QuizKnock は社会問題への無関心に加担している
QuizKnock。登録者200万人超えのクイズ系YouTuberにして、ウェブメディア運営、テレビ出演やアプリ開発など様々な活動を行っている企業でもあります。
この記事を書いている私もQuizKnockは好きで、リアルイベントに行ったりフォロワークラブに参加したりはしていないので、生粋のQKファンからすると全然大したことないですが、4~5年前にチャンネル登録して以降、メインチャンネルの動画はそれ以前のものも含めてほとんど全て一度は観ていると思います。
ただ、最近になって特に、QuizKnock に対してモヤモヤを感じるようになったことがいくつかありました。
QuizKnock の動画、特にお堅い企業・団体とのコラボ/案件動画に必ずといって良いほど付けられるコメントに、「QuizKnockは絶対に炎上しない安心感があるからこういう団体からの案件を受けられる」という趣旨のものがあります。
そしてそれは間違いなく事実です。QuizKnockの動画はどれも企画から編集まで非常に丁寧で、暴言や悪意のある表現もなく、他のYouTuberと違って、観ていて「これ炎上するかも?」という危うさを覚えることも全くありません。
昨年公開されたセルフドキュメンタリー動画でも、撮影・編集とは別に校閲・校正の担当がついているなど、丁寧なファクトチェックの体制が紹介されており、複数人の目が入ることでミスがないよう細心の注意を払って公開されていることが明かされています。
私自身、このような QuizKnock の編集体制は本当に凄いと思っているし、だからこそ楽しく観れています。
ただし、どう取り扱っても賛否両論が生まれてしまうようなジャンル、政治・社会・時事といった、答えを出しにくい問題に QuizKnock が触れることはほとんどありません。
この姿勢は、「楽しいから始まる学び」をコンセプトとして掲げる集団として、果たしてどうなのだろう? という疑問を覚えることが、特に今年に入ってから少しずつ増えてきました。
(1)都知事選の報道を巡って
都知事選の伊沢さんコメントへの違和感
この記事を書こうと思った直接的な理由が2つあり、1つは2024年7月の東京都知事選に関する伊沢さんの発言です。
伊沢さんはテレビ出演時、「個別の候補者についてあまり話さないように」という指示を事前に受けたことについて、選挙後に出演したテレビ番組内で苦言を呈しました。ここでは放送後に投稿されたツイートの一部を引用します。
この引用が伊沢さんの意図と異なる文脈の切り取りになっていたら申し訳ないですが、この指摘は非常に鋭くて流石だなと思いました。メディアが特定の候補者に偏ること、または偏っていると見られて批判されるリスクを避けすぎるあまり、選挙という特定の候補者の中から1人を選ぶイベントにも拘わらず1人をピックして語れないという制約の下では、具体的なことをほとんど何も話せず、選挙報道としての存在意義自体が薄れてしまうでしょう。
しかし、伊沢さんは単なるタレントではなく、株式会社QuizKnockのCEOであり、WEBメディア『QuizKnock』の編集長であり、登録者が200万人いるYouTubeチャンネルの代表者でもあります。
都知事選について、個別の候補者について言及した方がメディアの在り方として理想的であると考えるのであれば、それを証明する手段があったのではないか、と思ってしまいました。
もちろん、QuizKnock は営利企業の運営するメディアですから、どのような話題を取り上げるのも自由です。単に「ウケが良くないから」「アクセス数に繋がらないから」という理由でトピックを選ぶのは当たり前で、それを批判される謂れはありません。
しかし、それはテレビ局も全く同じ立場にあるはずです。卵が先か鶏が先かという話にはなるものの、テレビ局が都知事選の候補者についての詳細な事前報道を行わないのは、そういった内容の放送をしても視聴率に繋がりづらい、評判も良くない、むしろ批判の的にされやすい……という、視聴者の感情や需要に配慮した結果でもあるでしょう。
QuizKnock が積極的に都知事選の各候補者を取り上げて、それを「知とエンタメを融合させた」コンテンツとして発信し、それが数字に繋がることを証明すれば、マスメディアも追従しやすくなる、そういうアプローチを伊沢さんは取れたのではないでしょうか。
