『クレバーなクレーマー』キャプチャ批判の問題点は、「違法」と「不快」を混同していること
『クレバーなクレーマー』第2回を観ました。感想としては、かなりダメな番組だったと思います。なので、この番組と、この番組の内容に賛同している一部の視聴者に対して、何が良くなかったのか、いくつか問題点を挙げていきます。
永野&くるま クレバーなクレーマー テレビマンから視聴者へのクレーム | TVer
なお、既にSNSで一部の方が指摘している、「キャプチャ共有も含めて番組サイドに立って応援を求めてきたこと」、「著名なプロデューサーも含めたテレビ関係者がこれまでキャプチャを容認・歓迎する発言をしてきたこと」、という意見についても、個人的には全面的に賛同していますが、
肯定側も否定側も具体的な論として証明・展開することが難しいと感じたため、この記事では触れません。
ちなみに私自身は番組のキャプチャをSNSで共有したことはありません。キャプチャ行為をしている誰かの複垢でもないことを明記しておきます。
①「不快かどうか」と「犯罪かどうか」を混同して論理を展開している
「番組のキャプチャをSNSに上げる人」というテーマで取り上げた人たちのことを、永野が「関係者っぽい意識がある」と指摘し、くるまが乗っかって「自己肯定感の最下層」というワードで切り捨てる、というその一方的な構図もさることながら、
最大の問題は、くるまがその行為を「自己肯定感の最下層」であると揶揄した理由は明らかに「キュレーター面していること」なのに、それを責める理由に「そもそも違法であること」を持ち出すという論理のすり替えを行っていることにあると感じました。
「サンプリングのセンスに命かけてる」ことや「テレビを監視する超越した存在」ぶっていること、くるまが言うところの「自己肯定感の最下層」であること、それ自体は、決して犯罪ではありません。
にも拘らず、法律の問題とお気持ちの問題を区別せずに批判したことで、そういう人たちを薄っすら嫌っていた一部のファンに、自身の悪意を正当化する武器を与えてしまった。
ここが、これまで永野やくるまや他の毒舌芸人たちが馬鹿にしてきたもの、例えば「有名ハガキ職人」や「ファンアートを描く人たち」とは全く異なる問題に発展している原因でしょう。
これらの行為は(見方によっては)"イタい"だけで別に犯罪ではないので、肯定も否定もお気持ちの域を出ません。しかし、違法であるとテレビ局側が明言したことで、否定側に一方的に有利になってしまったし、お笑い界隈においていま最も勢いのある芸人と言っても過言ではない、くるまと永野の2人が率先して論理を混同したまま「こういう叩き方をして良いですよ」という例を見せてしまったのは、かなり悪手であったように見えます。
②何を槍玉に挙げているかの解釈の余地が広い
くるまも番組内で「100歩譲って個人の趣味としてやっているならまだしも」のようなことを(テロップになっていませんが)コメントしていて、キャプチャ共有行為をしている全てのアカウントを槍玉に挙げているわけではなさそうにも見えます。
しかし、キャプチャを貼る行為が違法であるという部分からスタートした話題である以上、「この文脈でのキャプチャはOK」「こういうアカウントのキャプチャはNG」と解釈するのはかなり難しい内容であったのは疑いようもありません。
しかも、この話題の合間に挟まれた話題で、「お金儲けに走ると急に嫌われる」というインターネットの風潮をくるまが否定的に揶揄していたことから、「金稼ぎに利用していなければOK」ではない、という文脈まで付与されています。
個人的にも、例えば「会話」や「まだ面白い」のような、お笑いファンでもなく、テレビに限らず面白いシーンをそのまま抜粋して、それでお金を稼いでいる人たちのことは、あまり良く思っていませんし、テレビのキャプチャを上げてる人たちの中で好きな人もいるけど嫌いな人もいるし、お笑いファンでありながら何となく番組の内容を自分の手柄みたいに上げてる人がいるなというのも何となくわかります。
今回の件についてキャプチャを貼る行為を容認している人の中にも、「でも本当はアイツだけは罰せられてほしいな」というアカウントがいくつか思い浮かんでいるでしょう。
でもそれは「違法なことをしているから嫌い」なのではなくて「自己顕示欲が見え透いているから嫌い」なのであって、そんなものはネット上で発信活動をしている人たちのほとんどに言えることです。だからそれと「犯罪かどうか」を混同すべきではなかったし、そこを明確に言語化できない割に、権利者側として何らかの差を持って見ているのだとしたら最初から触れるべきではなかったのではないか、と思います。
