映画「スオミの話をしよう」　レビュー・評価

三谷幸喜監督の五年ぶりの映画ということで、先日映画館で見てきた。

あらすじ

豪邸に住む詩人家・寒川の妻・スオミが突然居なくなってしまい、誘拐を伺う刑事の草野は調査にやってきた。草野はスオミと以前結婚していた過去があり、元妻が心配で搜索に意欲的な姿勢を見せる。一方、寒川は気楽な考えをしており…という感じで冒頭は始まる。

続々と集まってくるスオミに関わっていた男たち。
それぞれの男たちが思い出話を繰り広げる中で、スオミという存在が分からなくなっていく。

ネタバレなしで評価するなら

ミュージカルや舞台のような、登場キャラクターのキャラの濃さから生まれる面白さがあり、三谷監督らしい癖が強い作品。

映画では、普通じゃこんなことないでしょって表現が入ることもあるが、それを飛び越えてるコント寄りの表現があったりと、大声で笑いはしないけど、ちょっとニヤニヤしちゃう追加要素があった。

あらすじだけで見るとミステリーっぽさがあるけれど、ハラハラ展開や巧妙なトリックはない。
コメディとして見に行った方が純粋に楽しめる。誰かと見に行って、これってこうだったよねーとか話しやすい映画だと思う。

あと、長澤まさみが美しい。

所感（ネタバレあり）

スオミの性格が、なぜそれぞれの男の前で違うのか。
冒頭の内容から、スオミはお金目当てに結婚してる詐欺師なのかな、と思っていた。結婚詐欺師が出てくる映画はよくあるから。

だが、草野と新居のデザインを選んでいるシーンで、ピンときた。

私とスオミは少し似ている。
私自身、相手が望んでいることが分かって、それをしてあげて相手が喜ぶならいいかと行動してきた。つい最近相手に指摘されるまで、無意識下でやっていたことだった。
男女問わず、相手が欲しがっている言葉を返していたら、スオミのように相手によって発言や態度が違ってしまい、そんなところが嫌いだと言われたこともある。

自分と相手の意見が違ったとき、特に自分がこだわりたい部分までも草野に否定されたとき、言葉は従えど、相手の見えないところでスオミの気持ちは顔に出てしまう。
その顔を見たときに、この子は自分の意思を曲げて、相手に合わせているんだと気づいた。

しかし、それに男は気づかない。というか気づけない。
あまり好きな表現ではないが、よくある男と女の違いってやつだ。

視聴者たちに物語の真実が明かされたのは、歴代の男たちとの質疑応答シーンである。このシーンでスオミはそれぞれの男に対するそれぞれのスオミとして真実を語る。
コミカルさはあるものの、たくさんの波が四方から繰り出されてるような、不安定な気持ち悪さを感じた。

スオミが自分の言葉でネタ晴らしをしてくれたのは、末尾で唐突に始まるミュージカルなのだと思う。
どの男に対するものでもない、心の底からのスオミの言葉だからなのか、ミュージカルシーンは数週間経った今も、まだ脳内で再生できる。

長澤まさみの歌声、謎のステップが合わさって中毒性のある歌だった。
個人的ベストシーンは、全ての謎が解けた後に見るミュージカル部分だ。

ミステリー的観点で見るなら、このシーンも視聴者に向けた皮を被ったスオミなのかもしれない。