映画『暗殺の森』
午前十時の映画祭で見ました。言わずと知れたベルナルド・ベルトルッチの名作です。
普通の多数派でいたいとファシズムに寄っている主人公が、恩師暗殺の任務のため新婚の妻を伴いパリに行くところから始まります。ゲイの運転手に性の相手にされそうになった際殺してしまったという彼の過去のトラウマが彼の生き方に大きな影を落としている設定ですが、性被害というよりも少年の方も同性愛に魅入られたような描写でもあり、彼の中では殺人と同様に同性愛志向も仄暗い暗部として存在しているように見えました。そういう弱く(当時の価値観では)まっとうではない自分を押し隠すように国家の任務を冷酷に遂行し適当なプチブルの女と結婚しようとする男は欺瞞に満ちた空疎な人物でした。
彼の妻と恩師の妻・二人の女は対照的です。言動にも一貫性などないように見える彼女達ですが、本来人とはそんなに筋の通ったことばかりで成りたってはいません。そのことがかえって自然であり生き生きと魅力的です。有名なレズビアン的なダンスシーンの美しさは彼女達の内面の光でもあるでしょう。
戦争が終わりファシスト党も終わりを迎えたあとの男の末路は、さらに空虚なものでした。ときには異端であることも恐れず自分らしく生きる覚悟がなければ、人生は簡単に多数派という魔物のようなブラックホールに飲み込まれてしまう。そんな暗く重い結末ではありますが、撮影の美しさは物語の暗さを覆ってあまりあり、これをシネコンの大画面で見られたのは僥倖でした。