2. 夜道を歩く
月下、帰宅する為に今先程離れたはずの場所へ向かって
彼と一緒に歩き出す。
"コンビニはターミナルの中だけ。外には何もないんだよ。歩いた先に何も無いなんて事に気づいたら辛すぎると思って、声をかけたんだ。ところで日本へはどうして?”
”空海って知ってる?弘法大師。”
観光というありきたりな答えを予想していた私は、意表をつかれた。
”うん、知っているよ”
”彼は真言宗の開祖で、僕は四国に歩きお遍路に来たんだ” と彼は言う。さらに続けてお遍路について色々話してくれたが、恐らく並の日本人よりも知っている。予想外の知識量と滞在目的に私は、この時単純に、お主なかなかやりおるな(凄いな)と思ったのである。
少し前、お寺めぐりが好きな母と四国お遍路のドキュメンタリーか何かを見たことがあった私は、空海が真言宗の開祖であること、歩きお遍路という巡礼があるということを知っていた。そこで、うちも同じ真言宗であること、母が仏像好きで、お遍路に興味があるということを彼に話したのである。
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それにしても ’この時間、何故こんな所で' という疑問が拭いきれなかった私は、彼に尋ねる事にした。
すると彼は、”今夜は空港泊をし、明日大阪行きの飛行機に搭乗する予定。実はそれで..野宿できる所を探していたんだ。”と言うではないか。
セキュリティーが万全の空港という場所で ’Nojyuku’ という言葉を耳にした衝撃と言ったらなんの。マジか!と思った。今思い返せば、空港の敷地外に出て野宿できる所、そして空腹を満たす為のコンビニを探していたのではと考察することができる。加えて彼は、野宿ありの歩きお遍路へと遥々やってきた強者でもあることを忘れてはいけない。流石に空港敷地内での野営はマズイだろうと考えた私は、”ターミナル内一部が夜通し開放されていて、一夜を過ごせるよ。” と教えてあげたのである。
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そんなこんな会話をしていた私達は、ターミナルに到着した。
コンビニの場所を口頭で説明すると、彼は ”どうもありがとう。お礼にご飯かなにか.." と続ける。飲食店は全てこの時間は閉まって居ることを伝えると、少し残念そうな顔をする彼がいた。無言の時が数秒流れ.. 何を思ったのか、考えたのか? ポンッ!と閃いた私は、彼にこう提案してのけたのである。
”うちに泊まる? 明日出勤時に空港に送ってあげられるし。”
自分でも驚愕である。数十分前に知り合った見ず知らずの彼に対して、どうしたら、どこから、その言葉が出てきたのか今でもよく分からない。
この数秒間の私の思考回路がどうなっていたかというと...
母が英語を独学していること + 四国お遍路に興味関心があるということ..
=1日ホームステイとか面白そう!
という具合な計算式が出来上がっていたのである。
”もしもしお母さん、かくかくしかじかなんだけど良いかな?”
”普通の人なんでしょ?なんも食べる物無いけど良いよ。”と了承した母も母。なかなかのオープンマインドではないか。
母の了承を得た私達は、せっかく今歩いてきた道を辿るように戻り車にて帰宅。
つづく..