見出し画像

犬のピピの話 166 ケモノを捕まえる

「ピピー!」
 名前を呼んでも、ピピの気配はありません。
わたしは暗い緑いろの杉の木が並ぶ分かれ道を進み、海にむかってひらけた小高い草地に出ました。

わたしは、その草地をすばやく見まわしました。
一本の梅の木が、おおきな枝を痛々しく折って立っています。
これは、去年のあの台風の傷あとなのでしょうか。

でも、ここにピピはいません。
「ピピキー!!」

わたしと母は、もう七草ではなくピピをさがして、山の中腹に建つ空家にやってきました。
その家には今、誰も住んでいませんが、庭と畑だけは手入れがされているようです。
わたしたちはその庭を歩き、畑へと上がっていきました。
すると、その畑の奥、森の手前に、ピピが立っていたのです。

こちら向きに立つピピの顔も、からだも、興奮でニカニカ笑っています。
ピピは、山の気(き)に魅せられているのでした。

「ちびきー。もう(山を)おりるよ」
 わたしがそう告げながら近寄っていくと、ピピは、にかにかの顔で逃げていきます。
ああ、山のキ・・・。

わたしとピピはそれから、森へまぎれこんでいく細道や、うち捨てられた棚田を駆けめぐり、そしてようやく、ちいさな崖のくぼみのところで、わたしはこの狂ったケモノをとっつかまえたのです。


画像1


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集