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死者から生者に向けての温かいメッセージが救いになる ~「千の風になって」レビュー~

一緒に暮らしてきた愛犬を亡くして、音楽に癒しを求めた私。

死を悲しむ歌は、世の中に結構ある。
ヒット曲も多くて、聴きあされる。

しかし、「この曲は、きっと悲しみを癒してくれるだろうな」と思っていた曲をいろいろ聴いてみても、意外と癒されない。

確かに死を悲しむ歌だけに、今、共感はできる。
やっぱり悲しいよね。苦しいよね。辛いよね。もう1度会いたいよね。

でも、そこまでで終わってしまう。
悲しみを共有し、共鳴できるものの、それ以上先には行けないのだ。

そんな中、唯一、私の癒しになってくれたのは、秋川雅史さんの「千の風になって」である。
テノール歌手によるクラシックの楽曲ながら、ミリオンセラーとなった奇跡の名曲だ。

秋川さんが抜群の歌唱力で朗々と歌い上げる。メロディーも切なく、情緒がある。

それに加えて、特筆すべきは詞だ。作者不詳の英語詩を新井満さんが翻訳して曲をつけている。

私が癒されない他の楽曲の詞は、生者が死者を想い、悲しんでいる内容だ。
それに対し、この「千の風になって」は、死者が生者を想い、慰めを与えてくれる。

風に、光に、雪に、鳥に、星に。死者が私たちをとりまくさまざまなものや生物になって、私たちを見守っているよ。
いつも、そばにいるから、もう悲しまないで。

そうやって、死者から生者に向けて、温かいメッセージを送ってくれる。そもそも、この歌は、死者が死んでいることさえ否定している。体から魂が抜けても、魂はずっとそばにいるよ、と。
救われた気持ちになる歌なのだ。

生者は、死者に「幸せな生涯だったから、これからもずっとあなたのそばにいるよ」と言ってもらいたい。

その生者の欲求に寄り添うように応えてくれるからこそ「千の風になって」は、クラシックでありながら、世間の多くの人々に愛されているのだ。

死者の想いは、もはや生者には分からず、あくまで想像でしかない。

だけど、生者は、死者を愛するがゆえに、死者も生者を愛してもらいたいのだ。
「生者は、自分勝手だ」と言ってしまえば、それまでなのだけど、「千の風になって」は、死者からの愛を感じられる楽曲だからこそ、傷ついた生者の心を救い、癒してくれるのである。

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