令和4年度弁理士試験短答式筆記試験において、商標法の問題の中で特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示(GI: Geographical Indication)法、以下「GI法」)に関連した問題が出題されました。「地理的表示」は令和4年4月1日の弁理士法改正において、「植物の新品種」及び「地理的表示」に関する業務が弁理士法第4条第3項に追加され、弁理士の名をもって行うことができる業務(いわゆる「標榜業務」)として明確に規定されることになりました。
1. GI法とは
GI法は日本では平成26年に成立した比較的新しい法律です。農林水産省により所管されています。第一条の法目的には以下の通り規定されています。
「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定附属書一Cの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」はいわゆるTRIPS協定です。TRIPS協定には第三節 地理的表示において、第二十二条 地理的表示の保護、二十三条 ぶどう酒及び蒸留酒の地理的表示の追加的保護が規定されています。
地理的表示の特徴としては以下の4つが挙げられます。
①品質基準に登録要件があること
②登録された産品はGIマークを付すことが可能
③不正使用は行政が取り締まる
④既登録団体への加入、生産者団体の構成員になれば使用可能
2. 弁理士試験の設問について
(1)商標法3(ニ)
設問に出てくるGI法の条文は以下の通りです。
設問に出てくるGI法の条文をみると、以下のように置き換えて読むことができます。
生産者団体が特定農林水産物等について農林水産大臣の登録を受けた地理的表示は、地域団体商標として登録を受けることができる場合がある。
正解は〇です。
地理的表示が登録されていても、登録された地理的表示と同一の標章について地域団体商標として登録を受けることができます。ただし、商標法第26条第3項の規定により、地理的表示を使用する行為には商標権の効力が及びません。
(2)商標法5(ハ)
これも読み替えると以下の通りです。
商標権の効力は、生産者団体が特定農林水産物等について農林水産大臣の登録を受けた地理的表示を付する行為に及ぶ場合がある。
正解は〇です。
商標法第26条第3項第1号で、地理的表示を付する行為には商標権の効力は及ばないんじゃなかったっけ?と思うかも知れませんが、第26条第3項には但書があります。
「ただし、その行為が不正競争の目的でされない場合に限る。」
つまり、不正競争の目的で地理的表示を付する行為には商標権の効力は及ぶことになるのです。
結局のところ、商標法3は地域団体商標に関する問題、商標法5は商標権の効力に関する問題であり、地理的表示法を知らなくても商標法の知識で回答できるわけですが、受験生にとっては守備範囲外の問題が出題されたと思って少なからず動揺してしまった方もいたのではないでしょうか。
3. 地理的表示と地域団体商標の違い
地理的表示制度と地域団体商標制度は上の図で整理されています。
地理的表示制度は農林水産省の管轄なので農林水産物が対象ですが、地域団体商標は全ての商品・サービスが対象なので、例えば「今治タオル(第5060813号)」は地域団体商標として登録はできても地理的表示の登録はできません。「夕張メロン(登録1379023等)」は地理的表示と地域団体商標の両面から保護されます。
地理的表示は他人の先行商標があった場合は登録が拒否されますが(地理的表示法第13条第1項第4号ロ)、商標法では他人の地理的表示があっても拒絶理由にはなりません。ただし、他人の先登録の地理的表示には商標権の効力は及ばない旨の規定があります(商標法第26条第3項)。
4. GI法と弁理士法
令和4年4月1日改正の弁理士法では、地理的表示について以下のように規定されています。
要するに弁理士が対応できるのは以下の2つです。
① 地理的表示に関する権利に関する手続きに関する資料の作成その他の事務
② 地理的表示の保護に関する相談
弁理士が地理的表示に関する業務を行うことができることを明文化した理由は改正の解説書に以下の通り記載がありました。
5. おわりに
地理的表示は弁理士の標榜業務になったものの、令和4年3月31日時点で119産品しか登録されておりません。地理的表示の登録要件である伝統性は一定期間継続して生産されている必要があるとのことですが、その一定期間とは25年以上らしいので地域団体商標の周知性とは違ったハードルの高さがあります。そのため、今後も地理的表示の登録がされる産品が激増することも考えにくく、弁理士が相談を受ける機会も少ないのではないかと思います。
それでも弁理士法に標榜業務として明文の規定がある以上、地理的表示制度の基礎的な理解と、地理的表示と地域団体商標の違いは理解しておくべきです。
弁理士法人シアラシア
代表弁理士 嵐田亮
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