ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたのか 第44章
ただ1人打ったからって勝てるものでもない
今年から落合は、YouTubeで『【公式】落合博満のオレ流チャンネル』を開設して、野球を様々な角度から語ってくれている。
これまで公表されていなかった現役時代のトレード話や監督時代の逸話が聞けてありがたい。
最近、ネット上に事実でない情報が数多く上がっているため、自らが事実を語ることにしたのだという。
その中で、私も、印象に残る言葉がいくつも出てきている。
その1つが、インタビュアーから、ヤクルトの村上宗隆が本塁打王と打点王を獲得することが優勝につながってくるか、と聞かれたときの答えだ。
私は、その言葉を聞いて、落合の現役時代の成績を思い浮かべていた。
1981年:打率.326、33本塁打、90打点 首位打者
1982年:打率.325、32本塁打、99打点 三冠王
1983年:打率.332、25本塁打、75打点 首位打者
1985年:打率.367、52本塁打、146打点 三冠王
1986年:打率.360、50本塁打、116打点 三冠王
1989年:打率.321、40本塁打、116打点 打点王
1990年:打率.290、34本塁打、102打点 本塁打王、打点王
1991年:打率.340、37本塁打、91打点 本塁打王
これが落合がタイトルを獲得した年の打撃主要3部門の成績だ。当時は130試合制だったから、現在の数字に換算するなら本塁打と打点は1割増しになるだろう。
目がくらむような好成績ばかりなのだが、このすべての年において、所属した球団はリーグ優勝を逃している。
つまり、落合がどれだけ打者として、全選手の中で突出した成績を残そうとも、リーグ優勝には届かなかったのだ。
だからこそ、冒頭の「ただ1人打ったからって勝てるものでもない」という発言が力を持つ。
2004年に落合が中日の監督に就任して目指そうとしたのは「投手を中心とした守りの野球」。
点を取らなければ勝てない野球というスポーツにあって、1点もやらない負けない野球を目指したのだ。
その選択が間違いではなかったことは、実績が物語る。
落合が監督時、中日がリーグ優勝を果たしたのは2004年、2006年、2010年、2011年。
そのすべての年で、チーム防御率がリーグ1位だった。逆にそのすべての年でチーム本塁打数は1位ではなかった。チーム打率とチーム得点が1位になったのも2006年のみだ。
そして、監督最終年の2011年は、チーム防御率2.46でリーグ1位ながら、チーム打率は.228でリーグ最下位。
そんな中日は、2位に2.5ゲーム差をつけてリーグ優勝を果たすと、クライマックスシリーズを勝ち上がり、日本シリーズで圧倒的戦力のソフトバンクに3勝4敗と、あわやのところまで詰め寄った。
まさに、落合理論の集大成だった。