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教室で生まれたゲームが60億ドルのビジネスへ:オレゴン・トレイルの成功物語

ビデオゲームの歴史において、『オレゴン・トレイル』ほど象徴的なタイトルは珍しいです。もともとは教育用ツールとして設計されたこのゲームは、ある世代の学生に多大なる影響を与え、Appleコンピュータの普及を後押しし、最終的には60億ドル(当時レートで約6,600億円)規模のIPOへとつながりました。
しかし、このゲームは利益を目的として作られたわけではありませんでした。ただ、「学びを楽しくすること」が目的だったのです。では、偶然生まれたこのゲームが、どのように世界的な伝説へと成長したのでしょう。

1. 教師のひらめきから生まれたゲーム(1971年)

『オレゴン・トレイル』の起源は、1971年に遡ります。当時21歳だったドン・ラウィッチ氏は、アメリカ・ミネソタ州の学校で歴史の授業を担当する教育実習生で、生徒たちがいかに退屈せずに歴史を学べる方法を模索していました。そこで、19世紀にアメリカ西部へ移住した開拓者たちの過酷な旅(オレゴントレイル)を再現するボードゲームを考案しました。

このアイデアには、当時ルームメイトだったのビル・ハイネマン氏ポール・ディレンバーガー氏(共に数学教師でアマチュアプログラマー)が加わり、ボードゲームをコンピュータゲームとして開発することを決意しました。彼らは、学校のテレタイプ端末(当時の大型コンピュータと接続するタイプライターのような機械)を利用して、文字ベースのシミュレーションゲームを作成したのです。

このゲームでは、生徒たちが補給物資の購入、旅のペース管理、食料調達、危険回避などの意思決定を行いながら、西部開拓の旅をシミュレーションするというものです。生徒たちは盗賊や野生動物との遭遇、食糧不足など、さまざまな困難に直面しながらもゴールを目指して進んで行くのでした。

このゲームは教室で大成功を収め、生徒たちは授業後も列を作り、教室にあるたった1台のテレタイプ端末で夢中になってプレイしました。しかし、当時のコンピュータはメモリーが限られており、ゲームプログラムデータはわずか1週間で学校側に削除されてしまい、唯一残ったのは、ゲームコードが書かれた数枚のメモだけでした。


2. 奇跡の復活(1974年)

それから3年後の1974年、驚くべき展開が起こります。
この頃、ゲームを考案したドン・ラウィッチ氏は、ミネソタ州教育コンピュータ協会(MECC)という非営利団体で働いていました。MECCは、学校にコンピュータを導入し、教育ソフトウェアを普及させることを目的とした組織でした。

ある日、ドン氏はオレゴン・トレイルのゲームがMECCの教育プログラムに適しているのではないかと考え、彼は自宅に保管していた800行のコードが書かれた紙を取り出し、週末を返上して、再びコンピュータに打ち込み直しました

MECCがこのゲームをミネソタ州の学校に無料で提供した結果、生徒たちの間で爆発的な人気を誇るようになりました。MECCはこの成功を受け、ゲームライセンスを他の州にも販売・提供し始め、やがて5,000以上の学区(全米の3分の1)がこのゲームを導入しました。


3. Appleがゲームの運命を変える(1978年)

この頃になると、MECCは教育用コンピュータの供給元を探し始めるのですが、そこにあるスタートアップ企業が候補に挙がります。その企業の名前はApple($APPL)。スティーブ・ジョブズ氏スティーブ・ウォズニアック氏が率いるこの会社は、自社のApple IIで教育市場参入を目論んでいたのです。

そして1978年、MECCは500台のApple IIを購入。それに伴い、オレゴン・トレイルはこのコンピュータ向けにアップグレードされ、教育ソフトウェアとして導入されました。この決定により、Apple IIは教育機関での標準的コンピュータとしての地位を固め、『オレゴン・トレイル』もさらに普及することになりました。


4. 収益化と6億ドルの買収

1980年代には、オレゴン・トレイルは全米で最も人気のある教育ソフトウェアに成長していまた。一方で、MECCは本来の非営利団体から営利企業へと移行し、オレゴン・トレイルの売上は年間1,000万ドル(MECCの収益の3分の1)を占めるまでになっていました。

この成功を受け、MECCは1994年に株式公開(IPO)を果たし、株価は初日で2倍に上昇したものの、翌年にはThe Learning Companyに買収され、さらに1999年にはMattel($MAT)に35億ドル(現在の価値で約66億ドル)で買収されました。

しかし、Mattelは教育ソフトと玩具の統合に失敗し、この買収は1日あたり100万ドルの損失を出すという散々な結果になりました。最終的には買収指示したCEOが解任される事態となり、MECCは消滅しました。


5. オレゴン・トレイルが遺したもの

オレゴン・トレイルは、世界で累計6,500万本以上を販売し、現在もiPhone、PS5、Nintendo Switchなどでプレイ可能です。また、ボードゲーム版や、ゾンビ版の「The Oregon Trail」など、様々なスピンオフも誕生しています。

この成功から学べる教訓は次の4つです。

  1. 「まずは作る」ことが最優先
     製品がユーザーに愛されれば、後からでも収益化は可能です。

  2. ソフトウェアはハードウェアを売る
     オレゴン・トレイルはApple IIの普及を後押ししました。

  3. 知的財産の重要性
     開発者たちは著作権をMECCに譲渡したため、ゲームの成功から利益を得られませんでした。

  4. MVP(最小限の完成形)の価値
     最初のバージョンはシンプルでしたが、成功の基礎を築きました。

たった10日間の開発で生まれたゲームが、最終的に60億ドル規模の企業取引につながったことは、まさにビジネスの奇跡と言えるでしょう。

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より詳しく知りたい人は元のTBOY Youtubeをチェック!
Youtube: https://youtu.be/n4dPd7LLb4k?si=VnTg0Lo-5bzrNYsy


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