探していた本に辿り着く
ここ数年、たまに思い出しては「また読みたい」と思っていた本がありました。
それは私が中学生か高校生の時に読んだ文庫本で、母の所有物でした。
ただ、作者の名前も本のタイトルも表紙すら思い出せない。
覚えているのは短編集であることと、その中に「主人公である女性は結婚していて子供がいる。子供を着飾るのが好きで、周りからは家庭的な良い母親だと思われている。ある日旦那が浮気相手との間にできた子供を連れて帰ってくる。その子供の外見が整っていたため、実子よりずっと着せ替えのしがいがある!嬉しい!と思う」というストーリーが収録されていた、ということのみ。
キーワードで検索しても「サレ妻がどうのこうの」みたいな漫画が引っかかるばかりでそれらしい小説はでてきません。
そのころ本棚にあった母の本で記憶にあるものといえば、さくらももこのエッセイとか、内田春菊の小説。でもそのどちらかの短編集というわけでもない。
いよいよ詰みかと思っていた時に見つけたのが「あやふや文庫」というXのアカウントでした。
そのアカウントは月に一度、本や漫画に関するあやふやな情報を募集し、その内容をポストしてくれます。そのポストを見た人の中から思い当たる作品がある人はリプライで教えてね、というシステムです。
あやふや文庫には6万人のフォロワーがいて、ポストはリポストされればさらに広がっていきます。多くの人の目に触れれば知っている人にあたる確率も上がる。数百人しかフォロワーがいない自分のアカウントでポストするより、見つかる可能性はぐっと高くなります。
私はそのアカウントをフォローし、5月の依頼開始をカレンダーに登録して、メモ帳に依頼内容を用意して待ちました。
そしてDMを送り、あやふや文庫のアカウントに内容が掲載され、ものの40分程度でリプライがつきました。
「うろ覚えですが、犬丸りん『おかたづけ天女』に、似たような作品が収録されていたかと思います。」
おかたづけ天女で検索し、犬丸りんさんの可愛らしいタッチで天女が描かれている表紙を見た瞬間「これだ!」と思いました。犬丸りんさんはおじゃる丸の原案の人で、こんな可愛い表紙なのに中身は結構大人な小説で……と記憶がぶわっとよみがえってきました。絶版だったので図書館で取り寄せて読みました。私の記憶に残っていたのはその中の「きせかえ順子」というお話でした。
『おかたづけ天女』には21編の作品が収録されています。面白いのは他のお話はほとんど覚えていなかったということです。出だしを読んで「あ」と思う物もあるにはありましたが、オチがどうなるのかは覚えていない。なんなら全くの初見かと思うくらい記憶にない話もある。
今読み返すとどれも面白いのに、なぜ「きせかえ順子」だけが強烈に残っているのか。分かりませんが、二十年ぶりに改めて読んでもやっぱりこの話が一番好きでした。
順子さんはルッキズムに囚われたヤバイ母親かもしれませんが、でも、いや、分かるよ……と思ってしまうのです。
同じ内容を自分のブログでも公開しています。