いろはほのかにかおる ~穂編~
なんでこんなことになったんだ?
穂(みのる)は飛行機の窓から雲を眺めながら思った。
県外に就職して初めての帰省。大学生の弟の薫に車で空港まで迎えに来てもらって、そのまま実家に帰るつもりだった。いや、まさしく帰る途中だ。だが今乗っている飛行機は、縁もゆかりもない県に向かっているのである。
もちろん羽田で乗り込むずっと以前にミスには気づいていた。便を変更するチャンスは何度もあったが、まぁなんとかなるかと、そのまま乗り込んだのだった。
薫には申し訳ないが、県をまたいで迎えに来てもらうしかない。まだ何も連絡していないけれど、あいつはおれに従順だから、断らないだろう。
はたしてY空港に到着し、荷物を受け取り、おもむろに薫に電話をかける。
事情を話すと、少し間があいて「兄ちゃん、おれもうF空港に向かってるんだけど」と悲痛な声が返ってきた。
「おれ別に今日何の予定もないし。何時間でも待てる」
「や、ごめん、おれこの後用事があって・・・。ごめん、兄ちゃん」
ごめん、と最後にもう一声聞こえた後で電話が切れた。
ちぇっ。
時計を見ると12時をとうに過ぎている。腹が減った。とりあえず空港の中で昼飯を食べて、話はそれからだ。
穂は空港の外を眺めたが、近くには何もないようだった。
何もないわけない。スマホを手に取り、「Y空港 観光」で調べると公園や遊園地が出てきた。
いいね、いいね。
おれのいいところはこうやって引きずらないところ。切り替えが早いところ。仕事にも活かされてると思うよ、存分に。
一度きりの人生なんだからさ、楽しまなくちゃ。泣きながらでも笑おうぜ。
穂はそういくつもない空港内のレストランを見てまわり、海鮮の美味しそうな店に入った。
おわり