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小説家デビューが決まったら読む記事(1)デビュー前にすることまとめ

 はじめまして、小説家の入江君人と申します。

 この記事は、これから小説家デビューする人に向けた、おすすめ情報をまとめたものです。

 たとえば、「税金対策」「使っている道具やアプリ」「編集者との打ち合わせの仕方」「企画書の書き方」など。
 こういった事柄は、以前なら先輩作家さんから学ぶものでした。しかし昨今はコロナの影響や、賞デビュー以外のルートも増えたことで、ひとりで孤独に悩む人が増えたように感じます。

 そこで今回は、私自身が新人の頃に知っておきたかったと思うような知識を詰め込みました。どうぞ参考にしてください。

 ただし、ここに書いてあるのはあくまで「こういった便利なものがありますよ」という気付きを目的としており、文量も二万文字程度の短いものです。税金関係などの詳しい知識は、専門家にたよってください。

 また、本書はあくまで、作家としての雑務対策に限定しており、いわゆる創作論を扱うものではありません。

 もしも、そういった創作ノウハウを知りたいと言う方は、本書の姉妹作にあたる【「書けない」から始める小説の書き方(近日発表予定)】で書いていきます。(ちなみに本書にも電書版があって、こちらは前記事がまとまっているのと、「これはちょっとオープンな場所で言うのは微妙だな」と思った部分が加筆されていますので、よかったら御覧ください)

 それでは始めていきましょう。初回は「デビューまでにやっておきたいこと」編です。


デビューまでにやっておきたいこと。まずはペンネーム

 作家としてデビューすることがわかったら、まずはペンネームを確定させましょう。

 なぜなら、これからの活動はすべてこの名前が前提となり、メールアドレスやSNS、屋号などにも影響してくるからです。

 このペンネームですが、後々になって後悔する人は多いです。ネットで活動するときにつけた適当なものや、人に呼ばれることを想定していないものはとくに、真面目な会議の席で「もふもふプリンさんの御意見は〜」などと呼ばれて悶絶することになります。

 また本名での活動は、よほどの覚悟がない限りはやめましょう。こういった個人情報が露呈すると、SNSでの乗っ取りやソーシャルハッキングがぐっとやりやすくなって危険だからです。

 次に、ペンネームを考えたら必ず検索をかけ、著名人とかぶっていないか確認しましょう。また、読者が覚えにくいような難しい漢字なども避けたほうが無難です。

 デビュー時はペンネームを変える最初で最後のチャンスです。これ以降で変えようとすると、とんでもなく大変なので、心して決めましょう。

 また、作家をしているとサインを求められることがあります。このとき画数が多いとサイン本の作成などで苦労するので、デザイン化されたものがあると便利です。
 
こちらは作ってくれる業者さんがありますので、ネットなどで検索して頼みましょう。その際は「画数すくなめで」と注文するとよいでしょう。

税金関係

 つぎに、税金関係を整えましょう。

 一冊でも発売されたなら、最低でも数十万円、ヒット作になったら数百万円は収入が上がるため、早めに対策しておきましょう。

 その際の開業届や法人化などは、専業か兼業か、あるいは家族か個人かでも変わってきますし、私も専門ではありませんのでここでは触れません。

 ですのでまずは、税理士に相談しましょう。

 はっきりいって、初年度を個人でやるのは無謀です、仮に出来たとしても絶対にどこかに穴があき、売上がはねた場合は数年後の税務調査で突っ込まれます。まずは総合的な相談にいきましょう。

 税理士はクリエイター業務に詳しい人を探しましょう。税理士も得意不得意があるもので、たとえば農村などは農業関係に強い一方で、小説家の確定申告など一度もやったことがないため、有用なテクニックを知らなかったりします。ですのでその際は「漫画家とか小説家の経験はあるか? 節税テクニックは知っているか?」と聞いてもいいでしょう。また編集者や先輩作家に詳しいところを聞くのもおすすめです。

 最近はネットで相談できるところもおおいので、税理士は近さよりも知識を優先しましょう。ちなみに自治体がやっている無料相談はピンキリなようで、助かったという人もいれば、まったく役に立たなかった人もいます。

 相談はデビューが決まった直後にまずは行きましょう。この際はセカンドオピニオンとして複数たずねるのがおすすめです。ここで今後の流れと、やるべきことを聞きましょう。

 発売から一年目は忙しくなりがちです。元の生活に加えて新作や続刊の執筆があるため、やれることは早めにやっておきましょう。

 相談が終わったら、執筆業での開業届、ネット納税申請の手続き、そのために必要なマイナンバーなどの登録、などがあります。これは自分の環境と相談次第なので、税理士に言われたとおりに進めましょう。

