しぶや

渋谷は金曜日の夜に少しだけ夢を見る。いつもより多い人間を吸い込んで、吐き出そうにも吐き出せず喉に詰まらせて、目を少し潤ませ横たわる。円山町に頭を乗せて、宮益坂に足を伸ばす。思ったよりも小さい身体は、週末を考えて愕然としている。色とりどりの人間がやってくる土日を想像して、絶望している。

胃はどんどん膨らんでいき、排泄するにも仕方を知らない。誰も教えてくれなかったからと言うけれど、東京はどこもそうなのかもしれない。空まで届きそうな鈍色の電波塔が発信すること、には。

びかびかひかる街灯が、どろどろの赤黒い血を運ぶけど、大事な場所には届かない血なんて意味、あるだろうか。そう言いながら短く太い指で自分の動脈をなぞっている。爪の先は黒い垢がたまっていて、その汚い指先でたまに人間を弾いて遊ぶ。

渋谷のまつ毛は短い、眉毛は濃くて太い。渋谷の指は太い、中指が一番長い。渋谷の足はくさい、親指と人差し指の間が一番くさい。渋谷の髪の毛はくせっけ、湿度が高い日はげんなりする。渋谷の胃は大きい、あと少しだけならまだまだ飲み込めそう。渋谷の心臓は小さい、身長もそこまで大きくない。

いつからここにいるのかと聞かれれば、ずっとここにいる気がするし、明日にでも消えてしまえよと言われれば、そんな気もする。名前を変えてやると言われれば別にそれでもいいし、名前なんてないと言われれば、まあそうかもしれないと納得できる。

蠢いては騒いで壊していくあの人間たちが呼ぶから、きっとここにいるんだろうし、そういう名前なんだろう。膨れた腹を抱えて排泄の仕方を知らないまま、涙目で身体を横たえて。

#詩

もうちょっと頑張れよ、とか しょうがねえ応援してやる、とか どれもこれも励みになります、がんばるぞー。