見出し画像

「聴く」をめぐる冒険③~コーチングを仕事にする~

リストラ宣告


外資系の生命保険会社に経理として11年勤めた。

2008年9月に入社して一週間後にリーマンショックが起き、当時のアメリカの親会社は大打撃を受け、別のアメリカの保険会社に僕が勤める日本の子会社を売った。

社内の人間関係は徐々に希薄になっていき、人の入れ替わりが激しくなり、コミュニケーションは冷めていった。

そんな状況の中で、僕の所属していたチームは、朝礼の交代制のスピーチで自主的に自己開示しあったり、お互いのスキルをシェアしあう場をつくったり、外資系らしくない定期的な飲み会を開いたりして、その希薄な状態から少しずつ関係性が出来てきて、入社以来、一番居心地の良いチームになっていった。

そんなある日、チームの飲み会の締めでボスが言った。

「僕のキャリアの中で、このチームが最高です。」

社内きってのエリートで、普段は冷静で心の内をみせないボスの言葉に、僕は身体が震えるような喜びを覚えた。

普段は人は褒めないボスに褒めてもらった、もあるが、それ以上に感じたのは、日米と様々な優秀な人たちのマネジメント経験のあるそのボスに、個人の能力の優劣ではなく、チームの関係性を認めてもらった、という喜びだったと思う。

その数週間後、仕事中にボスが見たこともないくらい憔悴した表情で僕たちの元にきて、「困った。」とつぶやいた。

さらに数週間後、百数十名いた東京の経理チームは一部のマネジメント層を除いて解散し、段階的に他のアジアの国に業務をアウトソーシングしていく決定が本社から告げられた。

事実上のリストラ宣告だ。

コーチングを学び始めて半年ほど経っていた僕は「コーチングを仕事にできたらなあ」と思いつつ、一歩を踏み出せないでいたので、「早期退職金も出るしラッキー」という気持ちで、コーチングを仕事にするための転職活動に突き進んだが、当然、僕以外の人たちはそう思ってはおらず、その後の敗戦国のような会社の雰囲気は今も思い出せる。

そして、この文章を書いていて、皆でつくりあげてきたチームの関係性が壊された。という思いは、まだ、消化しきれていないなあ、と思う。

いや、違うな。

それよりも、結末は同じだったとしても、あの時、あの場所でもっとより良く生きる試行錯誤や協力をすることはできたと思う。

でも、上下関係や思い込みからくる忖度、制約などで僕は最初から全力で関わることを諦めていたところがある。

満員電車に不機嫌になりながらも疑問なく乗るように、我慢を我慢でないと感じるくらいは・・。

その負い目を超えていく行動を今後、他の場所でとれるだろうか。

消化しきれていないのはその辺りだと思う。

変な転職活動


転職活動をはじめたのは、2019年の1月からで、コーチング養成機関の資格取得のための上級コースも始まっていた。

転職活動中、「コーチングを仕事にする。」を目標にした。

そして、色々な場所に行く中で、自分の中での決め事は、コーチングを掲げていない会社に対しても「コーチングを仕事にしたいです。」と伝えることだった。

最初の頃は思いだけが空回りしていたが、やがて興味のある会社のホームページにメッセージを送ったらその会社の社長からメールを頂いて会うことになったり、

最終の社長面接でコーチングを仕事にしたいことを伝えたら、「今はやってないけど僕も興味ある。」といってもらって内定がでたり、懐の深い人や興味、志向のあう人は意外といるもんなんだなあ、言ってみるもんだなあ、という嬉しい驚きがあった。

最終的には、コーチング系の会社と、介護系の会社で迷うことになった。

インドの瞑想修行


転職先の決断に迷っている時にコーチングの学びの仲間に誘ってもらって、2019年7/20〜7/28まで、コーチ&経営者を中心としたインド瞑想修行にいってきた。

宿泊施設内にセミナールームのような広い部屋がいくつもあり、朝から晩まで瞑想やインドの知恵の講義や、お互いの体験の共有などをやった。

基本的には、日本からの参加者だけで修行していたのだが、これが僕には苦痛だった。周りの優秀なコーチや経営者たちが、瞑想を通じて次々と奇跡的な体験をしたり、素晴らしい気付きが生まれたりしている。僕には何も起こらず、焦りと劣等感が溜まっていった。

そんな時、1日だけ世界中からの参加者が集まる場所にいった。

数百名入るホールのような大きな広いスペースには、インド、中国、欧米などほんとに様々な人種が集まっており、開始と同時にインドの民族音楽のような音楽が流れると、僕は仰天した。

それぞれの反応が全然違うのだ。

泣き叫ぶ人、走り回る人、笑い転げる人、輪になって踊る人たち、まさにカオスだった。

そして、何故か僕はそこで安心を感じていた。

こんなにも色んな人がいるのだったら、僕が何をしても何を考えていても、居ていいんだ。という感覚だ。

そして、その多様性の中にいる日本人の集団は、大人しく、礼儀正しい統一感を醸し出しているようにみえて、不思議とその雰囲気も好ましかった。

インドから帰国して、介護系の会社に行くことに決めた。

コーチングに興味をもってもらった社長に働きかけて介護業界にコーチングを広めるため、という理由もあったが、それよりもあったのは、言語化できない直感のワクワクだった。

理由はうまく説明できない。それでいいと思う。


いいなと思ったら応援しよう!