「双騎」を観劇したら、手元が薄緑色に光り出していた・・・・・・
膝…………
人体の一部のことだろうか。
靭帯の表側のことだろうか。
いいえ、人名です。正確には、ひとではないけれど。
諸般の事情により、大きな客席もおよそ半分、ただでさえ入手の難しい舞台芸術にお呼ばれするためのチケットが、幸運なことに手元にミーっと発券されることになった。(この音はご存知、コンビニの払込票が出てくる音だ)
ミュージカルを観たことがあるだろうか。私は自分のお金で伺うことになったのは、初めてなのだが。
皆様の記憶にも新しいかもしれない、丁度その晩に地上波でもきらめきを放っていた、ミュージカル『刀剣乱舞』の最新公演、「髭切膝丸 双騎出陣 2020」について、お話ししたい。
2015年の配信開始以降、今もCM等で世の中を賑わす、刀剣育成シミュレーションゲーム「刀剣乱舞」。刀の付喪神である刀剣男士と歴史を守ることを主軸としている作品だ。これを原作とした舞台は2通り存在する。
舞台化と言われて想像しやすい、緻密に練られた脚本、剣戟を通して観客を魅了する「舞台『刀剣乱舞』」、
もう一つが、先の点に加えて歌を魅せるという特徴をもつ、なんと場面によっては光る棒を振ることもできる「ミュージカル『刀剣乱舞』」だ。
※ちなみに
舞台『刀剣乱舞』に出演する俳優がわんさか集結した実写作品『映画刀剣乱舞』に関する記事はこちら。
塚口サンサン劇場にて、推しの名前を初めて声に出した話
https://note.com/inutomame/n/n85f052706614
刀剣乱舞のメディアミックスは多く存在する。私は自分の好きなキャラクターが登場するものを中心に見つめていたので、今年に入るまでミュージカル刀剣乱舞については履修したことがなかった。きっかけは無料配信だ。諸般の事情により、春の公演が道半ばで中止となる。時を同じくして、運営の意図を計り知ることはできないが、本来お金を払って鑑賞すべき10作品が、毎夜配信されたのだ。
紅白歌合戦で妖艶な笑みを浮かべていた、妖刀として名高い村正の表情が忘れられなかった私は、刀ミュ(ミュージカル『刀剣乱舞』の略称)が大好きな方の熱い後押しもあり、全部の公演をテレビの前で応援することになった。結果は今日だ。触れるということは知ることと同じだ。今まで知らなかった刀剣男士達、そして彼らを魅せるための芸術の粋を数時間、それを10日間触れ続けたなら、大好きになってしまうに違いない。
おすすめしてくださった方。本当にありがとうございます。ただでさえ楽しい暮らしが、間違いなく、豊かになりました。
インターネットを通して、全国津々浦々のファンとテレビの前で光る棒を振る。違う屋根の下にいる見えない光は、文字に姿を変えてタイムラインに流れてくる。
感想や考察、言葉になっていない感嘆詞を見ていたら思ってしまったのだ。画面に映る、たくさんの光る棒の中で、自分もそれを振れたら。
緊急事態宣言が明けてからしばらく経った頃、「双騎」再演のチケットの先行受付が始まった。無料配信が終わってから、反射でファンサイトに入っていたと思ったら、・・・・・・あましんアルカイックホールの前に立っていた。
席に着くまでに、緊急連絡先の登録、人と人との間隔の厳守、体温の測定、両手の消毒、半券の非接触切り離し(セルフでちぎるのだ。背徳感があった)、ロビーのベンチの封鎖、私語を慎むためのプラカード――と、数々の対策と遭遇する。誰もいない両隣の座席だってそうだ。入り口にて、片手で消毒液を受けようと思ったら、必ず両手を出して欲しいと制止された。
先日うかがった刀剣乱舞の展示会でもそうだったが、感染対策が隅々まで行き届いている。多方面に感謝しつつ、双眼鏡を膝に、端末の電源を切って、舞台の幕が上がる。
