多く寄せられていたことは事実です。
そんな舞台の象徴として、オリジナルキャラクターである彼らにヘイトが向くというのは、残念ながら十分にありうることでした。

きっと、制作陣もそのことを自覚していたんだと思います。
アカバネディビジョンは、物語においてわかりやすい「悪役」でした。
ヒプノシスマイクの研究チームに所属していながら、危険思想の持ち主として軍を追われた蛇穴。
ヨコハマで薬を売り捌いて左馬刻の怒りを買った狐久里。
そして正体不明のリーダー、MC Darkness。
「悪の聖地アカバネ」と謳い、持ち曲もダークで怪しい雰囲気、いかにも「敵」という空気を纏わせて登場したのがアカバネです。

そんな彼らなので必要以上に台詞もなく、それは「ファンが安心して嫌えるように」というキャラ作りだったのではないかと感じています。
どのくらい台詞がなかったかというと蛇穴健栄の一人称がずっとわからなかったくらいです。あとお互いの名を呼び合うこともほぼないのでなんで呼び合っているのかもわからなかったりしました。
まあ多分、「ぽっと出のオリジナルキャラの関係性見せられても興味ない」みたいな層への配慮もあったんじゃないかと思います。

しかし、アカバネはただの「敵」「悪役」では終わらなかった。
MC Darknessこと堂庵和聖というキャラクターは、ディビジョンバトルにおいて卑怯な手を使って勝ち進もうとするダーティな存在であり、同時にH歴の訪れによって家族を奪われたという時代の被害者であり、そして山田一郎の幼馴染でした。

山田一郎にとっての堂庵和聖、カズは弱くて守ってやらなきゃならない友人で、戦う相手ではない。
そういう山田一郎の情の厚さと表裏一体の驕りを引き出す存在です。
だからこそ、H歴においてヒプノシスマイクという力を手にした山田一郎の前に立ちはだかるのは、山田一郎の歪みを表出させるカズでならなければならなかった。
そしてカズの悲しみや怒りはH歴という時代、ヒプノシスマイクという作品の世界観が孕む歪みを表出させるものでもあった。

Rule the stage track.1で描かれたのはH歴の歪みであり、山田一郎の歪みであり、それらは全てカズを通して描かれるわけです。

だから、アカバネが、カズが「敵」であり「悪」であったとしても、決して彼らは「間違い」ではなかった。

それを描き切ったのがtrack1です。

いろいろごたく重ねたけどさ……つまりそんな描き方されて、嫌いになれるわけないよねって話なんですよね。めちゃくちゃ魅力的なんですよアカバネ。

そしてtrack1では「嫌われてもいいように」「最低限」の描き方をされたオリジナルキャラクターでしたが、次のtrack2、鬼瓦ボンバーズは「好かれるように」「最大限」描かれていました。
彼らはアサクサの人情あふれる下町の人々で、初めこそ強面で恐れられていましたが、実際は気のいい温和なキャラクターであることがすぐに明らかになります。
そしてシンジュクディビジョンのメンバーも、アサクサのことが大好きになるわけです。

ろくでなしだなんだと言われ、イケブクロともヨコハマとも敵対していたアカバネとは正反対です。まあろくでなしは彼らの自称なわけですが。

完全に個人の見解ですが、track1では嫌われてもいいように作ったけど、それでもファンはアカバネを受け入れた。
それが制作陣にも伝わったから、track2では安心して好きになれるキャラクターを作れたんじゃないかな、と思うんですよね。


改めて、今回のFlava Editionの話をします。

アカバネ、主人公なんですよ。

アカバネ、主人公なんですよ。


ここまで「アカバネは嫌われてもいいように最低限のキャラクター造形をされていた」説を読んでいただいてたらそれがどれだけすごいことかおわかりいただけるかと思うのですが、
アカバネ、主人公なんですよ。

カズだけでなく、蛇穴、狐久里もしっかり台詞があり、軽口を叩き、一人称がわかる。一年半越しにわかる一人称。
すごいことですよ。

そしてtrack1ではほぼ寄せ集めの急造チームに過ぎなかったアカバネ、チームとしての在り方も何もあったものではなかった彼らに「誰の指図も受けない、誰にも支配されない、それがアカバネ」という確固たる信念が生まれました。

個人の見解ですが、ここで彼らは初めて「チーム」になったように思います。

冒頭の話に戻るのですが、オリジナルキャラクターたちは舞台の象徴だとわたしは思っています。
だから、まだRule the Stageがあまり認められていなかったtrack1の頃は、アカバネもそういう扱いだった。

だけどいまは違う。アカバネが主人公で、主役でいいんだと全力で訴えている。
Rule the stage自体も、声優×俳優のクロストークをやって、ビジュアルコメンタリーをやって、衣装展をやって、そしてこのFlava Editionがある。
当初は声優×ラップがコンセプトだったヒプノシスマイクというコンテンツにおいて、今や舞台の存在もまた間違いなく欠かすことのできない主役の一つなんだというのを、舞台が経てきた変遷をアカバネを通して見るような、そんな気がしました。

だから、今回のFlava Editionは物語におけるアカバネ・ディビジョンというチームが何者であるかをしっかりと見せつけたものであり、Rule the Stageというコンテンツの強さ、在り方をアカバネを通して描いたものだと感じました。
アカバネって、ある意味ヒプステそのものなんじゃないかって、思うんですよね。

何が言いたいかって、配信見ろってことだよ!!!

[Flava Edition]
https://theater-complex.jp/movie/list/hypnosismic_live

[track.1]
https://theater-complex.jp/movie/detail/1567

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?