QuizKnockのWebサイトを「都知事選」で検索したところ、2024年に入ってから都知事選を取り扱った記事は1件のみ。それも、毎日の注目のニュースを取り上げる「朝Knock」で、「投票所が新たに設けられる施設はどこでしょう?」という雑学クイズ、しかも読者投稿でした。
ここまで露骨に読者受けを意識したテーマの選び方をしておいて、テレビ局の放送内容を批判するというのは、少し無責任に感じました。
都知事選をYouTubeで取り上げることは不可能ではなかった
もしこれが、都知事選や選挙といったテーマを取り扱うと絶対にバッシングを受ける、というのであれば、QuizKnock がそれを避けるのも仕方ないかもしれません。
しかし、今回の都知事選では、実際にそういったリスクを冒して都知事選を取り上げたチャンネルがいくつかありました。
その筆頭が『中田敦彦のYouTube大学』です。都知事選の前週に、小池百合子氏・蓮舫氏・石丸伸二氏の3人を自身のチャンネルに呼び、それぞれ前後編合わせて1時間前後の動画を公開。テレビ・ラジオでは絶対に実現できない、長尺の対談動画で各候補者の個性や素顔を引き出していました。
この取り組みが炎上したかというと決してそんなことはなく、むしろ普段の中田敦彦さんの活動について好意的でない層からも一定の評価を得ていたように思います。
私は、『YouTube大学』と同じような形式で各候補者を呼んで、QuizKnock メンバーが政策や公約について訊く動画をぜひ観てみたかったですし、それによって都知事選に興味を持っていない層にアプローチし、伝統的に低い若年層の投票率の改善に貢献できる可能性すらあったと思います。
上記の3人ではなく、伊沢さんがピックアップしたいと語っていた安野たかひろ氏へのインタビューもぜひ観てみたいです。選挙について興味を持つ入り口になったはずです。
このような特定の候補者を取り上げた動画を QuizKnock が出したとして、決して支持を促すものではない、という説明が丁寧になされていれば、それで QuizKnock が炎上するほどのものにはならないでしょう。
もちろん、動画に取り上げることでの単純接触効果はゼロではないので、QuizKnock ファンでそれをきっかけに投票に動く人も少なからずいるかもしれません。
しかし、それこそまさに伊沢さんが批判的に言及した、偏るリスクを避けすぎて具体的なことを何も話せなくなっている既存マスメディアと全く同じ行動原理です。
そういうリスクヘッジであらゆる政治・社会問題について触れない方が「正しい」「安全」とされる今の社会の空気感を、QuizKnock に打ち壊してほしい。無責任な高望みであることは承知の上で、そう思っています。
(2)現在進行形の問題に向き合わない「安心」
大きくなった問題を取り上げない矛盾
4年前に公開された動画『クイズ!ペンタゴン2』に、伊沢さんがロシアのウクライナ問題について、ジョークとして触れるシーンがありました。
この動画の収録当時、伊沢さんが意識していたのは2014年のクリミア侵攻およびドンバス地域紛争のことだと思われます。この紛争はかなり早い段階でロシア優位に決着し、クリミアのロシアへの編入は国際的に黙認されることとなりました。
それから5~6年が経過しており、既に「現在進行形のセンシティブな問題」ではなく「歴史的な事象」になっていたので、この当時の感覚として、伊沢さんの触れ方は不適切ではないですし、私も投稿直後にこの動画を観た当時は何とも思っていませんでした。
今見返しても「ロシアのやったことを肯定している」というレベルのものでは全くないので、今さらこれが炎上すべきだとも全く思っていませんし、この動画を公開停止すべきということもないでしょう。
そして、当然2022年以降はロシア・ウクライナにまつわる話題が QuizKnock で取り上げられることはほとんどありません。
ただ、立ち止まってこのタイムラインを整理してみると、QuizKnockは、ウクライナ侵攻が始まる前はロシア・ウクライナについて触れていたが、侵攻が起きてからはロシア・ウクライナについて一切触れなくなった、ということになります。
……これ、本来はむしろ逆であるべきではないでしょうか。