③権利者自らが違法かどうかに踏み込んでいるのに、制作側にその意識が薄い
該当シーンの総括として、三谷アナが「この番組もきっといっぱいキャプチャされることがあると思います」という発言をしているあたり、番組の1シーンのキャプチャという行為がこの番組をきっかけに完全に根絶されるとは最初から思っていなさそうな発言が随所に散りばめられています。
しかし、個人の趣味としてキャプチャ投稿をしている視聴者からすれば「違法だし捕まるかもしれないけど続けてもいいよ」と言われて今まで通りに続けられるわけがなく、番組制作側と視聴者で受け取り方に大きな差があったように見えます。
その決定的な意識のズレは、番組放送後にスタッフがSNSに投稿した内容を見るとより明らかになります。
番組ディレクターのこのポストは、ある程度この件がSNSで話題になってから投稿されているにも関わらず、十分な説明にはなっておらず、「何が問題になっているのか」を全く理解できていないとしか思えません。「誤解を生んでいる」というのもかなり酷い責任転嫁だと感じました。
『TVerへのリンクは貼って欲しい』というコメントは、キャプチャが一切禁止なのであればTVerのリンクを貼るということができないので、実質的に「キャプチャ行為を容認する」と表明した、以外の読み方はできないと思います。しかし、「なぜキャプチャ行為がOKなのか」という根拠が示されておらず、この件が既にスタッフのお気持ちの問題ではなくなっていることに気づいていないようです。
スタッフ側からすれば「違法であることは自覚してやっていたはず」だからこれまでとスタンスが変わっていない、という感覚なのかもしれません。しかし、親告罪である著作権の問題において「違法であること」と「違法であると権利者から警告されたこと」は全然違います。
あの番組の放送内容は、その前後で決定的に番組のキャプチャを貼る行為の意味を変えてしまったと言っても過言ではないでしょう。
「そこまでガチでは取り締まってない」というグレーなラインを維持したいなら、その根拠を番組内で示さなければならなかった。少なくとも、「著作権侵害は親告罪だからテレビ局以外の人間は文句を言う立場にない」「視聴者側は権利者削除されていない投稿については容認していると捉えて問題ない」くらいのことは、番組内で(もう少し曖昧な言い方で)表明するべきだったと思いますし、今からでも番組SNSでそう訂正すべきです。
そして何よりも、そんなことを言われてもなおキャプチャ行為を続けたいと思ってもらえるくらいテレビ/バラエティ/お笑いが愛されていると信じていること自体が、あまりにも制作者が傲慢で調子に乗っていることの証左になってしまったのではないでしょうか。
④自分たちの発言がテレビ局の公式見解になり得ることに気づいていない
この話題の総括として、違法であることを明言するテロップに、「テレビ朝日的に言っておかなきゃならないこと」という説明が付いています。
番組制作側としてはこれで「大人の事情です」的なジョークであると表明したつもりであったのかもしれません。が、「違法である」という主張をしているのにジョークで済むと思っているのはかなり意味がわからないですし、むしろテレビ局側に遵法意識がないのでは? とすら思える言いぶりです。
これを読み上げたのが、その後のシーンでガンガン自身の考えを発信している三谷アナであることもその見方を難しくしています。あのシーンだけナレーションベースで別の人が読み上げていたらまだ区別しやすかったかもしれません。
「テレビマン」と「テレビ局」は別の存在である、という主張が通ると思っているのは、あくまで制作側の思い込みでしかなく、テレビ局員かフリーのスタッフかといった立場の違いも含めて、受け取り側でそこまで区別して見ている人はごく少数でしょう。
何よりこの番組は、SNSやインタビューでの発言ではなく、TVerの番組ページにもスタッフロールにも「制作・著作 テレビ朝日」というクレジットの下、テレビ番組内で放送された内容です。こちらが圧倒的な正式見解として受け止められるのはごく自然な流れです。
では、テレビ朝日としてはどのような見解を出すべきだったのか。
ここでは一例として、少し古いですが2010年、任天堂が株主総会の質疑応答で二次創作の是非について問われた際の回答を、引用します。
これが著作権に触れかねないファン活動に対する公式見解の模範解答です。本来であればこのくらい繊細な説明で「全てを違法とは言い切れない」と回答しなければならない案件であり、1番組の面白コンテンツとして数分で消費するのはあまりにも迂闊であったと思います。
