★それぞれが確かめ、求め。⑤ー1
ここにいるのは黒い私じゃない。
そう思うのは黒い私じゃない。まだ灰色に染まらないだけまし。矛盾する相反する私は私。
全てが私。無数の雑音や黒いもやが混ざっていても、肉体は一つ。
そう思う心に、「スタート」という、かっこいい言葉を現実は与えてくれない。それはわかる。
でも、子どもの私に何が出来るんだろう。
なんで、大人の遊び?駆け引き?約束?第一歩?努力?日常?<:「」?にはこんなにも関われないの?娘なのに。親のこと、なんでこんなにも声を出しづらいの?逆の立場で、私が不倫したら、絶対怒るくせに。子どもの私はただ見てるだけ?大人になるまで、親の金で作られた箱庭に閉じ込められたまま。家族としては当たり前なのに、箱庭は時として弱み・弱点になる。
勝手に決められるなんて嫌だ。確かめてやる。
無理に強がってないし、今の私、かっこいい、バカ野郎!とは思わない。
ただ、自分を責めないように必死にこらえてる。
指に勇気なんていらない。私はメールを送った。
家での私は女優。いや、空っぽな人形か。それとも、ぐちゃぐちゃな顔無しの肉体か。親にどんな顔をして、どんな表情だったか忘れた。でも、相変わらず、いつ決まるのかわからない毎日の平和の訪れに、ビクビクはしていた。約束の日までがとにかく待ち遠しくて、時の流れを遅く感じてイライラしていたのは覚えてる。
「あ、お待たせ~」
小野寺学が私に軽く手を振って近づいて来る。私も、それに合わせて軽く右手をあげた。挨拶代わりに。
その様子に男は驚いていた。そりゃそうだ。今まで無視だったから。
「涼しくなってきたね~。最近さ、一気に気温変わったよね?夜なんて少し寒いもん」
はは。っと男は笑いながら、二人でなんとなく、あてもなく歩き出した。
「今日はどっかの喫茶店でも入る?話したいってメールで書いてあったからさ」
途端に言いたいことをぐっと飲みこんだ。――いや、言わないでどうする!早く返事しないと。行きたいのは喫茶店じゃないでしょ?頑張れ私。
男は少しの沈黙に戸惑っていたと思う。顔見てないからわからないけど。話したいことがあるって、不倫相手の娘に言われて、その娘がいつもと様子が違ったら、戸惑うだろう。多分。
――確かめるって怖い。あの時の自分はどうした。頑張れ。
「また、クレープにする?」
男は絶対気を使って声かけた。やめてよ。そういう気遣い。悪者でいてくれたら、どんだけよかったか。まだ矛盾する心がケンカしてる。
「どうしたの…?」
男が歩くのをやめた。私も止まった。
頑張れ。頑張れ。確かめるんだ。確かめるんだ。
「今日は、あん、たの家に、行きたい」
「え?何?」
って、聞こえてなかったのか!!こっちは一生懸命言ったのに!なんだよって思いから気持ちが高ぶった。
「だから!今日はあんたの家に行くの!」
男の目を見て真剣に言った。
「……」
男は一瞬状況を呑み込めずにいた。
「え、ええええええ!?」
ものすごく男は驚いた。「え、何?」って目で、行きかう人たちが私たちを通り過ぎていった。気まず。
でも、ま、そりゃ、驚くよね。
「え、家!?俺の?え、いや、その…」
「何よ。マズイことでもあるの?」
「いや、ないけど!え、いや、えっ。あ、え…」
男はすごい挙動不審。大丈夫。断られたら「お父さん」を使えばいい。
「別にいいじゃん。連れてってよ」
「え…まぁ、い、良いけど…」
――え!?いいの!?もう少し粘りなよ!今度は思わず私が驚いた。絶対断ると思っていたから。
「でも、何もないよ?ゲームもないし、漫画もないし…」
「別にいいよ。家が見たいだけ」
「あーそういうこと?良いけど、やっぱり特に何もないよ??」
そういうことって、あんたが分かる訳ないでしょ!ほんと、突っ込みどころ多い男だな。
すごいドキドキする。なんだか悪いことをしてるような気分。でも、ここまで来たら戻れないし、戻っちゃダメ。
「だから、別にいいって」
「う~ん。じゃあ行こう…か?」
「うん。決定。早く行こ」
道中、男は「本当に何もないよ?」「つまんないよ?」を繰り返し話してきた。もう聞き飽きたから。あと、近所に何屋がある話とか、近くの観光スポットとか、色々話してきた。
アピールしたり、何もないとか矛盾言ったり、正直、興味ない。そんなことどうでもいい。
男は二階建てのアパートに住んでいた。見た目は少し汚い。でも、そこまでボロくはなさそう?