 そしていざ、発売されて売上が見えたら本格的な相談にいきましょう。ただし確定申告の締切は3月15日のため、相談はなるべく前の年に終わらせましょう。

 最後にいつでも出来る対策として、領収書を取っておきましょう。PCや家具はもとより、本、ゲーム、映画代、執筆に使った喫茶店代、取材の旅行代など、少しでも執筆に関係あるものは残しましょう。そのさいは経費用のクレジットカードや専用の銀行口座を一つ決めて、支払いや払込を集中させておくと便利です(銀行口座は屋号での開設も可能です。その場合はペンネームや会社名を先に作りましょう)。

 ここまでやっておくと、いずれはすべての取引をワンクリックで帳簿にし、自分で申告することもできます。

 最後に、税理士に相談したほうがいい質問をまとめておきます。

・開業届けは出すべきか(会社づとめの方は副業の扱いについて会社側にも聞きましょう)。

・形態は「執筆業」でいいのか? 屋号はなににするか?(これはペンネームを決めてからになります)

・青色申告にすべきか、白色申告か。

・保険はどうするか。小規模企業共済制度に入るべきか。文芸美術国民健康保険組合に入るべきか。

・消費税やインボイスはどうするべきか。

・平均課税はしたほうがいいか。

・売上が跳ねた場合は、法人化はするべきか。家族は社員にしていいか。自治体の支援などの利用できる優遇制度などはあるか。

・他の場所(役所や会計士など)に相談するべきことはあるか。

・家事按分は何対何になるか。

・経費、寄付、ふるさと納税はいくらまで使っていいか。

・経費はなにが落ちるのか。(意外なものも落ちるので聞いておきましょう)

・車や家はどう買えばいいか。他の収入との兼ね合い、資産の扱いはどうすればいいか。

仕事用の道具を揃える。連絡手段

 次に、仕事用の道具を揃えていきましょう。

 必須なものは連絡手段と執筆手段です。執筆手段は最低限はあると思うので、まずは連絡手段から説明します。

 ペンネームが決まったら、仕事用のメールアドレス、SNSアカウントなどを作りましょう。

 メールはフリーのものでも構いません。そのときはペンネームから推察しやすいアドレスにするといたずらのおそれもあるので、多少もじったり、いっそ全然関係ないものにしましょう。

 このとき、プライベートで使っていたものを流用するのは避けましょう。基本的に作家での活動とプライベートは分けたほうがいいです。この切り分けは早ければ早いほど楽であり、反対に何ヶ月もたってからやると、複数の関係者にアドレス変更の連絡をし、アプリの登録先を変えて……と大変な手間になります。

 最後に、SNSやウエブサイトに関してですが。これはやったほうがいいのはもちろんなのですが、自分で管理しきれないくらいなら、やらなくてもいいでしょう。

 ちなみに仕事用の電話番号は、最近は通話アプリが充実したこともあって必須ではなくなりました。

名刺を作る

 ペンネームが決まったら名刺を作りましょう。

 クリエイターにとっては、作品が名刺のようなところもあるのでそれほど重要ではありませんが、社会はまだまだ名刺文化が強いため、できれば作っておきましょう。

 名刺にはペンネームとSNSアカウント。あとは自分の判断で、メールアドレス、肩書や(小説家、イラストレーターなど)著作などを書きましょう。これらはQRコード化もしておくと便利ですね。

 住所や電話番号はなくて構いません。昔はここでしか連絡できなかったので書いていましたが、今は個人情報の扱いから考えても書かないほうが無難です。

 また名刺はビジネス用、カジュアル用と、複数種類つくって使い分けるのもいいでしょう。

道具を揃える、執筆関係

 次に、執筆に必要な道具を確認しましょう。

 作家業は独学なことが多く、デビューして数年経った人でも意外と使っていない道具があったりしますので、ここで確認しておきましょう。(参考までに入江の環境も書いておきます)。

・PC

 ハイスペックなゲーミングマシンなどは必要ではありません。最近はスマホで執筆という人も増えましたし、今後は必要なくなるかもしれません。ですが今はまだPCはあったほうがいいでしょう。その際はできればWindowsを選びましょう。DTPやデザインの現場まで行くとマッキントッシュも強いですし、他の業務もやってやれないことはないですが、現状だと作家と編集者間ではWindows機の方がやりとりしやすいです。また、将来ゲームシナリオや脚本の仕事をするときもWindows機のほうがいいです。

