レイトショーは損でしょう
昨年からたくさん映画を観ている。もっぱら本ばかり雑多に読むような生活をしていたのだが、だんだん小説的な世界や学術書の描く世界に慣れてきてしまって他のところを覗きたくなったのだ。
2016年はご存知の通り東宝の勢いがものすごい年であった。『シン・ゴジラ』に始まり『君の名は。』『怒り』など大ヒットを連発。どれも2回は観た。どんなに大ヒットしている作品でも、誰かしら批判はしているもので「こんな映画は観ている時間がもったいない」なんて辛辣な意見も目にするのだけれど、僕はわりとどんな作品でも楽しめてしまう。
お金をかけて作り込まれた作品であれば背景の細かい美術であったり、キャラクターの動きのリアルさに感心する。一方で低予算のいわゆるB級ものでも、この撮影はどこでやったのだろうか、出演している人たちは朝ごはんに何を食べて撮影に臨んでいるのだろうか、予算をかけているのはどんなところなのだろう、と映画の中身とは全く関係ないところまで想像を膨らませている。
映画自体はあまりおもしろくなくても映画をきっかけとして意識をいろんなところへポンポン飛ばせば、たいていのものは楽しめるものだ。ぜひ試してみてください。
映画をたくさん観ようとすると、なにもない休日だけではなくあまり時間の空いていない平日にも観なければならない。すると必然的に夜の遅い時間帯から始まるレイトショーを利用することになる。大きな映画館であれば夜間にも人を呼ぼうと値引きをしている上に、観客が少ないからとても快適な時間を過ごせて嬉しい。
と思っていたのだが、レイトショーの利用をやめようかと思う出来事があった。
2017年のはじめに公開された『ラ・ラ・ランド』を観に行った。高速道路を何日も封鎖して撮影したというオープニングから引き込まれる。あんなに遠くの人まで音楽に合わせて踊っているなんてどうやってリズムを統一しているんだろうか、などと考えながらこの作品は僕の好きな映画ランキングで上位に入るかもしれないと期待していた。
しかしエンドロールが流れると失望することになる。全く刺さらなかったのだ。周りには「とてもよかった」と評価する声ばかりなのに、僕はその良さを感じられなかった。それが悔しい。
『夜は短かし歩けよ乙女』を観たときも悔しい思いをした。夜10時から上映の回になんとか滑り込み、じっとスクリーンを見つめていた。
もともと森見登美彦さんの作品が好きで原作は読んでいたので話についていけなくなることはなかったし、アニメ『四畳半神話大系』とのつながりを感じさせるような描写もある。これはきっとおもしろい作品だ、と思っていたものの部屋が明るくなって退室するころには失望していた。いまいち楽しめなかったのが悔しい。
もちろんどんな作品にも好き嫌いはあって、たまたま僕の好みに合わない作品が続いたのかもしれない。あるいは他の人の心もつかめていないのかもしれない。でも僕は欲張りなのでどんな作品も満足したいと思ってしまうのだ。
『ラ・ラ・ランド』や『夜は短かし、歩けよ乙女』などの経験から、どうすれば映画を最大限楽しめるのだろうかと考えてひとつの結論を導き出した。作品が合わないという可能性の他にレイトショーという鑑賞方法にも原因があるのかもしれない。
現代においては「勉強は朝やったほうがいい」だとか「創造的な仕事は朝やるべきだ」なんて意見が広まっている。頭を働かせなければならないことは脳が疲れていない起床後すぐが良いのだという。
同じようなことが映画の鑑賞にも言えるのではないか。つまり映画は朝に観た方がより細部にまで意識が届き、楽しめるはずだ。一般的に「消費する」と言われていることも真剣に楽しもうとするならば頭が働きやすい時間帯に触れるべきなのだろう。映画館でモーニングショーが実施されることに期待している。