犬のピピの話 256 またまたの不良娘
それは、夕方、わたしと散歩に出かけた時のことでした。
うちの前の古い道路を東へしばらく行くと、南の山に向かう細道と、切り石の階段があります。
その石の階段の上には、金比羅(こんぴら)さまという、船旅の安全を守る神様がまつられています。
どうして船旅かというと、わたしが生まれる前頃まで、海の草原は塩田(えんでん)で、海水から塩をつくっていました。
その塩を運んでいく船が、このあたりにたくさんあったのです。
わたしの祖父も、曽祖父も船を持ち、大阪へ海の旅をしていたそうです。
そしてうちは、船乗りたちを泊める旅館と食堂でした。
その昔、さぞ華やかだったろう金比羅さまの、今はただ静かに桜の花が終わり、緑葉におおわれた鳥居をすぎた所で、わたしはピピの首輪から引き綱をはずしました。
なぜなら、ここの山すそにはずうっとフェンスがはってあり、わたしたちがあがってきた階段と細道のほかに、帰り道はないからです。
わたしとピピは、いい匂いのする山の空気や地面をかぎながら、鳥居の先へ進みました。
すると、木々のすきまに、のら犬がいたのです。
そう、去年、檻をしかけられてつかまらなかった子犬が、今は茶いろい成犬となっていたのでした。
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