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青く澄み切った瞳の天使

わたしが出会ったすべてのいきものの中で、
未だ更新されていない断トツキレイな男の子がいます。

彼と出会ったのはオーストラリアの小学校でした。
わたし二十歳、彼七歳。歳の差十三。
当時手を出していたら即刻プリズンでしたが、
お互い大人になってしまえば乗り越えられない年ではない。

そんなことを思うほど彼は美しかった。
映画「ギルバート・グレイプ」に出てくる
レオナルド・ディカプリオのように。
溜息でるわ、ハンサム。

「小学校へ行って一年生のクラスに
ボランティアへ行ってほしいの。」

当時お世話になっていた
ホームステイ先のママに言われ、
よくわからんけど楽しそぉ。なノリで即断。

こどもは好きやけど英語話せんし
何するかわからんし、ちょっと緊張するなぁ
って思ったんが夢ちゃうかってぐらい、
すぐ馴染めたのはこどもたちがわたしを受け入れてくれたから。

そんなこどもたち、めっちゃんこかわいい。
わたし、将来絶対ハーフ産む!!
って固く誓って外国人の伴侶を割と真剣に探したほど、
みんなめちゃくちゃかわいい。

ニヤニヤはしてなかったと思うが、
割といい笑顔で毎日過ごしてました。

ボランティアの内容は付き添いだった。
具体的には、クラスに自閉スペクトラム症の男の子が二人いて、
ひとりの男の子に付き添ってほしいというものだった。
担任のポリーからそう説明されたであろうことを、
電子辞書だけでなんとなく理解したわたし、がんばった。

そして、わたしが付き添う男の子、
彼こそが運命の美少年、いや、美美美美美少年、
マットである。金髪色白ブルーアイズ。ハンサム。

海外にしばらく住んでいると、
外国人の顔にも見慣れて、好きな顔、
ハンサムな顔が段々わかってきます。

街を歩いていて目を見開いてしまうハンサムって案外少ない。
そんな中でマットに出会ったもんですから、もう…眼福以外ない。

マットはおともだちと仲良しで、
たまに強すぎるこだわりを主張して衝突したり、
泣いちゃったりすることもあったけど、
基本穏やかで平和で美しい子。

冒頭で紹介した「ギルバート・グレイプ」のレオも
知的障がいがある役で、こっちはめっちゃ元気でやんちゃ。
それに比べたらマットはだいぶ穏やかさんである。

学校に居るときはほぼマットの側に居るとは言え、
クラスの子たちともたくさん絡んで遊んだ。

歳の離れたお姉ちゃんがいる女の子が
ブラの話をしだして、どんなけオマセさんよ!
とポリーと笑ったり、数字の練習で7を鏡文字で書いた男の子に
「逆よ、逆。7はこうよ。」って書いて見せたら「doesn't matter、doesn't matter」と軽くあしらわれたり。

自分の作品を見せに来てくれる子たちや、
休み時間お外に行く時わたしと手を繋ぎたい
と言ってくれる美少女など、みんなほんとにかわいくて、
英語がスムーズに話せない異国のお姉さんにも優しかった。

ある日のおやつの時間、教室を出てすぐそこにある休憩スペース。
壁に背中を少しつけて、ちょこんとマットが座っていた。

近づいてみると、小袋に入った
小さいクマの形をしたクッキーを
ちびちびと食べていた。

そのクッキー美味しいよねぇと思いながら
隣に座り、小さいクマを袋から一つ拝借。

「タイニーベァ〜タイニーベァ〜」
小さいクマをゆらゆらさせながら適当に歌ったら
「キャキャキャッ」と声を上げて笑ってくれた。
何!その笑顔!え、CM?あなたは天使?
トトロに「あなたはだあれ?」と聞くメイちゃんばりに前のめりになった。たまらん、CM見たさに、これでもかというほど歌った。
その度に笑ってくれるマットよ…天使はこの世に存在します。

それからも、マットがクマのクッキーを持ってくるたび
歌って一緒に笑いました。

ある日の授業、絵を描く時間
マットは自分の顔を描いていました。
色えんぴつで顔の部分を塗るとき、
自分の手持ちに肌色がなかったマットは
隣の席の子の机に肌色の色えんぴつを見つけます。

あたかも、ちょっと遠くにある
自分の色えんぴつ取りますというように手を伸ばし、
肌色の色鉛筆を掴みました。それに気づいた席の子が
「やめて」と、マットから奪い返しました。

するとマットが「スキンカラー!スキンカラー!」
と声を上げさらに奪おうとしたので
「これはおともだちのよ」とわたしが間に入りました。

マットは、今にも泣きそうになりながら
自分の絵を指差し「顔はスキンカラー!」と強く主張しました。
わたしの前で初めて強くこだわりを主張した瞬間でした。

他にも、ポリーが娘の結婚を機に別々に住んでいる、
という話をたまたま聞いたマットが「ママは居なくならない!」
と突然号泣したこともありました。感受性よ…

なぜか自分のことと思い込み不安になってしまったみたい。
しばらく「ママ…」と泣くマットと「大丈夫、マットはママと一緒よ」
と優しく落ち着いたポリーのやりとりが続いた。

当時はなんて繊細!と思ったが、
自分がこどもを育てている今、
息子とマットが重なることが往々にしてある。
うちの子もバリバリこだわるし。
もしかしたらマット以上かもしれない。
秒で泣くし。

ボランティア最終日は帰国前日でした。
クラスでは毎日帰りのホームルームで、
昨日あったこと、今日の予定やみんなに
見せたいものなどを紹介する時間があります。
わたしも今日が最後ということで発表することに。

こどもたちの前とはいえ、
英語で話すことに緊張しながらも
少しずつ話し始めると、こどもたちが
わたしの顔を見て話を聞いてくれている姿が目に映りました。

こんなにもかわいくて素敵なこどもたちと、
明日から会えやんのや。と思った途端
声が詰まり涙が出た。両手で顔を覆い
声は漏れ漏れ泣いてしまいました。

そんなわたしを見たマットが
「どうしたの?なんで泣いているの?」
と何度もポリーに聞いていました。

わたしの名前を呼んでくれるマットの優しい声。
今までの出来事を思い出し、離れたくない!
マットォォォ!!と、さらに泣いた。

なかなか泣き止むことができないわたしの
背中を優しくさするポリー。そしてフワッと
頭を撫でるあたたかなぬくもりが。

顔を上げると、どこまでも澄み切った青い瞳のマットが
わたしの頭をなでながら「何で泣いているの?」
と困り顔で立っていました。マットォォォ泣泣。

最後まで優しかったマット。
最初は顔の美しさに気を取られっぱなしでしたが、
一緒に過ごすうちにその優しさ、まっすぐで自由な心、
人となりに癒され、元気をたくさんもらっていました。

そして何より、明日が来ることが
こんなにも楽しみと思えたのも彼のおかげ。
今どこでどんな生活をしとんのかなぁって時々考えます。

ディカプリオで例えるなら
ギャンブル・オブ・ニューヨークん時の歳ぐらい。
まだまだ安定のハンサムくんの予感。
やだっ、めっちゃ会いたいわぁ。


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