(以下、 「髭切膝丸 双騎出陣 2020」のネタバレを多く含みます)
ミュージカル『刀剣乱舞』は、主に2部構成となっていることが多い。1部では歴史という重厚な題材をベースにした舞台を、2部では光る棒舞う歌と踊りを楽しむことができる。そういえば、昔観た宝塚歌劇団に近い構成だ。
歴史に疎い故、日本史については刀剣乱舞のメディアミックスから知識を吸収しているといっても過言ではないため、事前知識も何もない。そのため、物語の流れを説明してくれる語り部の存在がありがたい。
髭切と膝丸は源氏に伝わる重宝だ。長い時を経る中で、様々な者の手を転々とする。今回の舞台では、彼らを握った人物にまつわるエピソードのうちの一つ、「曾我兄弟の仇討ち」を扱う。なんとこの兄弟を、髭切と膝丸が「演じる」のだ。
画面の前で何度も見かけていた、すらりとした白い服と品良く締まった黒い服に身を包んでいた二人が、幼少期から青年期までを見事に演じ切る。
仲睦まじい幼子の時は、あどけない表情を顔一杯に広げ、指の先も赤子のように丸く。剣術を始めた時には、刀の軌道もおぼつかなく。
身も技も成長し、舞を披露するときには背筋がひやりとした。扇子の金色がこっちを見ている。最期の時を迎える様の、痛々しさ、つかの間の会話も息をのんでしまった。きっと、全ての場面に私の知らないあらゆる高い技術が要されるのだろうと、しみじみ感じ入ってしまった。
主人公二人だけではなく、もう二人、重要な人物も登場する。曾我兄弟の敵役である工藤祐経と、主人公たちの母である満江御前だ。
敵役のまがまがしさと、格好の良さよ。お化粧が気になって、何度も双眼鏡を覗いた。あれは歌舞伎の隈取りだろうか、青色だからいかにも敵役らしい。髪飾りが花火のようで勇ましく、マントが悪のヒーローみたいだ。舞台上で唯一飛び道具を使用し、何度も致命傷を与えてくるのがずるくて良い。その時代の将軍に仕えたという背景から考えると、きっと彼は誰かのヒーローでもあったのかもしれない。
そして母について。役名としては瞽女にもあたる。
舞台の始まり。一番はじめに物語を告げた、性別の分からない謎の語り部がベールをとると、母に早変わりした(時折僧侶に早変わりすることもある)。曾我兄弟を愛し、愛され、想い離れる親子。兄弟は生き抜いたのちに事切れ、母が後世に二人のことを伝えんとする所で、幕は下りる。
最後の言葉が耳に入った瞬間、冒頭で物語を始める言葉を発した彼女と繋がった。語り部として舞台に立つ時、黒いベールを纏っていたのは、喪に服していたからか。この舞台は、兄弟のことを後世に伝え続けた、母の物語でもあったのだ。
1部で一番印象に残っているのは、飛び散る血しぶきに見立てた花吹雪だろうか。鮮やかで美しく、どうしようもないことが一目で分かってしまった。
幕間のために客席に明かりが付いた時、時刻を確認すると約1時間が経過していた。体感時間では、もっと短かった。濃密な時間を過ごすことができたのだろう。
30分の休憩が終わりかける時、撮影禁止のパネルを持つ男性から、「客席が実質半分のため、ミュージカルを盛り上げるために観客の力を貸して欲しい」旨のアナウンスがあった。2部の幕が上がった時にも、敵役から「拍手で思いを伝えて欲しい」という言葉もあった。これは、持てる全ての光と拍手で存分に応援せねばならない。のに、
光る棒ことキンブレを、1本しか持ってきていなかったのだ。
自宅には計4本あるのだが、1本は別のジャンル専用の棒、残り2本は色調整ができる機種ではあるものの、スマートフォンと繋げる専用ケーブルが見当たらないため色の設定ができない・・・・・・
と思ったら出てきた!天才だ! でもiPhoneの穴と専用ケーブルを繋ぐためのケーブルがない!詰みだ!
