「推し燃ゆワンウェイドライブ」2022/05/01
・ONE WAY DRIVE
家の近所に天ぷら屋がある。
高いお店じゃなくて店内は松屋とか餃子の王将みたいになってるんだけど、雰囲気だけはしっとりとしたいのか、店内でJ-POPの和風アレンジ曲が小さめの音で流れている。USENかも。
天ぷらを食べながら音楽に耳を傾けてみたら、江角マキコの「ONE WAY DRIVE」だった。ゴーバディゴーと言った方が通じるかもしれない。
……いや、それでもそんなに通じないだろう。
そんなに通じないだろうくらいの曲を、和風ダサアレンジで2022年に蘇らせるかふつう?
店を出るまで音楽に注意をはらっていたが、やっぱりゴーバディゴーだけ異色だった。
・宇佐美りん「推し、燃ゆ」読んだ
以前に同じ作者の「かか」を読んだときと同じ感想。
「推し」概念とかSNSとかって現代的な要素も多く描かれた作品だけど、生きる上での苦しみの本質はずっと変わらないんだなってわかる本だった。
「かか」と比べて、こちらの主人公は良くも悪くも推しの存在に依拠しているぶん母親や家族に対する関心は薄くて、でもこっちの方が個人的にはムカつく。生きづらさや苦しみというものはみんな抱えているもので、それでも何とかなっているように見えるのは、周りの家族や友人にちょっとずつ支えてもらってるからなのに、主人公の両親はそれをしようとしないから主人公は「どうして自分は他の人のように生きられないんだろう」と、1人で重荷を抱えてくたくたになっていて、でもそういうものだと思い込んでしまっている。誰かに寄りかかれないと恨み言を言うこともせず、誰かの荷物を持ってやる思慮もないまま、ただ1人古い家で濡れた洗濯物を絞る。親を恨む選択肢さえ知らない主人公のかわりに殴りたいってモヤモヤした。
だから彼女にこんなこと言ってものれんに腕押しだろうけど、あなたが引き合いに出して比べてる他の人も、あなたと同じくらい苦しんでいるから、って言いたい。
そういう思慮が抜けているのはあくまで主人公であって、演出であって、作者ではないだろうけど、一人称の地の文(とブログの文章)が豊かすぎてどうしても主人公にも「人並みのこと」を説教したくなる。文章力は推しの効能だってこともわかるけど、主人公の姉の気持ちが少しわかるよ。
……てな感想を書きたくなる文学作品としても、現代の「推し」という人間関係の文化についての言語化としてもかなり優れているように思う。私は正確には「推し」という概念がわからない。好きという気持ちの中にそれを他人に勧めたい気持ちが入ってない。でも、芸能人などに対して「認知される」ことなく名無しのファンとしていたい気持ちはわかるし、娯楽としてではなくむしろ苦行や業としてファン活動に身を投じるときの感じもわかる。「推し」を通すことで変わる世界の有様がよく書けていてそれでいて古典文学のような要素もあるから、「推し」のいる若い人が興味を持って読んで、心の中の重荷に気づいたり少し重荷を下ろせたような気持ちになる可能性もあるってことで、こりゃすごい。早く図書館に返却しなければ。