私たちが待ち合わせした駅から、1時間ぐらいで来れた。
「本当にコンビニとか寄らなくていいの?飲み物とか、お菓子とかさ」
家の前に来ても尚言うか。そういうのやめてよ。でも、嫌じゃない自分もいる。
「いいって」
ずっと、どんどん加速していた心臓が、今にも爆発しそうだ。緊張する。汚くて、臭かったら嫌だな…。
二階にあがり、男は角部屋から離れた部屋の鍵を開けた。
ギィィっとドアが開く音がする。まるで、どこでもドアを開けて別世界に来たかのような、ドアの先には何があるんだろうって、不思議で、でもドキドキとした気持ち。
第一印象。
「狭っ!!!!!」
思わず言葉が出た。え、こんなに狭い部屋に、人って住めるの!?
「はは、一人暮らしなんてこんなもんだよ」
男は笑う。色々見る予定だったのに、見るとこ全然ないじゃん!!みんなこんな狭い部屋に住んでるの!?
「娘ちゃんも一人暮らしってなったら、気持ちわかると思うよ~」
絶対嫌だ!こんな狭い部屋!
「この辺に座って。クッションとかないけど(笑)」
男は折り畳み式のテーブルを組み立て、床に広げる。机を広げると余計狭くなる…。真後ろが壁だ。って、椅子はないの?人の家って初めて来たから、自分の家との違いに困る…。
「麦茶出すね。ちょっと待ってて」
男は冷蔵庫を開ける…けど、え、どこがキッチンなの?そこって、廊下じゃないの?
「あれ、氷少なかった。作っとくか~」
男は平然として、テキパキと動く。私だったら、こんな部屋恥ずかしくて人を呼べない。
でも、みんなこういうところに住んでるのかな。そういうもんなのかな。
周りをキョロキョロと見渡す。とりあえず、部屋は汚くはないね。匂いも臭くないし。ちゃんと掃除はしてるんだなってわかった。
「はい。どーぞ」
「部屋、ちゃんと掃除してるんだ?」
男も座った。私の真ん前に。
「休みの日にパパっとね。狭い部屋だから、掃除もすぐ終わるんだよ(笑)」
言い終えて、ハハって笑う。
なんかつまんない。せっかく来たのに…。
「で、どこにエロ本あるの?」
「ぶっ!がはっ!え!!?」
麦茶を飲んでいる最中だったみたいで、気管に入ったらしい。少し申し訳なく感じた…。謝らないけど。
「ほら、男といえばエロ本じゃない?」
まだむせている。結論どっちでもいいんだけど、なんか情報が欲しくて。
「ごほっ。そりゃ、そうかもだけどっ」
「で?あるの?」
なんでか私自身引けなくなった。むせないで、「ない!」って言ってくれれば、私も終わりに出来たのに。
「え、そ、それは…そ、その」
「え!あるの!?」
マヂか!本当にあるんだ!男の人って、そういうの読むんだ!なんだか、友達より先に大人になった気分。…ん?てかさ、
「いや、普通あっても否定しない!?」
思わず突っ込んだ。
「だって、あまりにも急だったし、追及してくるしっ」
「正直者か…」
ちょっと引いた。なんか、本当に自分の意思ってものがあるの?嘘つけないし、押されやすいし。頼りないな…。
「あ、見せないからね!どこにあるかも教えないし、探しちゃだめだよ!」
全然見たいと思わないわ。あんたの好みなんか知りたくないし。でも、友達と話してる時は、見てみたいって気持ちがあったけどな~。実際見れるってなると、抵抗感がある。
「他にも隠してるのあるんじゃないの?」
なんか面白くなってきた。
「ないない!ない!ないです!」
男が必死に抵抗する。恥ずかしがりながら。なんだか面白い。
「ほ、ほら、娘ちゃん、麦茶でも飲んで飲んで!」
「はいはい」
他人の家のコップか。ちょっと気になるけど、ま、いっか。私の大人しくなった姿に、男はほっとしていた。でも、まだ警戒してそう。
「ね、あそこのドアは?」
「ん?あそこはトイレとお風呂だよ」
「見たい!」
私は男の返事も待たずに、ドアの方に行った。ワクワクする。
第一印象。
「普通…」
白いトイレと白いお風呂。掃除もしてあるし。それと、一人暮らしって、トイレとお風呂が一緒にあるもんなんだ?なんか初めてのことを沢山学んだ気分。
「そりゃそうだよ。何もないよって言ったじゃん(笑)」
気づいたら男が私の真後ろにいた。背が大きくて、体が大きくてドキッとした。――怖い。って一瞬思った。
急いでドアを閉める。男はスタスタと席に戻った。席なんてないけど。男が先に戻ってくれたことに、ほっとした自分がいた。
私が座ったのと同時に、
「あ!そうだ~」
男が立ちあがった。嬉しそうな顔で。
「お菓子ないから、どうしようかなって思ってたんだけど、簡単なの作るよ!ちょっと待ってて♪」
って言って廊下のキッチンに立った。あれ、キッチンなんてあったっけ?
