かえる
今わたし帰っている、あなたのいたお墓の前から、東京まで電車に揺られている。
色白の肌のしたに長崎の遠い香りと、膨らんだ腹の中に佐世保の青い海をたっぷりふくませて、唇はきれいな赤色で塗ってあげて、花に囲まれた。
ご臨終です、の声を聞いてしまった。横を向いたまま脈拍数は下がっていき、一度二度、口から息を吐き出していたのに、心臓は動くことをやめたまんま、棺の中に入って行った。
さっきまであったのに、今ここにいないこと。最期にメイクをしてあなたを囲んでいたのに、実はここにいないこと。それでもあなたがきちんとそこに居たこと。でもなぜかいないこと。やはりまだわからない。太く白い骨に肉がついて、たくさんの小さな宇宙が、あなたを作ったはずだったんでしょ。
あなたは燃えていった。骨になった。写真になった。位牌になった。思い出になった。ここからいなくなった。明け方の四時五十五分に、ご臨終ですと言われてしまった。残った骨はもうすでに墓のしたに収められた。
半年がんばったあなたに拍手。意識を手放してから身体の中で闘ったあなたに拍手、わたしを愛してくれたあなたに拍手。気持ち良く眠るあなたに拍手。
長崎の青い海を今度教えてほしい。あなたの身体いっぱいにつまったそれを、今日は燃やしちゃったので、いつか、今度会う時に。
今わたし帰っている、東京のボロアパートへ。あなたもきっと帰ったはず、二十年住んでいたあのボロアパートへ。
もうちょっと頑張れよ、とか しょうがねえ応援してやる、とか どれもこれも励みになります、がんばるぞー。