QuizKnock の動画が知の入り口になることを期待するのであれば、ロシアとウクライナについて人々が関心を持って正しく理解すべき理由は、開戦前よりも開戦後の方が高まっているはずです。
いまこの瞬間にも人が殺されている現実がある「から」触れない、というのは、問題の深刻度と優先度が完全に逆転しています。
他のメディアの例として、糸井重里氏が主宰するウェブサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』では、ロシア軍事研究家の小泉悠さんを招き、この問題をどう考えるべきかを、いわゆるニュース番組とは違った切り口で紹介しています。
この引用部分にも記載があるように、ほぼ日というメディアも本来は時事問題について語るようなメディアではありませんが、それでもこの問題を取り上げるべき問題として捉えた上で、過度に何かを煽ることはせずに関心を持たせる導入になっています。QuizKnock もこのようなアプローチでこの問題を取り上げることはできないのだろうか、と思いました。
現代で起きている戦争について発信することにはリスクがあります。賛成も反対もしなければ炎上はしません。しかし、一切触れなければ、そこに学びも知も生まれません。ただ「炎上しないだけ」です。
ここでは、「真偽不明な情報を扱わない」というスタンスが、むしろ逃げ道として使われているように感じてしまいました。
QuizKnock は当初、ファクトチェックの甘くて不正確なキュレーションメディアの流行という社会問題を解決するためのWebメディアとして立ち上げられました。そして、いま最も偽情報が蔓延し、国内外で社会問題になっているのが、戦争や選挙といった分野です。
その当初の問題意識が今も残っているのであれば、この分野についても「正しい」知識を得るための導線を引くことを試みるべきなのではないか、と思います。
「何かを貶さない」ことは「政治的中立」ではない
QuizKnock は政治的・社会的なテーマに繋がる意思表示を極力避けているように見えますが、それは常に政治的中立であることを意味しません。特に現在進行形で起こっている何らかのテーマに言及することは、必ず何らかの意味を持つからです。
例えば、QuizKnock は JR東海の案件で、リニアモーターカーのメリットを紹介するPR動画や記事を公開しています。
しかし、「リニアモーターカーの是非」は、2024年6月の静岡県知事選で争点化された、紛れもない政治問題の1つでもあります。QuizKnockがリニアモーターカーをポジティブに紹介することは、政治的に中立であると言い切れるのでしょうか。
ただリニアの良さを語っているだけだから思想は入っていない、と思うかもしれません。でも、もしこれが「静岡県の案件で、リニアモーターカーの建設を防ぐことの意義を"PR"する動画」だったとしたら、案件動画とはいえ政治的に中立であるという印象は抱きづらいはずです。
私自身はリニア建設にはどちらかといえば賛成ですが、ある特定のテーマについて、賛成することは政治的主張ではないのに、反対することは政治的主張である、というのは矛盾した話です。
さらに、QuizKnockは2025年の大阪・関西万博のスペシャルサポーターに就任し、プロモーション活動に参加することが決まっています。
大阪・関西万博も、リニア同様、どころかそれ以上にはっきりと政治的な意味を持ったイベントです。2023年の大阪府知事選・大阪市長選でもその是非が争点の1つとされ、開催が直前に迫った現在でも、様々な問題を指摘する声が上がっています。その中で QuizKnock がその成功とイメージアップをサポートすることは、特定の政党の成果や評価に間接的に貢献する行為になり得るでしょう。
これらは決して「政治的な話題だから関わるべきではない」ということを言っているのではありません。
ただ、政治的な話題に直接的には一切触れないにもかかわらず、こういう案件動画を受けるのは、むしろ政治的に偏った態度なのではないか、と思います。
あるテーマについて語る時に、ポジティブな働きかけを行う推進派が建設的で、対案を出さない反対派は非建設的な議論を持ちかけているように見えてしまいがちですが、特定の問題の賛否をテーマ化すること自体が、既存の権威にのみ許された特権である場合があります。
