病葉草子/京極夏彦と指先から虫を抜いた話
京極夏彦新刊は「虫」らしいと聞いて大喜びで書店に走りました。
時代物で「虫」と言えば、疳の虫とか三尸の虫とか相場が決まっており、古書肆のシリーズが妖怪に擬えた推理モノなら恐らく今回のは「虫」に擬えての某と推測しました。
果たして予想はほぼ的中し、しかも全体の構成やら文体やら流れやらがたいそう好みだったお陰で、それなりの厚みながら出先にも持って行って一気に読了する程の面白さでありました。
妖怪シリーズと巷説の読者には丁度よい箸休めなのではないでしょうか?
ネタばれしない程度に詳細をお知らせすると…。
それぞれの「虫」の特徴に沿った短編が八編収録されております。
物語は事件モノです。
長屋の差配さんと店子の一人(生業不明の学者風の男で膨大な知識を持つ)がメインとなり長屋や街中で起きた事件解決に際して、件の学者風店子が虫を例えにしつつやんわりとまとめて行くと言った流れになります。
個々の短編は独立したお話ですが、最終話に至るまでにそれぞれが僅かずつリンクしていきます。また、他の京極シリーズの読者は「お!」となるサービス(なのかな?)もあります。
単純な推測なので外れる可能性満々ですが、過去作から考えると文庫で各話が分冊になるのかなぁ?と思っています。出先で手軽に読まれるならそれを待つのもよいかもです(分冊されるならね…)
さて、思い出話のコーナーです。
わたくしは6歳くらいの頃に町内のお医者さんで「虫封じ」をしてもらったことがあります。虫封じができるのはその一軒だけでしたが、通常はフツーの内科と小児科の開業医院で、長じてから親に聞いたところそちらの先生が個人的に東洋医学やら民間伝承などを研究されていた為に、医院の受診時間以外にお願いすると「おまじない」的な処置をしてくれていたのだそうです。この時の付き添いは祖母でした。そして祖母は依頼する施術をおまじない的とは考えておらず、真剣に「虫封じ」が有効な手段と信じておりました。
確か午前中で学校が終わった後に連れて行かれた記憶があるので、恐らく土曜日の午後の事だったはずです。普段から風邪や腹痛などでも診て頂いているお馴染みの先生の所に、何故どこも痛くないのに連れて行かれるのか判らず不安に感じていた覚えがあります。
施術の詳細はほぼ忘れてます(スイマセン;)
祖母と先生が話していたのをぼんやり眺めていたのと、先生が温いお湯を洗面器に張ったのと(これ、部屋のストーブの上の薬缶から注いで水で湯温調節したのは覚えてる!)(つまり、そんな季節だったんだ…!)、白い布(タオルじゃなくて真っ新な日本手ぬぐいみたいな木綿の布)を用意して、洗面器に両手を浸け、それを先生がマッサージ的な動きで撫でて、湯から手を出して布で拭くを二度くらい繰り返し、診察台(上に横になるちょっと高さのある簡易寝台みたいなやつ)(深いグリーンの合皮っぽいカバーだった)に両手を広げて乗せるよう促され、手をさらに布で丁寧に拭っていると指の先から白い糸のようなものが出てきたところのみ、妙に鮮明に覚えています。(その前に何かもっと施術っぽい事をしたような、しなかったような…)
先生はそれをピンセットで抜いて祖母に見せ、これで虫は抜けたから大丈夫と告げました。
これに祖母が施術料を支払ったのかは不明。家まで手を引かれて戻った筈ですが、そのあたりの記憶は全く残っていません。
これが何であったのかずっと疑問で、あの指先から出てきた糸状の物体も謎で、もしかしたら夢を現実と思い込んでいたのかもしれないと、そーとー大きくなるまで家族に話すことはありませんでした。
結局、自分の子供を連れて実家に行った際に、夜泣きの話題となり、乳児から幼児になり小児となっても私は夜中に突然目を覚まして大泣きする子供だったので疳の虫を封じるためにあの記憶にある「虫封じ」を父親の懇意にしていた医師に頼んだのだと教えてもらいました。
でもさらに時が過ぎてネットで虫封じやら疳の虫やらを検索してみたところ、あれはトリックのようなモノで元から虫など居らず、糸状の何かは手を拭った布の繊維で、嘗てはそうして虫を抜いたからと安心させる民間処方が行われたいたのだと知りました。
あれもおまじないの一種だったみたいです。
京極先生の新刊「病葉草子」を読んで、そんな事を思い出しました。