楽しそうに作る男。無防備なんだよな。この間に私が色々探すとか考えないのかな。ま、廊下から私の姿は、横目で見れるだろうから、私が立ったらバレるけどさ。
――一人の時間になった。ふと、男が後ろに立った時の光景を思い出した。立派な男だと実感した。怒らせれれば、絶対勝ち目はない。しばらく忘れられないだろうな。
こいつも、怒るのかな?今の私は「娘候補」だから、怒らないのかな? 私、結構失礼なこと言ってるし、してると思う。確かめたいって気持ちがあってのことだけど、今思うと、こいつの立場と優しさがあるから出来ることなんだよね。
私、何してんだろう…。何をしたいんだろう。
「あのさ」
料理中の男に声をかける。
「ん~?どうしたの?」
優しい表情。本物か嘘か。確かめたい。でも、嘘なら…。
「…怒らないの?」
「え、誰に?」
なんで、こいつはいちいち説明しないとわかんないのかな…。本物なのかな…。
「私とか、友達とか」
守りに入りたくて、とっさに友達を候補に入れた。
「どうだろ?怒られることはあるけど、俺が怒ることはそんなにないかな~?」
男は話しながらも手際よく料理をしている。
「一度もないの?」
「それはさすがにないよ(笑)ん~自分じゃわかんないな~。あ、そうだな、怒っても怒鳴ったりとかはしないかな。でも、う~ん、そんなに怒らないかも。その前に落ち込むかな(笑)」
「そう…」
この男の本性がわからない。本当に、裏表ないんだろうな。多分。
「出来た~」
男が嬉しそうに料理を持ってきた。いい匂いがしてたのはわかってた。
「簡単だけど、食べよう」
「ポテトフライ?」
にしては、べちょっとしてるような…?
「ううん。レンジでチンして、フライパンでバター醤油で焼いたの。ちゃちゃっとやったから、水分飛びきってないかも(笑)」
自信たっぷりの顔。私は、コンビニでもらった割り箸を渡され、じゃがバターを食べてみた。
「どうどう?」
「…美味しい」
ボソッと呟いた。ハッキリとは言いたくない。こいつ、料理出来るのかな。
「よかった~。俺も食べる~」
って、狭い部屋で、おじさんと子どもが何をしているんだろうか。美味しいなんて言ってる場合じゃないだろう。私。
「あの、さ」
声が少し変になった。恥ずかしい。
「ん?」
ドキドキする。料理なんか作り出すから思わず忘れてた。胸が苦しい。でも、こいつの呑気さが逆に助かる。なんで、私だけがこんなに緊張しないといけないんだよ!って気持ちが背中を押してくれる。
「面接します!」
思い切って、大声を出した。隣の部屋に聞こえたかどうかなんて関係な。い
「へ!?」
「わ、私の父親になりたいんでしょ!?だから、面接!」
そう、今日のメインはこの話がしたかったんだ。子どもの私でも、なんとなくだけど、これからも何度も男と会えるとは思ってない。
だから、これが最後。今日に全てをぶつける。確かめたい。
「だから、アピールして!」
男を見る。全力で。逃さないかのように。
でも、なのに、
「ん…と」
男が目をそらす。
――っあ、、。
私の中の何かが何かを感じた。ずっと見ていてくれたのに。
心臓がバクバクする。お父さんの時と同じくらい。言っちゃいけなったのかな…?わかんない。早く何か言って!
「…逆に俺からも聞きたいよ」
何を!?バクバクがとまらない。手が震える。怖い。男はずっと下を向いたまま。何を考えてるのかわからない。怖い。
目と目が合った。
「俺が父親になってもいいの?」
男はそう質問してきた。
―続く―
(あとがき)
更新頻度遅くてすみません。構図はすでに完成しています。
今回は長くなりそうだったので前編、後編に分けました。
予定ではあと、2~3回投稿で終わります。
ぐだぐだ投稿ですが、今後もよろしくお願いします。
至らない点が多々ある私ですが、よろしければサポートよろしくお願いいたします。 収益は全て大事に貯金します!