リニアモーターカーに反対する人たちが「リニアモーターカーの代わりに新幹線をもう1本作りましょう」と言い出したところで、JRにも国にもそんな気がないのだから主張として何の意味を持ちません。この社会には、反対する際に対案を出せない問題も存在します。
そして、そういった政治問題の賛否そのものを取り上げないことは、結果的に賛成と同じ意味にもなってしまいます。
それは都知事選についても同様で、「どの候補者も取り上げない」というのは、一見すると最も公平な態度に見えますが、実質的には最も露出の多い現職候補が有利になるように働いているのと変わりません。
ウクライナ侵攻も、ガザ侵攻も、難民問題も、人種差別も、「取り扱わない」ことは「中立」ではなく「現状(多数派・既存権力)の追認」になってしまうのです。そう考えると、QuizKnock の表面的にフラットな態度が、常に「安心」であるとは言い難いのではないでしょうか。
(3)東京大学の授業料値上げ問題
東大授業料の値上げ問題に無反応だった QuizKnock
この記事を書こうと思った理由のもう1つ、最大の理由は、2024年5月の東大授業料値上げ報道、およびそれに反対する学生有志のデモについて、QuizKnockとしての反応がなかったことです。
2024年5月に東京大学が授業料の改定を検討していることが明らかになり、それ以降様々な議論を呼びました。学生による反対集会などの運動、大学総長との対話、警察の介入など、様々な事件が起き、最終的には当初予定されていたとされる7月中の値上げの正式決定が延期されました。
この一連の流れの中で、伊沢氏はテレビ番組への出演時にコメントこそしていますが、「どちらの立場もわかる」という中立的な発言にとどまっています。
それ以外に、QuizKnock メンバーがこの件について言及したり公式声明を出したりということは、自分の知る限りありませんでした。(メンバーのSNSを全て追っているわけではないので、もし見落としがあったらすみません)
この記事の中でここまで取り上げてきたトピックは、数ある社会問題の中の1つに過ぎず、QuizKnock が「絶対に取り上げなければならない」というものではありません。
しかし、他の政治問題と異なり、この問題については中立ではなく、QuizKnock として学生側に明確に寄り添うステートメントを出しても良かったのではないか、と思っています。
なぜなら、今の東大と東大生を取り巻く環境に対して、 QuizKnock の存在は絶対に無関係ではないからです。
QuizKnock は東大出身のメンバーが非常に多く、現役東大生メンバーも多数在籍しています。「東大生/東大卒が〇〇に挑戦」といったタイトルの動画を投稿したり、「東大発の頭脳集団」という肩書きを使ってテレビに出演したりすることが今もあります。
もちろん、「商品として売れるから」「メディアから求められているから」という事情であって、本人たちが100%望んでやっていることではないでしょうが、それでも今の QuizKnock は、東京大学というブランドを積極的に活用し、その恩恵を最も大きく受けている組織です。
そのブランドは、東京大学に在籍する・していた優秀な学生が社会で活躍してきたことによって長年かけて積み上げられてきたものであって、東大が間違った方向に進んだり、入学者の質的な偏りが生まれたりすることは、QuizKnock にとっての不利益でもあるはずです。
ある意味で東大生の代表として振る舞ってきた側面のある QuizKnock が、この件についてコメントを出すのは、むしろ自然なことであるように思います。
QuizKnock の活動が、東大の値上げを容認する空気を生んでいる
2024年6月、以下のような対談記事がウェブ上に掲載されました。
『反知性主義』の著者でもある東京女子大学学長の森本あんり氏と、法政大学教授の河野有理氏の対談です。少し長いですがこの記事の一部を以下に抜粋します。
ここで主に河野氏が主張しているのは、「かつては東大や国立大を支援することが日本の発展に繋がるという共通理解があったが、最近はそうではなくなっている」「東大タレントブームは、そのイメージを変える理由の一端を担っている」という2点です。
「東大王」の放送開始が2017年で、放送終了が予定されているとはいえ既に7年近くゴールデン帯で放送されています。いま「東大出身の有名人と言えば?」というアンケートを取ったら、おそらく伊沢さんが1位になるでしょう。