と、このように前日わちゃわちゃして、こんなこともあろうかと用意していた、無線で色設定できるキンブレを手にして今に至っていた。
両隣の、本来なら座りたい人が大勢いたはずの座席が脳裏をよぎる。脳裏をよぎるもなにも、横に視線を向ければすぐに目に入った。やはり、隣の席の分も光る棒を持ってくる必要があった。次の機会までに、6本持つ練習、ならびに6本揃える経済力をつけようと決心する。
2部の話を始める。唯一手元にあるキンブレを、髭切と膝丸の2色を設定していた私は、薄い黄色を点灯させていた。髭切の色だ。なぜか。
知っているは愛着に繋がる。髭切が実装された当時、私はメッチャ喜んでいた。滅茶苦茶好きなロボットアニメの主人公と同じ声優の方が、中の人を務めていたからだ。その方が声を吹き込んだ男士が実装されたら5000円課金すると、過去に宣言していたこともあった。課金した。
下心が先行した興味だったが、興味は知るに繋がり、知るは好きとなる。そうして薄黄色のライトを点灯していたのだが。ここであることに気付く。
私、膝丸との距離が近くないか?
兄弟刀とされる髭切と膝丸はふたりで一組になることが多く(当たり前だ、現に今「双騎」として公演を行っている)、舞台の正面にも二人で立つことが多い。その際、上手側に膝丸が来ることが多いのだ。私はそちら側の客席に座っていた。
予習していた初演のCDの中で、一番好きな曲である「クロニクル」がはじめに登場した。服が・・・・・・クラシカルで耽美で可愛らしく格好いい・・・・・。この時は周りと動きを合わせるのに必死で、考える余地無く薄黄色を振っていた。この曲、サビ直前で転調する所が最高に好きなのだ。生で聴けて、拝見できて良かった。
ふたりの曲が続く。膝丸の視線の先に薄黄色を点灯させることに一抹の気まずさを感じ出す。目の前に強火の髭切ファンのお姉様がいるのも理由の一つだが。でも気づきもあるのだ。1部で印象的だった、花を携えている場面から、わたし、膝丸を見ていることが多くないか・・・・・・?
知らないうちに着替えが入る。また膝丸がこちら側にいらっしゃる。どうしても見てしまう。また気づきがある。そういえば1部の時から、彼のビシと音が立ちそうな振り付けのことばかり見ていないだろうか・・・・・・?
次のお歌にて、本格的に色について迷い出す。強火のお姉様の丁度後ろの辺りにいるので、あわよくば髭切の視線がもらえるのではないかという考えも頭をよぎる。でもそういうことじゃないのだ。なぜか、自問自答をし続ける。
膝丸のソロ曲が来た。すかさず薄緑色の光に変更する。衣装が・・・・・・膝丸は普段から黒色の服を身に纏っているが、すらりとした黒にぴちりと光を反射する素材は、、、人類の共通認識で例えるなら、峰不二子のバイクスーツみたいな素材だと言えば判ってもらえるだろうか。艶の権化・・・・・・
歌詞 ア、アモーレ!!??? 赤い布が宙を舞う。ウワーーッ・・・・・・お立ち台と化す椅子も登場する。目の前を行き交う、躍動する美術品と化した腰、足、黒、艶・・・・・・
宗旨替えを決めまーーーーす!!!!!
薄緑~~~~~~~~~!!!!!!!!
ちなみに先ほどまで点いていた薄黄色も、色の設定をどこで誤ったのか、微妙に緑がかっていたのだった。もしかして全部膝丸色では。偶然は一致する。前日に色設定していた時から、今日のことは暗示されていたのだ。今までどうして刀ミュの膝丸の魅力に気づかなかったのだろう。どんな時も兄を立てる奥ゆかしさ故か? 弟の鏡なのか?