【入江のデスクトップパソコン:Windows、自作パソコン、

ノートパソコン:レッツノート12.4型モデル(キーボードが指にあうため)】

・キーボード

 基本的にはなんでもかまいませんが、時々「最初に付属してきた安物をずっと使っている」という人がいます。そういった方は一度PC売り場などで他のキーボードも試してみてください。

 その際はフルキーボードや数万円の高級機ばかりではなく、三千円〜程度の量販機も試してみましょう。キーボードは高ければいいということもなくて、打鍵の強さや手の大きさでも最適解が変わってきます。いっそのこといくつか買って試すのもありです。

【キーボード:ThinkPad トラックポイント キーボード IIワイヤレス(☆個人的にとても重要)】

・スマホ

 基本的には低スペックでかまいませんが、こちらをメイン機として、無線キーボードや、音声認識ソフトで執筆している場合は、ある程度の計算能力は必要です。

 それとは逆にあえて能力の低いものを使って執筆の邪魔にならないようにしている人もいます。

・椅子

 家での座り作業によるダメージは意外とおおきいものなので、なるべく良い椅子を買いましょう。

 以前は十万円クラスが最低ラインでしたが、最近は数万円から出来の良いものがあります。予算に余裕がある方は新品を買ってほしいですが、駆け出しの方は中古品もいいでしょう(例、オカムラ、ハーマンミラー、エルゴヒューマン、コクヨ)。

 その際、見落としがちな失敗として、高級椅子は巨大になりがちなので、玄関を通るか確認しましょう。とくに単身者向け住宅などでは廊下でつっかえて入らなかったりします。

 また、人によっては高級椅子の効果はあまり大きくないことも覚えておきましょう。たとえば体重が軽い人、あまり長時間作業しない人、一時間に一度かならず立ち上がってストレッチが出来る意思の強い人は効果がうすいです。

【椅子:コクヨファニチャーINSPINE、ヘッドレストなし】

・バックアップアプリ

 必ず導入しましょう。作家業はあまりデータ容量を必要としないので、最初は無料のものでも構いません。
 その際は規約違反に注意しましょう。とくに家族写真と共有していたり、イラストも保存していた場合、誤BANになる可能性があります。

・テキストエディタ

 OS付属などの低機能なソフトでなければ、好みのもので構いません。

【エディタ:TATEditor(縦書き用)、サクラエディタ(背景はダークモード)】

・ワープロアプリ

 ワードや一太郎などの編集ソフト、また、グーグルドキュメントなどは、今後出版社と作業するうえで必要になってきます。こちらも最初は無料のもので構いませんが、使用頻度が高くなってきたら有料ソフトに切り替えましょう。(これは取引先の会社と環境を揃えるためです)

【日本語変換:ATOK、グーグルIME

ワープロソフト:ワード(Office365)、一太郎】

 その他の便利なもの。

・TODOアプリ。スケジュール帳。スマートウォッチ。ノイズキャンセリングイヤホン。タブレット。加湿器。熱交換型24時間換気扇。空気清浄機。

作家側で出来ることまとめ

 ここまでが、デビュー前に作家側が出来ることになります。まとめておきましょう。

1、ペンネームを確定する。メールアドレスを設定する。

2、税理士を探す。仮相談をする。

3、仕事用のクレジットカードや銀行口座を作る。税理士におすすめされた各種申請をする(例、開業届を出す。保険、小規模企業共済制度に加入する)。

4、SNSアカウントを作る。仕事用の名刺を作る。作業環境を整える。

5、デビュー作が発売されて、売上の目処が立ったら(およそ一ヶ月ほど)目星をつけていた税理士に相談しに行く。このとき売上が跳ねた場合は法人化などをあらためて相談する。

6、年が明けたら確定申告をする。(基本的には税理士の言う通りに進めましょう)。

7、三月十五日、確定申告締め切り。

 以上です。次からは「出版社と付き合い方」編です。こちらでは打合せの仕方や考え方を書いていきます。

※最後に、本書を執筆するにあたって、作家や編集者(二十人以上)に話は聞きましたが、比較的ベテラン勢がおおかったので、現代へのアップデートが甘いかもしれません。ですので「これは内容が古い」とか「今だとここが知りたいのに……」といった御意見や疑問などありましたら、どうぞこちらの方からお聞きください。


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