犬山城最古説に異論?移築説の補完にならないか?
先日の毎日新聞WEBに掲載された犬山城最古説の検証記事が秀逸だった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/9f3da356a3f1a108b17d5204e9bc8fce7558e8c1
アーカイブ化されてしまう前に少々まとめておきたいと思う。ちなみに筆者は犬山城移築説と1600年代に今の形になったという見解が正解であると考える。すなわち最古の建物かどうかではなくて犬山城が今の場所にあったのかなかったのかを先に議論しなければならないと考えている。
そのためには白帝文庫が所持している古文書や資料の解析が待たれるのだが、これまで歴史的な文献が白帝文庫から発見されたという報告はない。それどころか解析をしているのかどうかも不明瞭である。
では本題をまとめてみよう。
築城年を科学的に解析することは可能?
犬山市によると、三重4階の犬山城天守の木材39点の年輪を調べ、年輪幅などから伐採年代を特定した。樹皮まで残る1階の柱は1585年、4階の床のはりは88年の伐採と判定し、ほかにも推定85~88年伐採の木材があった。
伐採の年代を特定したとあるが、疑問に残るのは`特定方法`だ。三重4階の天守の木材39点の年輪の年輪幅などから伐採年代の特定を図っているようだが、本当にそんなことができるのだろうか。
詳しく解説されている個人の方のサイトを見つけたのでそこから抜粋すると以下の方法で伐採年代が特定できる。
“生育環境(日照・寒暖・雨量・災害等)を反映して年ごとに年輪の幅に広狭の差が生じる性質を利用すれば、樹皮直下の白太(しらた)と呼ばれる最も外側の年輪部分まで測定可能である場合には、その年輪と既存の標準とする暦年の確立した年輪変動パターン(暦年標準パターン)とを照合することで、伐採年を特定することが可能だ”
この手法を「年輪年代法」と呼ばれ、日本では1980年代から用いられている建築物の木材の年代測定方法だ。この手法を用い特定できた古代の建築物にならの法隆寺、平城京などがある。なるほど納得、この手法なら木の年代特定はできる。
ただし、伐採年代が特定できただけで、建築年代を特定するには至らない、と思う。
そこは科学的な検証資料以外に歴史的な文献資料が必要で、これまでに犬山城が建築されたという文言が見つかっているのは江戸時代中期に書かれた文献しか残っていないからだ。
勇足までは言わないけど市長の発言は慎重に
今回の木材の年代特定が科学的に根拠を得たとして犬山市は市長発信で「犬山城は科学的に建築年代が日本最古であると確認された」と発言している。この発言には多くの研究者、有識者、市民までもが首を傾げている。
また、市の観光案内用HPにも「日本最古の現存天守」として大きく書かれている。現存天守として最も古いかどうかは置いといて、歴史的な文献(一次情報という)に基づいた根拠は何も示されていないのに市長がこの発言を世間に発信するのは少し早計ではないだろうか。
築年年代を検証するには、まず犬山城が最初からそこにあったのかを検証する必要がある。なぜなら「犬山」こそ室町時代以前からあったと確認されているが、これまでに発見されている古地図には今の場所に「犬山城」と書かれた古地図は見たことがないからだ。それどころか「三光寺山城」との表記がある古地図まである。有識者や研究者が建築年代が疑わしいとする根拠はここにあるのだ。
活発になるか?犬山城移築説
犬山城を研究している一部の有識者、研究者の中には、犬山城は移築されて1602年に今の場所へ建築されたと唱えている方がいる。いわゆる「犬山城移築説」だ。1602年は徳川家康が天下を取った2年後である。
徳川がここに犬山城を建築したのは豊臣方の残党への牽制だとされている。事実、1600年以降、徳川政権は安泰とは言えず、3代目家光が就任してから磐石な徳川政権が敷かれているのだ。まだ戦後の1602年に豊臣方牽制のため築城する、武器を整える等はあり得る、しかも犬山市の見解で間違っているのは1602年に成瀬家が犬山を治めていたとする間違った歴史認識を現在もつづく成瀬家に忖度していることだ。
成瀬家に犬山城が渡ったのは1600年以降、つまり関ヶ原の合戦以降である。犬山城が尾張から美濃を監視する、木曽川の水運利用権を徳川家のものにする目的があった事は昨今の尾張徳川藩の研究で明らかになってきている。
徳川幕府は木曽川の水利権を独占、木材の運輸業を事業としていたため、木曽川沿いのまちまちに奉行所を置き、監視していた事は有名だ。
犬山城は水利権利用のための屯所みたいなものでもあったと筆者は考えている。その証拠に江戸時代の犬山には商人が集まり商いが活発に行われていた。今でも残る城下町の古い建物はその名残とも言える。
木材の伐採年代がはっきりした所で、今後は移築説と建築年代の議論が活発になるか、そこを期待したい。
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