獣!!!!(ミュージカル刀剣乱舞でほぼ毎度披露される人気曲のことだ)
はじめてポイの演出を生で拝見した! 配信の時から、細い棒をくるくる回して平面に絵柄を表示させる様子に見入っていたが。回し始める前、きらきらと点が連なっていく瞬間が大好きなのだ。あの点滅は見間違いではなかった。美しい――――全部が――――
もう駄目だ 膝丸の動きが機敏だ 元々蛇らしいという印象を抱いていたが 蛇のもつ印象が全て艶に昇華されていく。助けてくれ・・・・・・
この文を書いている中で思い出した。
はじめてミュの片鱗に触れたあの紅白歌合戦で、パフォーマンス開始前は村正の腕組み微笑みに吸い込まれてしまったけれど、
メインテーマ曲のパフォーマンスの中で一番覚えているのは、膝丸が刀くるくるしながら舞台前方に走り込むシーンだったということを・・・・・・・・・・・・。
言わずもがな、兄者も大変だ。柔らかな、重力と相反する指先、体重のかけ方、髭切のふわふわとして掴めない所が完全に合致している。どこぞの木村拓哉の声帯をもつ魔法使いみたいな、ふわりとした服が本当に本当に似合っていた。髭切のどこで発した言葉だったかな、いい子いい子はずるいですね。この兄弟やばないか。しかし、ダークホース過ぎたんだ、弟が・・・・・・
は~ 来て良かった、
ぬ、脱~~~~!!!!!(片腕を脱ぐ演出があった)
歌舞伎で片腕脱ぐ演出のあれ、当時の観客は色めき立っていたのだろうなと想像していたが、身をもって知った。伝統芸能の流れをくむ演出に感謝の念が溢れ出る。右肩を見つめることに全神経を集中させた。
最後の最後に、いつもの彼らの正装だ!! 髭切の肩にかかった白いジャケットがふわふわしていて優雅で美しい。膝丸は・・・・・・もう今までと同じ目で見ることができない・・・・・・黒のジャケット・・・・・・とてもよく似合っておられます・・・・・・太ももを縛った白色の紐・・・・・・オ・・・・・・
日本博の映像の時からも二人は語っておられたけれど、「困難な時期だけれど一緒に」と、何度も言葉で寄り添ってくださっていた。席を立つ時、会場から足を踏み出す時に、来た時よりも力がみなぎっていたのは、確かだ。
私たちも彼らを支えたい。この日記で両隣の空席分の感想になっただろうか。
本当に有り難いことに、新撰組の刀達が活躍する舞台にもお目通りできることが先日決まったため。ひとまず目に見える努力として、光る棒4本持ちから練習したいと思う。棒の動きについても。両隣に加えて、目の前も間隔が空いている分、周りの動きに合わせるのが難しかったのだ。まずは棒を揃えるところから始めよう。
膝丸に寄せる怒濤の想いの連なりの中に書く場所を見失ってしまったのですが、瞽女(母)の舞、凄まじかったですね・・・・・・。日本の伝統芸能の早着替えを何度も目の前で繰り広げられてしまった。女よりも女らしく、少女よりも少女らしく。クラシックの旋律だけが響く中、髪を撫でながら舞いかける姿を追っていると、何度も妙齢の女性を、可憐な少女をその姿に見てしまった。
アニメのキンプリこと、「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」をご存知の方なら判ってもらえると思うのだが。歌舞伎の家元の跡継ぎである太刀花ユキノジョウさんがプリズムジャンプをした時、溢れ出る艶に父上がウワッと吹っ飛ぶシーンを覚えているだろうか、完全にあの顔を私はしていた・・・・・・。マスクをしていて本当によかった。勿論、髭切と膝丸が舞う時もだいたい歯をギュッと食いしばっていたため、全編を通して顔面を助けられてしまった。
こうして、終演直後にtwitterで呟いた 膝・・・・・・ の3文字に込めた万感の思いを連ねて、「髭切膝丸 双騎出陣 2020」の感想日記と相成りました。
私、村正の微笑みからはじまり、のちに堀川君に目が釘付けになり、巴型薙刀を会員証に選択し、膝丸から目が離せなくなった訳ですが。この先、真剣乱舞祭のような刀剣男士大集合公演が開催される事が叶って、皆が出ることになり、その場に臨めるなら。一体うちわは、光る棒の色は、何色にすれば良いんだろう。
膝・・・・・・・・・・・・?
終演後、会場の隣の川に映り込む街頭がきれいだったので撮影したら。
街路樹の色が光と相まり、水面には薄緑と白の明かりが点々と続いていた。
双騎じゃないか・・・・・・