⑤そもそも本当に違法なのか怪しい
これは余談ですが、大前提として、「番組の1シーンを貼り付けてSNSで紹介する行為」が本当に違法なのかというのも、疑問が残ります。
いくつかの記事を調べてみると、引用であると主張するには、以下のような要件を満たす必要があるようです。
(TVerへのリンクを貼っていれば)これらのうち2以外の要件はほとんどの場合満たしているでしょうし、むしろ、コラ画像やネットミームよりよっぽど「元のコンテンツを尊重している」側の活動です。2についても感想が貼ってあればどう判断されるかはかなり微妙そうに見えます。
私自身は法律に詳しいわけではないですが、少なくとも「キャプチャ行為をしているアカウントは全て、誰が見ても引用には当てはまらない」と言い切るのは結構難しそうで、実際に誰かが裁判に持ち込んで判例が出るまでは明確な答えは出ない問いのように見えます。
また、「テレビの初見の面白さを奪っているのに宣伝効果があるかのように自己正当化している」というようなコメントも見受けられましたが、これもまた違法かどうかとは何の関係もありません。
それであればキャプチャなしで番組のやり取りを書き起こして紹介するのも、面白かった番組のレビュー記事をニュースサイトに挙げるのも、ラジオで面白かったバラエティの話をするのも、「今月のお笑い」といって面白かったエピソードを紹介するのも、全て初見の面白さを奪って他者が作ったコンテンツにタダ乗りしている側面がゼロではなく、キャプチャ共有との差は何もありません。
各SNSやYouTubeで権利者削除が行われるのはあくまで各サービス運営の判断であって、違法であるかどうかとは別の話です。
念のため、これは「絶対に引用の要件に当てはまるから違法ではない」という擁護ではありません。「現時点では結論を出す権利が誰にもないはずだ」と考えています。
それを「違法である」と断言する、しかも他の分野では似たような行為をたくさん行っているテレビ局がそれを主張するのは、かなり自分に都合の良い法解釈に基づいたポジショントークであったと感じます。
まとめ
この問題は、本来であれば数分で取り上げて良いテーマではなかった、ということに尽き、それを軽い気持ちで面白がって手を出した番組側の責任は非常に重いです。
作り手側が「違法なのでやめてください」と本気で思っているなら何も間違っていませんが、「完全に辞めてほしいわけではないです」という甘えが少しでもあったなら放送すべき内容ではなかったでしょう。
私自身、番組のキャプチャツイートやレビュー記事をきっかけに興味を持って観た番組がたくさんありますが、違法であるというリスクを冒してまで続けてほしいとは口が裂けても言えないので、これ以上番組側・スタッフ側から追加の説明がなければ、そのような行為は一切止めるべきとしか言えないんじゃないかと思います。
繰り返しになりますが、この番組を制作したスタッフの方が、もしキャプチャ行為を今後も続けてほしいと思っているのであれば、少なくとも「違法かどうかは権利者が決めることであり、判断が難しい部分があるので、権利者以外の方が何か言うのは辞めてください」くらいのことははっきり表明すべきだと考えています。
他方で、これで番組キャプチャの共有が減ってくれたらそれはそれで別に良い、そのツイートが減った程度で番組の人気に影響はない、と思っているなら今の対応で十分だし、これ以上の対応がなければ視聴者側はそのように解釈すべきでしょう。
あと、仮にキャプチャを貼る行為をしている人たちが違法であったとして、その人たちに罵詈雑言を浴びせる権利はなく、そちらの方が議論の余地なく名誉毀損で違法です。
くるまや永野は特定個人を対象に言っているわけではないですが、番組のキャプチャを貼っている/貼っていたアカウントに対して引用ポストなどで暴言を吐いている人たちの方がよっぽど訴えられたら負けることをしているし、その自覚なく他人の行為に口出しすることの意味もわかっていない人たちこそが、自己肯定感とか関係なく人類の最下層です。
追記部分に、「くるまと永野の主張が正論として受け止められすぎてしまっている」という点について少し書きました。元々は記事内に入れるつもりでしたが、本題とは少しズレること、本文以上にやや賛否ありそうな内容のため有料設定しておきます。
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⑥「くるまと永野が否定する」ことの影響力を自覚して作られていない
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