![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80996555/rectangle_large_type_2_e42cd335241103191d98ba5d8c88bb73.png?width=1200)
小3娘とお寺の和尚さんに会いに行った話
「今日、和尚さんところ行ってきた~!五目並べしてん」
ある日、娘が帰宅して、そう言った。
「え……?和尚さん?何?誰?」
話を聞いたところ、近くにお寺があるのだが、そこにお邪魔してお茶を出してもらったとのこと。近所に住んでいる、同じクラスの男子が小さい頃から通っていて、その子と一緒に行った、みたいなことを話してくれた。遊びに行くと招き入れてくれて、近所の子たちはちょこちょこ行っているそう。
「それ、ほんまに、お邪魔させてもらって大丈夫なん?」
「うん!良いんやで!いつでもどうぞ~って言ってた」
「そうなんや……。ありがたいけど、良いんかね……」
地域に対して開けてくれてるんやなぁ、この令和の時代に珍しい話やな……和尚さん……。そんな風にぼんやり考えながら、娘の話を聞いていた。
**********
また後日。
「今日も和尚さんところ、みんなで行ってきた!お茶とお菓子出してもらった~!」
帰宅後、娘はそう伝えてきた。
「また!?しかもお菓子まで!……それはちょっと1回挨拶行かなあかんな」
「みんな行ってるし大丈夫やで~」
娘は大丈夫と強調しているが、そうはいかない。お邪魔させてもらって、お菓子まで出してもらっているのであれば、きちんと挨拶をしなくては。
私はちょっとしたお菓子を購入し、挨拶の準備をした。
「今度、和尚さんのところに行く時は、お母さんもついていくから教えてよ!」
娘が和尚さんのところへ行く日を待つ。
**********
♪ピンポーン
土曜日に家のチャイムが鳴る。
「は~い」
「〇〇〇(娘)いる~!?和尚さんのところ行こ~!」
出た!和尚さん!
娘のクラスメイトの男子が誘いに来たのだ。
「〇〇〇!和尚さんのとこ行くらしいで!」
そう言って私もお菓子を握りしめ、一緒に行く気満々でスタンバイ。
「〇〇〇のお母さんも行くん~?」
「せやで。挨拶しようと思って!一緒に行かせて~!」
「そうなんや。いこ~!」
小3男子はまだまだ素直で可愛い。一人は「ダンゴ虫も探したい……」なんて言いながら一緒に歩いている。気づけば6人くらいで連れだって、和尚さんのところへ向かう。
緑に囲まれた門を開けて、細道を歩く。埋められた石の上を、とんとんっと全員が飛び越えて、弾むように進んでいく。
すると、戸が閉まった入口が見えてきた。
「あ~今日はおらんなぁ」
閉まっている入口を見て一人の男子が言う。
「あそこ閉まってたらおらんねん」
「そうなんや」
「和尚さ~ん!」
「和尚さ~ん!!」
「和尚さ~ん!!!」
全力で叫ぶ子どもたち。戸の前で寝ていた猫が逃げていく。
「おうおう。自分らめっちゃ呼ぶやん……」
思わず笑ってしまう。
大声の呼びかけむなしく、その日は和尚さんは不在だった。残念。子どもたちはそのままダンゴ虫を探し、一人が持参した紙コップに集め始めている。また後日リベンジやな、なんて言いながら家路につく。
**********
次のチャンスは放課後にやってきた。
ちょうど在宅仕事を終えた頃に、娘が帰宅。宿題をしているうちに
♪ピンポーン
娘のお友達がやってきた。
「お、今日は和尚さんのところ、行かへんの!?」
娘がお友達に「和尚さんのところ、行く?」と聞いている。
「う~ん。ちょっといこか!」という声が聞こえたので、お菓子を握りしめついていく。「1回挨拶だけさせてもらいたいねん」なんて言いながら。
クラスメイトの男子が「仏の顔も3度までって言葉知ってる?」という出だしで、和尚さんが小5男子に怒ったみたいな話をしていて、笑ってしまう。小学生男子って本当におもしろい。可愛い。たまらん。
門を開けて細道を抜けていく。
「和尚さ~ん!」
その日は入口が開いていた。これは、いてはるんちゃう?
「は~い」
中から小さく声が聞こえてきた。
「あ!なんか今声聞こえたで!和尚さんいてはるんちゃうかな?」
一人テンションを上げる母親(私)。子どもにしか見えないトトロに会えるような、そんな気持ちになり胸が高鳴る(失礼)。
「和尚さ~ん!!!」
「は~い」
和尚さんが出てこられた。ついにご対面である。
「こんにちは~!初めまして。この子の母親です。何度かお邪魔させていただき、お世話になっているみたいで……。ありがとうございます」
「いえいえ、全然、大したことはしてないんです。いつも、お絵描きをしたり、五目並べをしたりで……。私がいる時は、いつでも入ってよいよ~と言うてるんです」
和尚さんは柔和な表情で、突然やってきた私にも優しくお話してくださる。
「地域でこういう風に見守ってくださる大人がいるって本当に素敵だなぁと思います」と伝えると、
「いえいえ、私も村に育ててもらったので、そのお返しです」
そうおっしゃっていただけて、「ああ、なんか良いなぁ」とじーんとした。和尚さんは恩送りをされているんだな。
何かと余裕がない社会で、地域で子どもを育てるなんて風潮はもうないものだと思っていた。子どもが悪いことをしているのを見かけたら、その子に直接注意するのではなく、学校に電話が入るようなクレーム社会。核家族化が進み、子どもが接する大人の数も少なくなっており、子育てが“孤育て”になってしまう人も多いのではないだろうか。
しかし、恩送りの気持ちで、子どもを見守ってくれている人もいるということを知った。温かい眼差し。心がゆるんでいく。
どんな大人も小さい子ども時代があって、一人で大きくなった人なんていない。
隣で蚊を避けながら、グルグル回転する娘とお友達を見て「あ~刺されちゃうよ~」と微笑む和尚さん。感謝ともにお菓子をお渡しして、その場を後にした。
きちんと、挨拶ができて良かったな。
公園で遊んで、たまに和尚さんのところへお邪魔させてもらって。そんな時間を過ごす娘が微笑ましくて、少し羨ましい。
子どもたちと一緒に夕暮れの道を歩きながら、この経験は心に残っていくんだろうなぁと感じていた。そして、受けた恩をまた誰かに返せるような人に、育ってくれたら嬉しいし、私自身もそうありたい。まだまだ未熟なもんで精進したい。
子どもたちが温かい眼差しの中で、のびのび成長していける社会であるために。まずは自分自身が和尚さんの言葉を忘れずに、歳を重ねていこう。そんなことを考えさせられた出来事だった。