その命は小さくとも 「サバイビー」感想
※本noteは「サバイビー」のネタバレを含んでおります。
あまりにも残酷なはじまり
Twitterがきっかけで、マキバオーで著名なつの丸先生作の「サバイビー」を読了した。
全三巻、最終話は単行本化に伴う加筆――――――という、打ち切り漫画という評は免れない作品だ。
※サバイビーが連載された、1999年の週刊少年ジャンプ当時の連載作を見たところ、ヒカルの碁やテニスの王子様が連載を始めたばかり。
サバイビーの後にはNARUTOの連載も始まる。
あまりに当時の連載陣が強力すぎたのだと思う。
また、マキバオーの連載後なので、本作が打ち切りの憂き目にあったのはジャンプのアンケート至上主義が本当に容赦ないことを示している。
だが、三巻と短いからこそテンポよく話は進む。
サバイビーはミツバチの少年、バズーが主人公だ。
※補記:少年漫画という都合上、登場するミツバチは女王を除いてオスとして描かれているが、実際の働きバチはメスである。わざわざ言うまでもないことかもしれないが、注釈しておく。
バズーは長雨で巣を流されたみなしごで、ゴミムシのイップやハサミムシのギロら、同じく雨で住処や仲間を亡くした別種の虫たちと暮らしている。
そんな日常を送っていたある日、ひょんなことから「オーダイをミツバチの生き残りたちに届けてくれ」という任務を託されたバズー。
住処に帰り、年長のギロやコオロギのエンゾーから己の出自を知ったバズー。実はバズーのいたコロニーは雨で流されたのではなく、スズメバチに襲われて壊滅してしまったのだ。
仲間たちと一緒にミツバチの生き残りを探そうと意気込んだその直後、天敵のスズメバチが住処を襲う。バズーを除いて仲間たちは全滅、すべてを失ったバズーはオーダイを抱え、ミツバチを探す旅に出る。
その途中、ケラのライバーやゲンゴロウのデブリンという新たな仲間と出会い、危険な旅をしながらついにミツバチと遭遇を果たす……。
大まかなあらすじとしてはこんなところだろうか。
今はテンプレともいえる「村が焼かれる一話」的な冒頭と言えるが、まあ、その内容がえぐい。
あらすじ紹介として簡潔に全滅と書いたが、スズメバチによる蹂躙はあまりにも残酷だった。
詳しくは本編を読んでいただきたいが、エンゾーが「わしらみんなで探せば何とかなるだろ」といった直後にスズメバチの急襲はフラグ回収が早すぎるだろというメタな突込みをしないと耐えられないくらい、かなりきつい。
てっきりこのイップたちとミツバチ探しの旅が始まるのだと思わせておいてのあの殺戮劇は、おそらく当時の読者の度肝を抜いただろう。
※もっとも表紙に描かれてたのは2話以降に登場するライバーとデブリンなので、勘のいい人なら気づくだろうか。とはいえ1話サブタイトルが「バズーと仲間たち」なのはあまりにむごすぎる。「帝王トランザの栄光」並の皮肉サブタイトルといっても差し支えなかろう。
それだけつの丸先生の漫画力が高く、一気に引き込まれたのも事実だ。
たぶん衝撃的な1話を上げろ、と言われたら私は迷わず本作の1話をあげる。
第1話は最終ページを除いて各種電子書籍で試し読みができるので、1度読んで見てほしい。
※逆になんで残り1ページを含まないのだろう。ページ数の問題なのか……?
魅力的な仲間たち
1話で死亡してしまったが、イップたちは「こいつらと旅をする展開だったらどんな風だったかな」と思わせるキャラクターたちだった。
新たに出会ったケラのライバーは、冷静で博識、というライバルキャラっぽい属性ながら無鉄砲なバズーを助けてくれる、頼れる仲間だ。現代なら苦労人キャラとして人気を馳せそうな気がする。割とハンサムな造形だし。
デブリンも、いかにも臆病者というビジュアルながら、何度もバズーたちの危機を助けた。(最も足を引っ張りまくることもあり、ライバーから激怒されている)
ちなみに上記でゲンゴロウと書いたが、実際にはタガメである。詳細は本編にて。
ミツバチの生き残り――――――通称サバイビーたちも、個性豊かだ。
ブル隊長やマシュー将軍ら高官たち、その配下の働きバチたち。第6コロニーの採蜜隊の面々。
働きバチの危険な任務を、黙々とこなす彼らに、むしろ大人となり社会人となったからこそ心惹かれてしまう。
余談だが、個人的にモブ登場のトンボのお姉さんは結構美人だとおもう。あと1話のバッタはどうなったのだろう、無事逃げれたのか、それとも……細かいところが気になってしまう、悪い癖。
本作の登場キャラクターは、多くはデフォルメされた昆虫の擬人化だ。
一方で、宿敵のスズメバチはリアルな造形で、バズーらのように喋ったりしない。
リアルよりで描かれたのはほかにもコガネグモのボガド、アカモズがいるが、彼女たちは言葉を話し、意思疎通をする。
だがスズメバチたちは喋らない。静かに、バズーたちを襲い、命を奪ってゆく。
それが不気味でより恐怖感を煽る。あまりにも異質だ。
バズーの因縁の相手、通称赤目というスズメバチも例外無く喋らない。少しくらいはセリフがあってもよさそうだが、それがかえって最後の対決の熱さを生み出しているのかもしれない。
オーダイに関しては、その正体含めあえて記さないでおく。昆虫に詳しい人ならピンとくるだろう。
結論 サバイビーを読もう、広めよう
連載終了から約二十年、一年にも満たぬ掲載だった「サバイビー」。
だがその物語は、今を生きる我々の心を強く胸打つ。
ハードな物語ではあるが、キャラクター同士の掛け合いは軽妙で、それがより深みを与えている。
それにしても打ち切り漫画とは言うが(コミック版で読む限りは)唐突な感じはなく、バズーの目的は達成していているので、かなり綺麗にまとまっている。むろん、もっと連載が長くなるならふくらます予定だった話もあったのだろうが。
再三述べている通り全三巻、チェンソーマン一部より少ない巻数である。電子版で買えばすぐ読めるしつの丸先生に収入が行く(はず)ので一石二鳥である。もしこのnoteで興味を持ってくださったら、僥倖である。
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