QuizKnockメンバーや、東大王メンバー、または AnotherVision 出身の松丸亮吾さんなどまで含めた潮流としてですが、彼らは単に「東大出身のユニークなタレント」というだけでなく、その頭の良さと、それを補強する東大の名前を、直接セルフプロデュースに繋げる形でメディア露出を行っています。この点で、「東大生が在学中・卒業後、自身の"賢さ"をどのように活かしているか」のパブリックイメージに彼らの言動が与えている影響はゼロではないと思います。
語弊があることを承知の上で、あえて単純化するなら、QuizKnock が東大ブランドを自分たちの利益のために最大限利用した結果、自分たちの後輩が東大で学ぶ環境を厳しいものに追い込んでいる可能性があるのです。
もちろんこれは極論であって、QuizKnock に全ての責任があるとは全く思いませんし、もしかしたら私自身が QuizKnock の存在感を過大評価しているだけかもしれません。
ただ少なくとも、QuizKnock は「いま最も発信力のある現役東大生」の在籍する組織であるとは言えるでしょう。だからこそ、その発信力を学生有志の反対運動に連帯するという形で使っていたら、この問題に対する世間の関心もより高まっていたのではないでしょうか。
もっと言えば、東京大学やその他の国立大学が現状のような方針で運営され続けることが、日本社会にとってどのようなメリットがあるのかをわかりやすく説明し、広く知らしめる、というところまで踏み込んで発信する役割を QuizKnock が担っていたら、世間の風向きはもう少し違っていたのではないか、とも思ってしまいます。
そしてそれは、QuizKnock 自体に世間から向けられる目線が、まさに河野氏が言っているような形で反転することを防ぐ活動でもあるので、長期的には QuizKnock 自身の利益にもなるはずです。
なので、反対運動が一番盛り上がっていた今年5~6月に QuizKnock が何のアクションも示さなかったことには、正直に言うとかなりガッカリしました。
(4)QuizKnock はどこへ向かっているのか
「東大卒なのにクイズはダサい」?
2020年、脳科学者の茂木健一郎氏が、東大生や東大出身者がクイズ番組で活躍している現状を批判したことが話題になりました。
この一連の発言に対して、当時SNS上ではどちらかというと批判的な反応が多かったと思いますし、私も当時このニュースを見て、随分と的外れなことを言っているな、と思いました。
なぜ的外れかと言えば、「直接的に何かを作る・生み出す・変える」ということだけが社会的な意義のある活動ではなく、「何かを作りたいと思う人を増やす」とか、「何かを作る人の凄さを紹介する」ということも、誰かがやらなければならないし、意味のある活動だと思っているからです。
物理学の博士課程を卒業した須貝さんが QuizKnock に入らなかった世界線では、彼が研究職に就くことによって社会的意義のある発明や発見が生まれていたかもしれません。
しかしその代わり、QuizKnock でメディア活動に携わり、自身の研究や、同分野の他の人や会社の研究・技術をわかりやすく紹介することで、物理学に興味を持つ子どもや、物理学を専攻してきた人たちが社会で活躍する意味を理解する大人、修士・博士課程に進む・進んだ学生を尊敬する人が多くなったはずです。
それははっきりと数値化できなくとも、物理学を直接的に活かす以上の社会貢献であるかもしれません。
そして、QuizKnock のテレビやYouTubeでの活動も、QuizKnockの信頼を上げるという意味で、そこに間違いなく寄与しています。QuizKnock を観ていない人よりは観ている人の方が、多少は真偽不明な情報を疑ってかかるでしょうし、一般教養を身に着けている人の価値を高く評価しているでしょう。
QuizKnock が影響力を持つことで、最終的に社会におけるメディアリテラシーや教養(※)のベースラインの底上げが達成されるのであれば、タレント活動やクイズ番組出演といった、既存の社会システムに従属した形で活動の規模を大きくしていくのはそのために必要な過程であり、現時点での活動のみを評価するのは短絡的であると思います。
(※ここでは教養の定義を明確にはしません、ニュアンスとして理解してもらえれば、と思います)
しかし、そのニュースから4年が経ち、この記事に書いたようなモヤモヤを抱いているうちに、もしかしたら茂木氏の指摘も部分的に正しかったのかもしれないと思い始めました。
QuizKnock のメインチャンネルの登録者が200万人を超える中で、QuizKnock の活動は『GameKnack』、『QuizKnock Schole(スコレー)』、『ハイスクールクイズバトル WHAT 2024』など、よりディープな方向、ファンコンテンツの拡充といった基盤固めに向き始めました。冒頭の『QuizKnockドキュメンタリー』もその1つでしょう。
そして、会社としてもYouTubeチャンネルとしても大きく人気が高まったことで得た影響力は、社会を変革する方面には向かわず、官公庁や大企業からの案件動画、大阪万博のサポーターと、むしろさらに深く既存の社会機構に取り込まれて一体化し、健全な批判精神を発揮できなくなっているように見えます。
今のQuizKnockが目指しているゴールは、社会のメディアリテラシーの向上ではなく、「クイズ業界の発展とQuizKnockの利益の最大化」だけなのではないか、というのが正直な気持ちです。
もちろん QuizKnock も Baton も営利企業ですし、「クイズ業界に流れるお金を増やしたい」というのも QuizKnock の初期目標の1つとしてあったそうなので、その方向を目指すのは決して間違っていません。
ただ、本当にそこだけを目指すのであれば、茂木健一郎氏の言う通り「ダサい」かな、とも思ってしまいます。
「楽しいから始まる学び」「知の交差点」を標榜し、そして「東大発の知識集団」として東京大学の名前を背負って活動している組織として、ただ利益を追求する以外にもできることがあるのではないか、と思うし、今の QuizKnock の人気であれば、多少そういうリスクを取った活動をしてもファンは離れていかないんじゃないか、とも言いたくなります。
QuizKnock の「安心安全」を持ち上げるの、もうやめませんか
これは QuizKnock 自身に対しても、QuizKnockファンに対しても、最初に引用したようなコメントで、QuizKnockが「特定の立場に偏っていない」「炎上しそうな発言をしない」ことを持ち上げるの、もうやめませんか、と思っています。
特定の立場に偏らないことは不可能です。QuizKnock もそう見えないだけで十分に偏っています。その上で大事なのは、自身の偏りを自覚し、常にその正しさについて自問した上で、どういう態度を表明するか、どこまで自身の立場をアップデートし続けられるか、だと思っています。
確かに、東大の授業料値上げ問題の時に一切のコメントを出さないQuizKnockは、絶対に炎上しない安心感があって、大企業や官公庁からの案件を確実に受けられる存在です。
でも、そんなQuizKnockが、公式アカウントであえて「東京大学の授業料値上げに断固反対します」という声明を出したら、めちゃくちゃカッコよくないですか?
私は楽しい話題にしか触れない今の安全なQuizKnockよりも、リスクを背負ってでも社会を良くするために能動的に働きかけるQuizKnockの方が信頼できるし、そうなってほしいと願っています。
終わりに
この記事は数ヶ月ほど前から考えていた内容を言語化したものなのですが、この記事を書いている最中、たまたま QuizKnock (の元メンバー)の悪口を書いた note が投稿され、それで大金を稼いだことが明かされました。
その記事は読んでいませんがとても嫌な気持ちになったので、この記事ではなるべく攻撃的なニュアンスにならないように心がけて書いたつもりですが、不快になったファンの方がいたら申し訳ありません。
それと同類の便乗した記事だとは思われたくないので、有料部分ではQuizKnock で好きな動画10選とその理由を発表しています。QKで一番好きな問題文、好きだった卒業メンバー、一番好きな動画など、本文と全然関係ないオタク語りです。この記事が面白いと思った方、気になった方が買ってくださったら嬉しいです。
QuizKnock の好きな動画10選
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